中小企業オーナーの高齢化が進む日本では、事業承継が喫緊の課題とされているものの、なかなか次世代への承継は進んでいない現状があります。そこで、この現状を打破し、円滑な事業承継を実現するために、種類株式を活用することがあります。
今回の記事では、種類株式について、「その概要」や、「事業承継において活用するメリット」、「活用方法」などを解説します。
なお、事業承継対策については、以下のサイトをご参照ください。
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Table of Contents
種類株式とは
まずは、種類株式の概要や種類などを確認します。
(1)種類株式の概要
種類株式とは、権利や内容の異なる2種類以上の株式を発行した場合における各株式のことです。株式は権利内容が同一であることが原則ですが、平成18年に施行された会社法により、2種類以上の株式を発行することができるようになりました。
事業承継の場面では、種類株式を発行することで、後継者以外の株主から株式を強制的に取得したり、後継者に議決権を集約したりできるようになり、スムーズな事業承継と安定した経営を実現できます。
ただし、実際に種類株式を導入する場合には、株主総会の特別決議による定款変更が必要です。また、種類株式を発行する際に、株主総会の特別決議や株主全員の同意が要件とされている種類株式もあります。
(2)種類株式は9種類
会社法で認められている種類株式には、次の9種類があります。
<議決権に関するもの>
①議決権制限株式 議決権制限株式とは、議決権を行使できる事項に一定の制限を加えて発行された株式のことです。なお、すべての事項に議決権が行使できないものは無議決権株式と言います。 ②役員選任解任権付株式 ③拒否権付株式(黄金株) |
<株式の譲渡に関するもの>
④譲渡制限株式 譲渡制限株式とは、株式を譲渡する場合に、取締役会または株主総会の承認を要する株式のことです。株式にどの程度の譲渡制限をかけるかは、定款に定めます。 ⑤取得請求権付株式 ⑥取得条項付株式 ⑦全部取得条項付種類株式 |
<経済的利益に関するもの>
⑧配当優先株式(配当劣後株式) 配当優先株式とは、剰余金の配当について、他の株式より優先または劣後させる株式のことです。 ⑨残余財産優先株式(残余財産劣後株式) |
(3)種類株式の組み合わせも可能
この9種類の株式を組み合わせて、会社独自の種類株式を発行することも可能です。会社の状況に応じて種類株式をうまく活用することで、事業承継に関する問題を解決することができます。
事業承継において種類株式を活用するメリット
ここでは、種類株式を事業承継に活用することによって得られる具体的なメリットを確認します。
なお、事業承継にご興味がある方は、初めに以下の記事をご覧いただき、基礎知識を確認されることをお勧めします。
事業承継の基礎知識を分かりやすく解説!
(1)自社株の分散リスクを回避できる
自社株が分散すると、後継者の議決権を確保できず、株式を承継したとしても、後継者による会社運営が円滑にできません。分散した自社株は株主との個別合意によって回収することもできますが、合意が必ず成立するとも限りません。
ここで、種類株式を活用することで、株式を強制的に回収できるメリットがあります。これにより、自社株の分散を防ぎ、安定した事業承継を実現させることができます。
(2)重要事項の決定権限を後継者に集約できる
後継者以外の相続人に種類株式を取得させることで、一定事項のみ議決権を制限したり、議決権の行使条件を定めたりすることができます。
無議決権株式を活用すれば、経営権を集約させることも可能です。
(3)経営権移転の時期を計れる
経営権をいつ移転するかは、会社にとって大きな問題です。後継者が若く未熟である場合は、経営権移転に慎重になるケースも考えられます。
そのような場合に、種類株式を活用して、現経営者のもとに決定事項の拒否権限を残しておくことで、経営権を移転するタイミングを慎重に見極めることができます。
事業承継における代表的な種類株式の活用方法
事業承継において活用されることの多い種類株式として「議決権制限株式」「拒否権付株式」「全部取得条項付種類株式」の3つがあります。ここでは、これらの事業承継における代表的な種類株式の活用方法を確認します。
(1)議決権制限株式(配当優先)で後継者に議決権を集約
株主は、株主総会における議決権を有します。安定した経営を実現するためには、誰が議決権を保有しているかがポイントになります。
そのため、会社の経営を阻害する恐れのある者(例えば、仲の悪い後継者の兄弟など)が議決権を保有すると安定した経営ができなくなります。
そこで、会社の経営を阻害する恐れのある者の保有する株式を議決権制限株式とすることで、後継者に議決権を集約することができます。
なお、会社の経営を阻害する恐れのある者が既に普通株式の保有者となっており、これを議決権制限株式に変更することに難色を示す場合には、配当優先の議決権制限株式とすることも考えられます。
(2)拒否権付株式で後継者の経営をモニタリング
現経営者が拒否権付株式を保有することで、株主総会で過半数が賛成したとしても、種類株主総会の決議で否決することができます。
つまり、他の株式の大部分を後継者に移したとしても、現経営者が拒否権付株式を保有していれば、現経営者が会社の実権を保有し続けることが可能となります。
例えば、後継者が若く経営者として未熟な場合に、現経営者が拒否権付種類株式を一定期間保有することで、経営をモニタリングでき、状況に応じて経営にブレーキをかけることができます。
(3)全部取得条項付種類株式で少数株主を排除する
親族などへ分散された株式を後継者が買い取りして集中させたい場合、株主との個別交渉をしなければならず、手続きが煩雑になります。株式の買い取りに反対されてしまうと、株式集約は進みません。
そこで、株主からの合意が得られない場合には、全部取得条項付種類株式を発行して、少数株主から株式を全て買い取り、新たに後継者に新株を割り当てる事で、後継者に経営権を集約させることができます。
まとめ
以上、今回は種類株式について、「その概要」や、「事業承継において活用するメリット」、「活用方法」などを解説させていただきました。
種類株式を活用すると、自社株式の分散リスクを回避できるとともに、後継者に経営権を集約するなどのメリットがあります。
また、種類株式は9種類があり、事業承継には、「議決権制限株式」、「拒否権付株式」、「全部取得条項付種類株式」などがよく使われます。
種類株式の発行は経営者一人の決定ではできないことから、後継者や経営陣とよく話し合うとともに、事業承継に精通した専門家のアドバイスも受けながら、早めの対策を行うことが大切です。
「江東区・中央区(日本橋)・千葉県(船橋)」を拠点とする保田会計グループでは、種類株式を活用した事業承継対策を得意としておりますので、ご興味等ごさいましたら、お気兼ねなくご相談ください。
なお、種類株式以外の事業承継対策については、以下の事業承継の課題と実行手順に関する記事をご参照ください。
事業承継の課題と実行手順を分かりやすく解説!