個人が支払った社会保険料については、年末調整や確定申告で社会保険料控除を受ける場合、「控除証明書」の提出が必要なものと提出が不要なものに分類されます。
そこで今回は、「控除証明書の提出が必要な社会保険料と不要な社会保険料」を中心に、「社会保険料控除の概要」や「社会保険料の種類」、「控除を受けるための手続き」などを解説します。
なお、実践的な節税対策については、以下のサイトをご参照ください。
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Table of Contents
社会保険料控除の概要
社会保険料控除とは、「健康保険」「厚生年金保険」「国民健康保険」など、本人の社会保険料や配偶者その他親族が負担すべき社会保険料を支払った場合に受けられる所得控除のことです。
社会保険料控除では、1年間に支払った社会保険料の全額を課税の対象となる所得から控除できることから、保険料控除を受けることで、所得税や住民税が節税できます。
なお、社会保険関係の手続きについては、以下の記事もご参照ください。
会社設立後の税務関係手続・社会保険関係手続
社会保険料の種類
社会保険料控除の対象となる社会保険料には、以下のようなものがあります。
(1)国民年金保険料
国民年金保険料は国民年金の加入者が支払っている負担金のことで、国民年金とは日本国内に居住している20歳以上60歳未満の方が加入しなければならない公的年金のことです。
会社員(サラリーマン)や公務員などは、加入している厚生年金保険や共済組合が加入者に代わって国民年金保険料を負担をしているため、この保険料を直接支払う必要はありませんが、それ以外の個人事業主などは保険料を自分で支払う必要があります。
また、会社員などに扶養されている配偶者は、本人で保険料を支払う必要はありませんが、個人事業主に扶養されている配偶者は、本人で保険料を支払う必要があります。
個人事業主が支払った1年間の国民年金保険料は、日本年金機構から送られてくる控除証明書で確認できます。
(2)厚生年金保険料
厚生年金保険料とは、厚生年金の加入者が支払っている負担金のことです。厚生年金は、原則として会社に勤めている会社員や公務員など、組織に雇用されている人が国民年金と合わせて加入しなければならない公的年金のことです。
厚生年金保険料は毎月の給与から天引きされており、厚生年金保険の適用を受けている会社は天引きした保険料をまとめて納付しています。
厚生年金保険の加入者は、厚生年金制度を通じて、上記(1)の国民年金にも加入しており、将来は基礎年金と厚生年金を受け取れる仕組みです。また、厚生年金保険料の半分は会社が負担してくれるため、国民年金加入者よりも年金額が多くなることが特徴です。
支払った1年間の保険料は、給与の源泉徴収票で、他の給与天引きされた社会保険料の合計額で確認できます。
(3)国民健康保険料
国民健康保険料は国民健康保険の加入者が支払っている負担金のことです。
国民健康保険は、会社で加入している健康保険や公務員が加入する共済組合、船員保険、後期高齢者医療制度などに入っている人以外の方が加入しなければならない公的保険です。
日本では、何かしらの公的保険に入ることが義務化されていることから、個人事業主などは、この国民健康保険に加入しています。
国民健康保険では国民年金のような控除証明書はないことから、支払った1年間の保険料は、自治体から送られてくる納付額通知書や納付済みの領収書で確認する必要があります。
(4)後期高齢者医療保険料
後期高齢者医療保険料は後期高齢者医療制度の加入者が支払っている負担金のことです。
後期高齢者医療制度は世代間の医療費負担の不均衡を調整にするために導入された医療制度で、75歳の誕生日を迎えた人は、これまで加入していた医療制度(国保、健保、共済等)から自動的に後期高齢者医療制度に加入することになります。
後期高齢者医療保険料は年金からの天引きや窓口納付、口座振替などの方法で支払います。
支払った1年間の保険料は、天引きの場合には源泉徴収票、窓口納付の場合には領収書、口座振替の場合には口座振替通知書などで確認できます。
(5)介護保険料
介護保険料とは、介護保険制度の運営に必要な費用の一部をまかなうため、被保険者(保険料を支払う人)が支払っている負担金のことです。
介護保険の被保険者は、65歳以上の場合は全員、40歳以上65歳未満の場合は健康保険協会や国民健康保険などに加入している人となります。
介護保険料は、年金からの天引きや窓口納付、口座振替などの方法で支払います。
支払った1年間の保険料は、天引きの場合には源泉徴収票、窓口納付の場合には領収書、口座振替の場合には口座振替通知書などで確認できます。
(6)労働保険料
労働保険料とは、労災保険料と雇用保険料の総称で、この労働保険料も社会保険料控除の対象となります。
雇用保険は、失業や育児・介護などによる休業で収入が減った際に、労働者の生活を支えるために設けられた保険制度で、雇用保険料は労働者と事業主で折半して負担します。
労災保険は、労災が発生して労働者が被害を受けた際の確実な補償のために設けられた保険制度で、労災保険料は通常、会社が全額を負担します。
ただし、中小企業の役員や一人親方など、労災保険に特別加入している人は、本人が支払った労災保険料を社会保険料控除の対象にすることが可能です。
本人が支払った1年間の労災保険料は、納付済みの領収書で確認できます。
なお、労働保険料の会社側の会計処理については、以下の記事で詳しく解説をしておりますので、ご参照ください。
労働保険料の4つの会計処理を詳しく解説!!(税務や仕訳例も)
(7)国民年金基金の掛金
国民年金基金とは、国民年金とセットで、国民年金にプラスできる公的な個人年金です。
国民年金とは異なり、加入義務はありませんが、この掛け金も国民年金保険料と同様に社会保険料控除の対象となります。
支払った1年間の国民年金基金の掛金は、国民年金基金連合会などの各団体から送られてくる控除証明書で確認できます。
社会保険料控除の適用を受ける場合の手続き
社会保険料控除を受けるためには、年末調整または確定申告をする必要があります。
(1)年末調整
会社員の方は、社会保険料控除を年末調整で受けることができます。
年末調整で社会保険料控除を受けるためには、「給与所得者の保険料控除申告書」に次の事項を記入し、会社に社会保険料控除証明書を提出します。
✓社会保険の種類 ✓保険料支払先の名称 ✓保険料を負担することになっている人 ✓本年中に支払った保険料の金額 |
なお、なお、年末調整については、以下の記事もご参照ください。
年末調整のよくある質問トップ10について詳しく解説!
(2)確定申告
個人事業主などは、社会保険料控除を確定申告で受けることができます。
確定申告の場合、「確定申告書A」または「確定申告書B」に次の事項を記載して、社会保険料控除証明書を提出します。
第二表 : 保険料等の種類・支払保険料等の計・うち年末調整等以外 第一表 : 所得から差し引かれる金額 |
社会保険料控除の概要や手続きについては、以下の国税庁サイトもご参照ください。
No.1130 社会保険料控除|国税庁 (nta.go.jp)
なお、会社員の節税対策や所得控除(全15種類)に関しては、以下の記事もご参考になさってください。
会社員の節税対策はこちら:
会社員の節税対策6選!!
所得控除(全15種類)はこちら:
所得控除の全15種類を詳しく解説!!
控除証明書の提出が必要な社会保険料と不要な社会保険料
年末調整や確定申告で社会保険料控除を受けるために提出する「社会保険料控除証明書」は、社会保険料の種類によって提出しなくていいものもあります。
ここでは、「控除証明書」を提出する必要がある社会保険料と、「控除証明書」を提出しなくていい社会保険料について確認します。
(1)年末調整や確定申告に「控除証明書」を提出する必要がある社会保険料
年末調整や確定申告に「控除証明書」を提出する必要がある社会保険料は、「国民年金」と「国民年金基金」のみです。
実際に「社会保険料控除証明書」が発行される社会保険料も「国民年金」と「国民年金基金」のみとなっています。
<国民年金の社会保険料控除証明書>
国民年金の社会保険料控除証明書のサンプルは以下の通りで、赤丸部分が国民年金の社会保険料控除額となります。
<国民年金基金の社会保険料控除証明書>
国民年金基金の社会保険料控除証明書のサンプルは以下の通りで、赤丸部分が国民年金基金の社会保険料控除額となります。
(2)年末調整や確定申告に「控除証明書」を提出しなくていい社会保険料
年末調整や確定申告に「控除証明書」を提出しなくていい社会保険料は、「国民年金」と「国民年金基金」以外のもので、具体的には、「厚生年金保険料」や「国民健康保険料」、「後期高齢者医療保険料」、「介護保険料」、「労働保険料」です。
その他留意点
その他の留意点は以下の通りです。
(1)紛失した場合には再発行が必要
実際に国民年金保険料と国民年金基金の掛金について支払いがあったとしても、控除証明書がなければ、社会保険料控除の適用を受けることはできません。
そのため、社会保険料控除証明書が紛失等で手許にない場合には、年金事務所や国民年金基金などに問い合わせて、再発行をしてもらうことが重要です。
(2)生計を一とする親の社会保険料を支払った場合
社会保険料控除は、本人または本人と生計を一にする配偶者やその他の親族の負担すべき社会保険料を支払った場合に、支払った本人が適用を受けることができます。
そのため、生計を一とする親の社会保険料を支払った場合には、支払った本人が社会保険料控除の適用を受けることができます。
ただし、後期高齢者医療制度や介護保険制度では、年金受給者について、原則として、その保険料が年金から特別徴収の方法により徴収されています。この場合、その保険料を支払った者は年金の受給者本人であるため、その年金の受給者に社会保険料控除が適用されます。
一方で、市区町村等へ一定の手続を行うことで、年金からの特別徴収に代えて、口座振替により保険料を支払うことも選択できます。この場合には、口座振替によりその保険料を支払った者(被保険者または被保険者と生計を一にする配偶者その他の親族に限ります)に社会保険料控除が適用されます。
詳細は以下の国税庁サイトのQ6を参照ください。
No.1130 社会保険料控除|国税庁 (nta.go.jp)
まとめ
以上今回は、「控除証明書の提出が必要な社会保険料と不要な社会保険料」を中心に、「社会保険料控除の概要」や「社会保険料の種類」、「控除を受けるための手続き」などを解説いたしました。
社会保険料控除とは、1年間に支払った社会保険料の全額を課税の対象となる所得から控除できる仕組みであり、社会保険料控除を受けることで、所得税や住民税の節税ができます。
社会保険料には、以下のようなものがあります。
・国民年金保険料、厚生年金保険料、国民健康保険料、後期高齢者医療保険料、介護保険料、労働保険料、国民年金基金の掛金
社会保険料控除を受けるためには、年末調整または確定申告をする必要があります。
年末調整や確定申告で、「国民年金」と「国民年金基金」の社会保険料控除を受けるためには、社会保険料控除証明書を提出する必要があります。
一方で、「国民年金」と「国民年金基金」以外の社会保険料は、社会保険料控除証明書を提出は不要となります。
社会保険料控除だけでなく、年末調整や確定申告について、少しでも不安がある方は、「江東区・中央区(日本橋)・千葉県(船橋)」を拠点とする保田会計グループに、お気軽にご連絡ください。