自社株の評価方法が見直される可能性が、中小企業オーナーの間で大きな話題となっています。きっかけは、会計検査院による「株式評価に関する指摘」です。
これにより、今後はより厳格な評価が求められる方向へ進むと予想され、中小企業オーナーにとっては自社株承継対策や相続税対策の見直しが急務となりつつあります。
この記事では、「自社株評価の基礎知識」から、「会計検査院の指摘内容」「今後の見直しの可能性」「具体的な対策と影響」などをできるかぎり分かりやすく解説します。
Table of Contents
1.自社株の評価とは?基礎知識をおさらい
はじめに、自社株評価についての基本を解説します。
(1) なぜ自社株の評価が重要なのか
自社株とは、中小企業経営者が所有する自身の会社の株式のことです。この自社株の評価額は、相続や贈与の際に課税される金額を決める上で非常に重要な役割を果たします。
特に中小企業オーナーにとって、自社株は資産の大部分を占めることが多いため、評価額次第で相続税負担が大きく変わります。
(2) 自社株が高く評価されると何が起きる?(相続税・贈与税負担)
自社株の評価が高くなると、相続税・贈与税の負担も比例して増加します。その結果、次のような問題が生じる可能性があります。
✓相続人が多額の相続税を支払えずに自社株の保有そのものを放棄する
✓想定外の納税資金確保のため、会社や経営者において資金繰りが厳しくなる |
(3) 通常の評価方法(類似業種比準方式・純資産価額方式など)
国税庁が定めた「財産評価基本通達」によると、自社株は「取引相場のない株式」として、「原則的評価方法」もしくは「特例的評価方法」によって評価を行います。
<原則的評価方法>
評価方法 | 内容 | 特徴 |
類似業種比準方式 | 上場企業の業績指標と比較して評価する方法 | 利益が高いと株価も高くなりやすい |
純資産価額方式 | 会社の純資産額(資産-負債)を基に評価する方法 | 資産が大きい会社では高評価になりやすい |
原則的評価方法には、類似業種比準方式と純資産価額方式がありますが、どちらの方式を採用するかは、会社の規模や業種によって決まります(併用することもある)。
<特例的評価方法>
評価方法 | 内容 | 特徴 |
配当還元方式 | 配当金額を一定の還元率(10%)で割り戻し評価する方法 | 配当が多いと株価も高くなりやすい |
一定の株主については、原則的評価方法よりも株価が低くなることが多い、特例的評価方法を採用することも認められます。
なお、自社株の評価に関しては、以下の記事もご参考になさってください。
自社株評価方法を決める手順はこちら:
自社株式の評価方法を決める手順を分かりやすく解説!! | 江東区の税理士|税務会計事務所【保田会計事務所】
自社株の計算方法や株価対策はこちら:
自社株の計算方法や株価対策を分かりやすく解説!! | 江東区の税理士|税務会計事務所【保田会計事務所】
2.会計検査院が指摘した内容とは?
次に、会計検査院が「令和5年度決算検査報告」の中で指摘した内容を解説します。
(1) 何が問題視されたのか?
会計検査院は、令和6年11月6日に内閣に提出した「令和5年度決算検査報告」の中で、「類似業種比準方式」と「配当還元方式」による自社株評価額は相対的に低く計算されることがあり、取得者間で評価の公平性が確保されていないことを指摘しました。
(2) 具体的な指摘内容とは?
会計検査院が指摘した具体的な内容は以下の通りです。
<類似業種比準方式>
✓類似業種比準価額の中央値は純資産価額の中央値の27.2%となっており、類似業種比準価額は、純資産価額に比べて相当程度に低い水準になっている
✓評価会社の規模が大きい区分ほど株式の評価額が相対的に低く算定される傾向がある ✓過去の改正により計算方法の選択肢が増え、最も低い金額を選択することが可能になっている ✓配当を実施していない会社においては、2つの比準要素の合計を3で除するため、評価額が低くなっている |
<配当還元方式>
✓還元率(10%)は、昭和39年の評価通達制定当時の金利を参考に設定されて以降見直しが行われておらず、近年の金利の水準と比べて相対的に高い率となっている |
詳細は以下にある会計検査院の資料をご確認ください。
https://www.jbaudit.go.jp/report/new/summary05/pdf/fy05_tokutyou_13.pdf
(3) 今後の国税庁・財務省の対応(見直しの可能性)は?
会計検査院に指摘されたものが全て見直されているわけではありませんが、最近の実績を鑑みると、自社株の評価方法についても見直しがされる確率はそれなりに高いと考えられます。
仮に見直しが行われる場合には、国税庁・財務省は、以下のような対応をする可能性が高いです。
✓類似業種比準方式の計算式を評価額が高くなる方向で見直し
✓配当還元方式の還元率を現状の10%から上げる |
いずれにしても、取引相場のない株式の評価額を「上げる」方向で、つまり「増税」の方向で、見直しがなされるものと考えられます。
(4) 見直しがされる時期は数年以内か?
最近の会計検査院の指摘による制度見直しの実績は以下の通りです。
✓2016年度に海外不動産節税の指摘: 2020年度に税制改正で規制
✓2018年度に住宅ローン控除率の指摘:2022年度の税制改正で控除率の見直し |
これらの実績を鑑みると、仮に自社株の評価方法について見直しがされる場合には、数年以内の見直しと想定されます。
3.中小企業オーナーに与える影響とは?
つづいて、中小企業のオーナー側から見た具体的な影響を解説します。
(1) 相続・贈与時に負担が大きくなるケース
自社株の評価額が上がることで、相続税・贈与税の負担が予想以上に増加するケースが増えます。
特に評価上の会社規模が「大会社」で類似業種比準方式を使って株価を計算しようとしていた場合には、影響が大きいです。
(2) 自社株の承継計画への影響
現状の制度のもと、自社株対策をした上で、相続時に承継を計画していた場合には、再度、承継計画の見直しが必要になる可能性があります。
場合によっては、制度が見直しされる前に生前贈与や譲渡で自社株を移すことの検討も必要です。
4.いますぐ検討すべき対策
では、いますぐに検討すべき具体的な対策を解説します。
(1) 現在の自社株評価額を早急にチェックする
まずは、現時点での自社株評価額を専門家に依頼し、正確に把握することから始めます。これにより、制度見直し時のインパクトがどれくらいかある程度想定することが可能です。
(2) 自社株の承継計画の前倒し
今後の厳格化を見越した上で、自社株の承継計画(事業承継計画)の再構築を行います、特に評価上の会社規模が「大会社」で類似業種比準方式での評価額の引き下げを狙える会社では、早めの承継を見据えた計画に前倒しすることを検討します。
(3) 節税対策(持株会社化、信託活用、贈与タイミングの最適化)
自社株の承継においては、以下のような節税対策等も有効となりますので、それぞれの記事をご参照ください。
持株会社設立はこちら:
株式交換はこちら:
金庫株はこちら:
従業員持株会はこちら:
5.まとめ
今回の記事では、「自社株評価の基礎知識」から、「会計検査院の指摘内容」「今後の見直しの可能性」「具体的な対策と影響」などをわかりやすく解説しました。
自社株の評価は、中小企業オーナーにとって相続税・贈与税負担を左右する重要な要素です。現行制度では、類似業種比準方式や配当還元方式を利用して評価額を低く抑えられるケースが多く見られましたが、会計検査院はこれに対して公平性の欠如を指摘しました。
今後、国税庁や財務省が評価方法の見直しに着手し、評価額が引き上げられる可能性が高まっています。もし見直しが行われれば、数年以内に制度改正が実施される見込みです。
これによって、相続・贈与時の税負担が増えたり、承継計画の修正を迫られる可能性があります。そのため、オーナー経営者は「現状の自社株評価額の把握」「承継計画の前倒し検討」「節税対策の実行」など、早期に対策を講じることが不可欠です。
制度変更前に動くかどうかで、将来の負担が大きく変わる可能性があるため、早めに専門家に相談することをおすすめします。