円滑な事業承継のために、よく使われる方法が「法人保険」の活用ですが、それとあわせて、「個人契約の生命保険」も活用することが一般的です。
そこで、今回は個人契約の生命保険を活用した事業承継対策について、「対策の流れ」、「メリット」、「デメリット」や「適合する保険の種類」などを解説します。
なお、法人保険を活用した事業承継対策については、以下の記事をご参照ください。
法人保険を活用した事業承継対策(株価対策、相続対策、退職金準備)
Table of Contents
個人契約の生命保険を活用した事業承継対策の流れ
はじめに、個人契約の生命保険を活用した相続対策の流れを確認します。
①生命保険に加入 個人契約の生命保険(被保険者はオーナー、保険金受取人は後継者)に加入します。②相続が発生 相続が発生したことで、保険金を後継者が受け取ります。③自社株の承継(相続) 後継者が自社株を承継(相続)します。④遺留分対策や納税金資金対策 後継者は受け取った保険金を、他の相続人への遺留分対策や納税資金対策に充てることができます。 |
個人契約の生命保険を活用した事業承継対策のメリット
次に、個人契約の生命保険を活用した事業承継対策における具体的なメリット4つを確認します。
これらのメリットは全て、円滑な事業承継につながるものとなります。
(1)保険金は受取人固有の財産として受取人を指定できる
相続財産は遺言がない場合、相続人全員の遺産分割協議によって、誰がどの財産を相続するか決めることとなります。
ただし、生命保険の保険金は、受取人固有の財産となるため、事前に指定された受取人は、他の相続人との遺産分割協議なしに保険金を受け取ることができます。
また、受取人固有の財産となる生命保険の保険金は、他の相続人から遺留分の請求をされる心配もありません。
そのため、生命保険金を活用することで、オーナーは後継者に確実に一定の資金を渡すことができ、後継者は受け取った保険金を円滑な事業承継に使うことができます。
(2)遺留分対策となる
オーナーの相続財産のほとんどが自社株の場合、後継者に自社株を集約して相続させると、他の相続人(後継者の兄弟姉妹など)から、遺留分を侵害しているとして、遺留分減殺請求をされる可能性があります。
ここで、後継者に遺留分相当額を支払う経済的な余裕があれば問題になりませんが、十分な資金がない場合には、自社株の一部を手放したり、事業用資産の一部を売却したりして支払う必要が生じます。そうすると結果として自社株の分散を招くなど、円滑な事業承継にとっては大きなマイナスとなってしまいます。
そこで、生命保険金を活用し、受取人固有の財産として受け取った保険金を遺留分減殺請求があった場合にその支払いに充てることで、円滑な事業承継につなげることができます。
(3)納税資金対策となる
後継者が受け取る相続財産の多くが自社株で、その評価額が高い場合には、後継者の相続税の負担が大きくなる一方で、自社株は換金性の乏しい財産であることから、納税資金の確保が困難となることが考えられます。
生命保険は、被保険者が亡くなった場合に、スムーズに保険金の支払いを受けることができます。そのため、申請してから比較的短期間でまとまったお金を受け取れる生命保険は、納税資金の確保に役立ち、結果として、円滑な事業承継につなげることができます。
(4)生命保険金の非課税枠が使える
生命保険金は相続税法上の「みなし相続財産」として相続税の課税対象になるものの、「法定相続人数 × 500万円」の非課税枠があるため相続税の節税が可能となります。
例えば、妻と子供2人の計3人が相続人で、合計2,000万円の生命保険金を受け取った場合には、500万円×3人=1,500万円の非課税枠を超えた500万円に対してのみ、相続税が課税されます。預貯金などで相続した場合には基礎控除を受けられるだけですが、生命保険金を活用すれば、相続税の節税が可能となります。
後継者における相続税の抑制は、円滑な事業承継につながります。
なお、円滑な事業承継については、以下の事業承継の基礎知識に関する記事をご参照ください。
事業承継の基礎知識を分かりやすく解説!
(5)生命保険料控除が適用される
事業承継対策に直結するわけではありませんが、支払った保険料は生命保険料控除の対象になります。年末調整や確定申告をすることで、節税の効果が期待できます。
なお、生命保険料控除についての詳細は、以下の記事をご参照ください。
以下の「年末調整のよくある質問」の記事のQ6:
年末調整のよくある質問トップ10について詳しく解説!
以下の「所得控除」の記事の6.生命保険料控除:
所得控除の全15種類を詳しく解説!!
個人契約の生命保険を活用した事業承継対策のデメリット
メリットに対して、デメリットもあるため、ここでは、個人契約の生命保険を活用した事業承継対策のデメリット3つを確認します。
(1)長期間の保険料支払いは資金繰りが大変
保険料の払込期間を長期に設定すると、資金繰りが大変となり、途中解約せざるを得ない状況となる可能性があります。
特に貯蓄性のある保険は途中で解約をすると、解約返戻金が少ないなど、損をすることもあることから、資金繰りに無理のない範囲で契約することが重要です。
(2)途中見直しが困難
定期保険の場合には、契約更新の際に保険商品の切り替えなど、比較的容易に見直しができます。
これが、貯蓄性のある終身保険などの場合には、解約返戻金もあって、見直しが困難となることがあります。
(3)保険会社が破綻する可能性
保険会社が破綻した場合、給付金・保険金の一定割合までしか補償はされていません。そのため、契約者はある程度の破綻リスクを負うこととなります。
個人契約の生命保険を活用した事業承継対策に適合する保険の種類
最後に、個人契約の生命保険を活用した事業承継対策に適合する保険の種類を確認します。
事業承継対策で活用すべき個人契約の生命保険において、最も大切なことは、死亡保障がオーナーが亡くなるまで続くことです。満期が設定されている保険では、被相続人が亡くなった時期が満期後であれば相続税対策としての意味が全くありません。
また、途中で解約するリスクに備え、解約返戻金のある貯蓄型を選ぶことも重要です。
具体的に、個人契約の生命保険を活用した事業承継対策に適合する保険の種類は、「終身保険」と「長期平準定期保険」になります。
終身保険の特徴は次の通りです。
✓解約をしない限り保障期間は死ぬまで続きます。
✓オーナーが高齢で亡くなった場合も必ず死亡保険金が支払われます。 ✓保険料は一定で、加入した年齢が低いほど安くなりますが、定期保険よりは高めに設定されています。 ✓一時払い終身保険の場合には、加入条件が緩いものが多く加入しやすいです(90歳まで加入できるものがあります)。 ✓貯蓄性があり、万が一に備えながら資産形成ができます。 ✓解約返戻金は解約の時期によって払込金より多くなる(利益)ことも、少なくなる(損失)こともあります。 |
長期平準定期保険の特徴は次の通りです。
✓保険期間は100歳満了のものが一般的で、ほとんど終身保険と変わりません。
✓終身保険と比べて保険料が若干安く設定されています。 ✓無解約返戻金型の商品もあり、保険料は、更に安く設定されています。 ✓解約返戻率のピークが20〜30年程度の期間に設定されていることが多く、保険期間の満期にむけて、下降線をたどり、最終的にはゼロになります。 |
まとめ
以上、今回は個人契約の生命保険を活用した事業承継対策について、「対策の流れ」、「メリット」、「デメリット」や「適合する保険の種類」などを解説させていただきました。
個人契約の生命保険を活用した事業承継対策のメリットには、「保険金は受取人固有の財産であり、受取人を指定できる」、「遺留分対策となる」、「納税資金対策となる」、「生命保険金の非課税枠が使える」などがあります。
また、事業承継の活用で使われる個人契約の生命保険には、「終身保険」、「長期平準定期保険」などがあります。
「江東区・中央区(日本橋)・千葉県(船橋)」を拠点とする保田会計グループでは、個人契約の生命保険を事業承継に活用した事例がいくつもありますので、ご興味等ございましたら、お気軽にご相談・お問い合わせください。
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