保田会計事務所|税務・コンサル・会計・その他経営に関わる全てを総合的にサポート

BLOG

ブログ

役員報酬はいくらに設定すべき?

会社を設立すると役員報酬を決める必要があります。
この役員報酬については、高く設定すると会社利益が減って法人税は少なくなる一方で、役員個人にかかる所得税や住民税、さらに社会保険料は多額になってしまいます。

では、役員報酬はいくらに設定すれば、節税になるのでしょうか?
今回は、「会社利益と役員報酬にかかる税金」や「役員報酬はいくらに設定すべきか」などについて解説します。

その他、実践的な節税対策については、以下のサイトをご参照ください。
当事務所について – 保田会計事務所|税務・コンサル・会計・その他経営に関わる全てを総合的にサポート

 

会社利益と役員報酬にかかる税金や社会保険について

まずは、会社の利益と役員報酬にかかる税金や社会保険を確認します。

会社の利益にかかる税金

会社の利益に対する税金の種類と税率は下記の通りです。

課税所得(≒利益)
400万以下 400万~800万 800万超
法人税率 15% 15% 23.2%
地方法人税
(法人税額×10.3%)
1.54…% 1.54…% 2.38…%
法人道府県民税
(均等割を除く)
0.15% 0.15% 0.232%
法人市町村民税
(均等割を除く)
0.9% 0.9% 1.392%
法人事業税 3.5% 5.3% 7.0%
特別法人事業税
(法人事業税額×37%)
1.29…% 1.96…% 2.59…%
合計(表面税率) ≒22.38% ≒24.85% ≒36.79%

会社の利益に対する税金は、課税所得(≒利益)に上記の税率を乗じて算出されるため、役員報酬の金額を大きくすると、利益が圧縮されて法人税は少なくなり、役員報酬を少なくすると、法人税が増加します。
課税所得800万円までは税率が25%未満ですが、800万円を超えると税率が36%程度まで上がります。

 

役員報酬(役員個人)にかかる税金

役員報酬(役員個人)にかかる所得税・住民税の税率は次のとおりです。

課税される

所得金額

所得税 住民税 税率計
税率 (※) 控除額
195万未満 5% 0円 10% 15%
195万以上~330万未満 10% 97,500円 10% 20%
330万以上~695万未満 20% 427,500円 10% 30%
695万以上~900万未満 23% 636,000円 10% 33%
900万以上~1,800万未満 33% 1,536,000円 10% 43%
1,800万以上~4,000万未満 40% 2,796,000円 10% 50%
4,000万以上 45% 4,796,000円 10% 55%

 役員報酬は給与所得に分類されるため、支給された役員個人に所得税の納税義務が生じます。
所得税の税率は、分離課税に対するものなどを除くと、5%から45%の7段階に区分されています。これに住民税率10%を加えると所得税・住民税の税率は15%から55%になります。

 

 役員報酬にかかる社会保険

役員報酬にかかる社会保険の料率は次のとおりです。

<東京都の令和4年3月分からの社会保険料率>

右記以外 介護保険第2号被保険者

(40歳以上~65歳未満)

健康保険料 9.81% 11.45%
厚生年金保険料 18.30% 18.30%
保険料率合計 28.11% 29.75%

※ 子ども・子育て拠出金(令和4年度0.36%)は除きます。

 役員報酬には、社会保険料もかかります。所得税や住民税同様に、報酬が高いほど社会保険料は高くなります。
保険料は標準報酬月額×保険料率で算出され、会社と個人で折半します。
会社と個人を一体で考えた場合、役員報酬にかかる社会保険料率は約3割程度になります。

なお、社会保険料の詳細は以下の記事もご参考になさってください。
【会社設立後の提出書類⑥】健康保険・厚生年金保険の基本と新規適用届の書き方(記入例あり)

 

役員報酬の節税のポイント

役員報酬の金額設定による法人税と役員の所得税等の増減の関係は次の通りです。

<会社の利益を減らして、役員報酬を増やす>

会社の法人税は減少する一方で、役員個人の所得税・住民税・社会保険料は増加します。

<会社の利益を増やして、役員報酬を減らす>

会社の法人税は増加する一方で、役員個人の所得税・住民税・社会保険料は減少します。

中小企業は会社の役員と株主が一致するオーナー会社である場合が多いです。

この場合の節税とは、「会社の法人税」を最小にすることではなく、「会社の法人税+役員個人の所得税・住民税・社会保険料の合計額」を最小にすることです。

言い換えると、個人と法人の合計手取り額を最大にすることが節税のポイントです。

その他、節税に関しては、以下の関連記事もご参考になさってください。

社葬による節税はこちら:
社葬や合同葬による節税(香典の適正額は?)

社宅による節税はこちら:
社宅を活用した節税方法

航空機リースによる節税はこちら:
節税最終手段の航空機リース(オペレーティングリース)とは

海外中古不動産による節税はこちら:
【令和2年度税制改正】海外中古不動産を活用した節税(税務調査事例)

 

役員報酬はいくらに設定すべき?(手取り金額のシミュレーション)

それでは、役員報酬をいくらに設定すると、個人・法人の合計手取り金額が最大となるのでしょうか。

以下において、役員報酬控除前の会社利益が300万円、800万円、1,000万円、2,000万円の場合で、役員報酬の設定金額ごとの手取り金額のシミュレーションを行います。

なお、前提として、50歳の役員1人会社、支給形態は定期同額給与、法人住民税の均等割7万円、所得は給与のみとします。

(1)会社利益が300万円の場合

役員報酬 50万円 100万円 200万円
所得税・住民税 0千円 0千円 81千円
社会保険料
(個人負担)
148千円 169千円 305千円
個人手取り額 352千円 831千円 1,614千円
法人税等 572千円 460千円 217千円
社会保険料
(会社負担)
150千円 173千円 313千円
会社手取り額 1,778千円 1,367千円 471千円
合計の手取り額 2,130千円 2,198千円 2,085千円

会社利益が300万円の場合、個人と法人の合計手取り額が最大となるのは、役員報酬が100万円の時です。
役員報酬が増加するにつれて法人税は減額されますが、所得税や社会保険料の比重が高くなります。
そのため、節税効果を最大限高める場合には、役員報酬を低めに抑えることが必要です。

ただし、役員個人の所得税における給与所得控除や基礎控除の適用まで考慮すると、役員報酬は100万円程度あった方がいいことをこの結果は示しています。

 

(2)会社利益が800万円の場合

役員報酬 100万円 300万円 600万円
所得税・住民税 0千円 162千円 503千円
社会保険料
(個人負担)
169千円 467千円 898千円
個人手取り額 831千円 2,371千円 4,599千円
法人税等 1,580千円 1,046千円 301千円
社会保険料
(会社負担)
173千円 478千円 920千円
会社手取り額 5,248千円 3,477千円 780千円
合計の手取り額 6,078千円 5,848千円 5,378千円

会社利益が800万円の場合も上記と同様、役員報酬100万円の時に手取り額が最大化されます。
ここまでの結果により、会社の利益にかかる税率が高くなる800万円までは、役員報酬100万円の時の手取り額が最大になり、節税効果が一番高いと言えます。

 

(3)会社利益が1,000万円の場合

役員報酬 1,000千円 1,500千円 3,000千円 6,000千円
所得税・住民税 0千円 37千円 162千円 503千円
社会保険料
(個人負担)
169千円 226千円 467千円 898千円
個人手取り額 831千円 1,237千円 2,371千円 4,599千円
法人税等 2,129千円 1,942千円 1,509千円 728千円
社会保険料
(会社負担)
173千円 232千円 478千円 920千円
会社手取り額 6,698千円 6,327千円 5,013千円 2,352千円
合計の手取り額 7,529千円 7,564千円 7,384千円 6,951千円

会社利益が1,000万円の場合は、個人と法人の合計手取り額が最大となるのは、役員報酬が150万円の時です。

 

(4)会社利益が2,000万円の場合

役員報酬 1,500千円 2,500千円 6,000千円 10,000千円
所得税・住民税 37千円 125千円 503千円 1,427千円
社会保険料
(個人負担)
226千円 359千円 898千円 1,293千円
個人手取り額 1,237千円 2,015千円 4,599千円 7,280千円
法人税等 5,300千円 4,918千円 3,558千円 2,079千円
社会保険料
(会社負担)
232千円 368千円 920千円 1,321千円
会社手取り額 12,968千円 12,214千円 9,523千円 6,599千円
合計の手取り額 14,205千円 14,229千円 14,122千円 13,879千円

会社利益が2,000万円の場合は、個人と法人の合計手取り額が最大となるのは、役員報酬が250万円の時です。
基本的にこの「役員報酬250万円」は、会社利益が2,000万円を超える場合であっても変わりません。

 

(5)シミュレーション結果

これらのシミュレーションの結果から、会社利益が800万円までは役員報酬を100万円に設定し、会社利益が800万円を超える場合には役員報酬を100万円から250万円程度に設定することで、個人と法人の合計手取り額が最大になり、節税効果も最大になります。

ただし、役員個人における生活費や遊行費等を考えると、節税効果は小さくなったとしても、会社から役員個人にある程度のお金を移転させたいという考えもあります。

また、役員個人の視点に立つと、会社利益が2,000万円もあるのに、役員報酬が250万円しかもらえないのは少ないように思えてしまいます。

そのため、実際に「役員報酬を決定する」場面においては、個人・法人の合計手取り額が最大になる金額をスタート時点として、役員がもらいたい役員報酬額とその場合の手取り額に与えるマイナスの影響を勘案して、決めることをお勧めします。

なお、役員報酬を極端に低く設定した場合や逆に極端に高く設定した場合には、それぞれ次のデメリットもあるため注意が必要です。

 

役員報酬を極端に低く設定した場合の注意点

役員報酬を極端に低く設定した場合には、下記の2つの点に注意が必要です。

(1)資金調達への悪影響

役員報酬を極端に低く設定することで、決算書の会社利益を増やすことが可能ですが、融資担当者に不信感を与える場合があります。
そのため、役員報酬を極端に低く設定する場合には、合理的な理由を説明できるようにしておく必要があります。

なお、創業時に使いやすい資金調達方法については、以下の記事で網羅的に解説しておりますので、ご参照ください。
創業時に使える資金調達方法を網羅的に解説(融資・出資・補助金・助成金)

 

(2)社会保険に加入できない恐れ

例えば、役員報酬を0円に設定した場合、社会保険の加入条件に該当しないため、社会保険への加入ができません。
そのため、社会保険への加入を希望する場合には、少なくとも社会保険料の下限を徴収できるように月額で1万2千円以上の役員報酬を受け取ることが必要です。

 

役員報酬を極端に高く設定した場合の注意点

一方で、役員報酬を極端に高く設定した場合には、下記の2つの点に注意が必要です。

(1)役員個人の税負担が大きくなる

役員報酬を極端に高く設定した場合には、会社の法人税等は節税されますが、役員個人の税負担が大きくなります
特に所得税率は、報酬額が大きくなるにつれて高まります。そのため、役員報酬を減らした方が手元にお金が残るケースもあることから、注意が必要です。

なお、役員や会社員の個人における節税対策については、以下の記事をご参照ください。
会社員の節税対策6選!!

 

(2)役員報酬が経費として認められないリスクがある

役員報酬は取締役が自由に設定できますが、極端に高い場合、税務上の費用にできない場合があります
税務上の費用にできない部分には、法人税等がかかるため、節税効果を得られないばかりか余分に出費がかさむ可能性もあります。
そのため、役員報酬で節税効果を享受するためには、バランスを考慮した金額設定が大切です。

 

まとめ

以上、今回は「会社利益と役員報酬にかかる税金」や「役員報酬はいくらに設定すべきか」などを解説させていただきました。
役員報酬を適正な水準に設定することができれば、節税効果を享受でき、個人・会社ともに手取り額を最大化できます。

「江東区・中央区(日本橋)・千葉県(船橋)」を拠点とする保田会計グループでは「役員報酬をいくらに設定すれば、手取り額がどれくらいになるのか」役員報酬の設定シミュレーションを行っています。
ご興味がございましたら、お気軽にお問い合わせください。