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事業承継で金庫株を活用する方法(相続対策にも)

相続による事業承継においては、自社株を相続する後継者の納税負担の重さが問題の一つとなることが多いです。そこで、中小企業が金庫株(自己株式)を後継者から買い取ることで、後継者はその売却代金を納税資金などに充てることができます。

今回は、事業承継における金庫株について、「具体的な活用方法」や「税務上の優遇措置」、「留意点」などを解説します。

なお、事業承継対策については、以下のサイトをご参照ください。
事業承継の基礎知識を分かりやすく解説!

 

金庫株(自社株買い)とは

金庫株とは、自社の株式を買い戻し、消却せずに資産として保有している自己株式のことを言います。
以前は消却やストックオプションなど特定の目的に限定されていましたが、平成13年の商法改正で制限が取り払われたことにより、現在は取得目的・時期・回数に制限なく自由に自社株を取得できるようになっています。

この自社の株式を買い戻す行為について、会社が買い戻した後の自社株式を保管しているようなイメージから、「金庫株」と呼ばれています。

なお、金庫株で会社が保有する株式については、数量に制限はなく、株主総会や取締役会の決議で承認を得れば、株式の消却や再度の放出も可能となっています。

 

事業承継で金庫株を活用する方法

ここでは、事業承継の問題を踏まえ、事業承継で金庫株を活用する方法などを確認します。

(1)事業承継の問題とは

中小企業オーナーの高齢化が進む日本では、事業承継が喫緊の課題とされており、実際に事業を承継するまでに様々な障壁を乗り越える必要があります。

特に「株式の分散」や「後継者の相続税負担」は深刻な問題で、中小企業の事業承継を滞らせる大きな要因となっています。

これらの問題の対策として、金庫株を活用する方法があります。具体的には、次の通り、「株式分散」や「納税資金の不足」に対して活用します。

事業承継の問題(課題)については、以下の記事にもまとめておりますので、是非ご一読ください。
事業承継の課題と実行手順を分かりやすく解説!

 

(2)株式分散に対する活用方法

例えば、複数の法定相続人がいて株式分散され引き継がれた場合には、後継者に経営権を集中できなくなります。
後継者に経営権を集中できなくなると、会社の重要な意思決定を独断で行えなくなり、ビジネスチャンスを逃したりトラブル対応が遅れたりするなどの弊害が予測されます。

ここで、事業承継の株式分散を解決する方法として、金庫株を活用できます。

具体的には、後継者以外の自社株の相続人から株式を買い取って、金庫株にすることで、後継者の株式保有比率を上げ、経営権を集中させることが可能となります。

なお、相続人からの自社株の買い取りには、次の「相続人に対する株式の売渡請求制度」を使います。

 

相続人に対する株式の売渡請求制度

「相続人に対する株式の売渡請求制度」とは、自社株の相続人から、強制的に会社が自社株を取得できる制度です。この制度は、特定の相続人に株式を承継させることで、会社に不利益が生じることを防ぐために設けられています。

この売渡請求制度の条件は次の通りです。

①譲渡制限株式であること
②定款に売渡請求ができる旨の内容を定めていること
③会社による自己株式の取得が財源規制に違反しないこと

これらの3つの条件を満たす場合には、相続人に対して売渡請求を行うことができ、株主総会の特別決議・売渡請求の通知・売買価格の決定などの手順を踏んで株式を取得します。

 

(3)納税資金の不足に対する活用方法

中小企業の自社株は会社の業績に応じて株価が上がることから、業績のいい会社ほど相続税の負担が重くなります。ただし、自社株は換金性が悪く、上場株式のように市場で売却することはてきません。
そのため、後継者の納税資金が不足していると、後継者の個人資産の売却などで補うことになり、会社経営にも支障がでてしまいます。

このような、事業承継における納税資金不足を解決する方法として、金庫株を活用できます。

具体的には、後継者が相続により取得した株式を会社が金庫株として買い取ることで、後継者は取得した株式譲渡代金を納税資金に充てることが可能となります。

 

金庫株の税務上の優遇措置

相続の場面で金庫株を活用する場合に適用できる税務上の優遇措置を2つ確認します。

(1)金庫株特例

金庫株特例は、中小企業の後継者等の相続税負担を軽減するための救済措置として設けられた特例になります。

平時に会社が株主から自己株式を買い取る場合には、原則として「みなし配当課税」(株主が配当を受け取っていなくても、配当を受け取ったものとみなして課税する制度)が適用され、「総合課税」で課税されることになります。
そのため、配当とみなされる額が大きい場合には、最高税率55%もの税金がかかります。

これが、金庫株特例を活用すると、みなし配当課税は適用されず、非上場株式を譲渡した場合と同様に譲渡益に対して、一律で所得税15.315%・住民税5%の合計20.315%の分離課税で済みます。

 

金庫株特例の要件は、次の通りです。

相続税が生じていること(配偶者控除により相続税がかからない場合には、配偶者はこの特例が使えません)

②相続税の課税対象になった非上場株式を譲渡して、発行会社から金銭を受け取っていること

相続発生から3年10カ月以内に行われた譲渡であること

④売主(相続人)が、金庫株実施までに「相続財産に係る非上場株式をその発行会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例に関する届出書」を発行会社に提出すること

⑤発行会社は、翌年1月31日までにこの届出書を所轄税務署に提出すること

 

(2)相続税の取得費加算特例について

取得費加算の特例とは、相続財産の売却・譲渡で生じた利益に対して課される所得税を軽減できる特例措置です。
次の算式で得た相続税相当額を譲渡株式の取得費に加算して、譲渡所得を算定できます。

売主の相続税額 × 譲渡した相続財産の課税価額 / 売主の課税価額

この算式により得られた金額を取得費に加算することで、譲渡益を小さくすることができます。

 

取得費加算の特例の要件は、次の通りです。

①相続・遺贈・死因贈与により財産を取得した個人であること

②財産の取得者が相続税を納めていること(配偶者控除により相続税がかからない場合には、配偶者はこの特例が使えません)

相続発生から3年10カ月以内に行われた譲渡であること

なお、相続税の計算方法については、以下の記事もご参照ください。
相続税の計算方法をわかりやすく解説!(スケジュールや相続税がかかる遺産額も)

 

 事業承継で金庫株を活用する場合のその他の留意点

ここでは、事業承継で金庫株を活用する場合の留意点を確認します。

(1)配当の財源規制(分配可能額)

金庫株は配当として扱われることから、会社法上の財源規制を受けます。そのため、事業承継で金庫株を活用する場合には、分配可能額を超えない範囲で、かつ、配当を行うことで純資産が300万円を下回らない範囲で、金庫株取得を行う必要があります。

 

(2)金庫株の買取資金

事業承継で金庫株を活用するためには、会社に金庫株を買い取りするだけの資金があることが前提です。

なお、買取価額として、法人税法上の時価を採用することが実務では一般的です。

法人税法上の時価については、以下の記事をご参照ください。
自社株の「法人税法上の時価」が令和2年10月より上昇しています!

 

(3)他の株主への通知

金庫株として自社株買いをする場合には、会社法上、他の全ての株主に対して金庫株の取得情報を通知する義務が課せられています。これは、株主間で買取価格や買取機会などの面で不公平が生じないようにするためです。

事業承継で金庫株を活用する場合で、株主(相続人)によって、異なる買取価格を採用する場合には、揉める可能性が高くなるので注意が必要です。

 

まとめ

以上今回は、事業承継における金庫株について、「具体的な活用方法」や「税務上の優遇措置」、「留意点」などを解説させていただきました。

事業承継は生前に行うことが基本ですが、株式の承継を生前に行うことができない場合には、相続時に金庫株を活用することで、「株式分散」や「納税資金の不足」への対策が可能となります。

また、相続時の金庫株には、「金庫株特例」などの税務上の優遇措置もあることから、効果的に活用することで、事業承継を円滑に進められる可能性があります。

ただし、金庫株の活用には、買取価額や会社法における注意点などもあることから、事前に事業承継の専門家などに相談されることをお勧めします

「江東区・中央区(日本橋)・千葉県(船橋)」を拠点とする保田会計グループでは、金庫株活用も含む事業承継対策全般を得意としておりますので、ご興味等ございましたら、お気軽にお問い合わせください。