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家なき子特例の基本を分かりやすく解説!(迷いやすい事例や生前対策も)

家なき子特例の適用を受けた場合には、相続税の計算の基となる土地の評価額を最大で80%も減額することができます。
土地の評価額が下がると、相続税の金額も当然に小さくなることから、相続税節税の観点では、この特例の適用を受けるべきです。

そこで今回は、小規模宅地の特例(特定居住用宅地等)のうち、家なき子特例について、「概要」や「要件」、「迷いやすい事例」、「受けるための生前対策」、「必要書類」などを分かりやすく解説します。

 

なお、小規模宅地等の特例や特定居住用宅地については、下記の記事でも解説していますので、こちらもご参照ください。

小規模宅地の特例はこちら:
小規模宅地の特例で相続税を大幅に減額!!

特定居住用宅地はこちら:
特定居住用宅地等とは?要件などを詳しく解説!!

 

家なき子特例とはどんな制度?

小規模宅地等の特例(特定居住用宅地等)では、被相続人と同居していた相続人がその自宅の土地を相続した場合には、土地の評価額を最大330m²まで80%も減額することができます

この特例は、被相続人と同居していなかった一定の相続人も適用することができ、これを「家なき子特例」と呼んでいます

小規模宅地等の特例は、被相続人と同居していた配偶者や子どもが高額な相続税の納税のために、自宅を手放して住む場所をなくしてしまうことがないように作られた制度です。この特例については、親と同居していたことが要件となっていることから、仕事や学校の都合で親と同居できない人が相続を行う場合には適用することができません。

そこで、その不公平さを解消するために設けられた制度が、家なき子特例になります。

 

 

家なき子特例を受けるための7つの要件

家なき子特例の適用を受けるためには、「被相続人の要件」と「取得者の要件」のそれぞれの要件7つを満たす必要があります。

(1)被相続人の要件

被相続人は次の要件を満たしている必要があります。

①配偶者がいないこと

②同居の相続人(相続放棄した人も含む)がいないこと

上記①の「配偶者がいないこと」という要件があることから、家なき子特例は基本的に二次相続のときに適用の検討をします

 

(2)取得者の要件

取得者は次の要件を満たしている必要があります。

③被相続人の親族であること

④相続開始前3年間に、その相続人、その相続人の配偶者、その相続人の3親等内の親族又はその相続人と特別の関係のある法人が所有する家屋(相続開始直前における被相続人の居住用家屋を除く)に住んでいないこと

⑤相続開始時にその相続人が居住していた家屋を過去にその相続人が所有していたことがないこと

⑥居住制限納税義務者又は非居住制限納税義務者のうち日本国籍を有しない者ではないこと

⑦申告期限までその宅地を保有し続けること

 

簡単に言い換えると、家なき子特例が適用できる取得者とは、次のような人のことを言います。

✓亡くなる前3年間以上、第三者が所有する家屋に住んでいた被相続人の親族

✓亡くなる前3年間以上、持ち家に住んでいなかった被相続人の親族

 

 

家なき子特例適用による節税額

ここでは、家なき子特例適用による「土地評価額の引き下げ効果」と「相続税の節税額」について確認します。

 

<事例>

法定相続人:長男、長女

自宅の土地の評価額:1億2千万円

自宅の建物の評価額:8千万円

その他の財産の評価額:1億円

自宅の土地の面積:400㎡

長男の相続財産:自宅の土地及び建物

長女の相続財産:その他の財産

※基礎控除以外の税額控除等は考慮しない

 

<相続税算定の基礎となる計算>

①長男の相続財産:120百万円+80百万円=200百万円

②長女の相続財産:100百万円

③相続財産の合計額:①+②=300百万円

 

<家なき子特例の適用がないケース>

④長男の相続税:46.1百万円

⑤長女の相続税:23.1百万円

⑥相続税の合計額:④+⑤=69.2百万円

 

<家なき子特例の適用があるケース>

⑦土地評価額の引き下げ額:120百万円×330㎡÷400㎡×0.8=79.2百万円 

⑧長男の相続財産:①-⑦=120.8百万円

⑨相続財産の合計額(特例適用後):②+⑧=220.8百万円

⑩長男の相続税(特例適用後):21,7百万円

⑪長女の相続税(特例適用後):17.9百万円

⑫相続税の合計額(特例適用後):⑩+⑪=39.6百万円

 家なき子特例の適用を受けることができる土地の面積には上限が設定されており、最大で330㎡までとなっています

 

<節税効果>

相続税の節税額:⑥-⑫=29.6百万円

 

この事例では、120千万円の自宅土地について、家なき子特例の適用を受けることで、土地評価額の引き下げ効果は79.2百万円、相続税の節税額は29.6百万円となります

また、相続税の計算上、家なき子特例の適用を受けた長男だけではなく、適用とは関係のない長女の相続税も節税できることから、各相続人の相続税を減らすという観点でも、この特例の適用はお勧めできます。

 

 

家なき子特例の重要ポイント

ここでは、家なき子特例の適用を検討する上で特に重要なポイントを確認します。

(1)家を引き継ぐ者を持ち家のない相続人から選ぶことで節税になる

家なき子特例の適用を受けることができれば、自宅の土地評価額を最大で80%も減額することができ、相続税の節税につながります。

そのため、家を引き継ぐ者は、なるべく持ち家のない相続人から選び、さらにその相続人が他の要件も満たすことで大きな節税効果を得ることができます

 

(2)家なき子特例には同居要件がない

小規模宅地等の特例(特定居住用宅地等)は、配偶者が相続する場合を除き、基本的に生前に被相続人と同居していたことが要件となっています。

ただし、「家なき子特例」の場合には、被相続人と同居していなくても適用できる可能性があることが、他の小規模宅地等の特例(特定居住用宅地等)と大きく異なります。

 

(3)売却のタイミングによって相続税の納税額が変わる

家なき子特例を含む小規模宅地等の特例の適用においては、配偶者が相続する居住用宅地を除き、原則として、相続した自宅を「相続開始時から相続税の申告期限まで継続して保有していること(所有継続要件)」が必要です。

そのため、取得した自宅を相続税の申告期限までに売却や贈与をした場合には、所有継続要件を満たすことができず、家なき子特例の適用を受けることができません。

取得した自宅の売却等を行う時期が、相続税の申告期限の「前か後か」で、相続税の納税額が大きく変わる可能性があることから、売却等のタイミングには注意が必要です。

なお、相続税の申告期限前に売買契約を交わし、申告期限後に引き渡しを行うケースでは、売却時期とされる引き渡しの時期が申告期限後のため、家なき子特例の適用は可能です。

 

(4)家なき子特例は相続税の申告が必要

家なき子特例の適用を受けるためには、相続税の申告を行う必要があります。

そのため、家なき子特例の適用を受けた結果、相続税が発生しない場合であっても、申告不要ということにはなりません。

仮に、期限後申告となり、税額が生じた場合には、ペナルティ付きで税金を支払うことになるため、注意が必要です。

 

 

家なき子特例の適用ができるか否か迷う具体的なケース

ここでは、家なき子特例の適用ができるか否か迷う具体的なケースを5つ確認します。

また、他の細かい論点については、以下の家なき子特例のQ&Aに関する記事もご参照ください。
家なき子特例に関するQ&A(要件や適用可否を中心に解説)

(1)取得者が親である被相続人名義の家に住んでいたケース

取得者が親である被相続人名義の家に住んでいた場合には、「相続開始前3年間に、3親等内の親族が所有する家屋に住んでいないこと」の要件を充足できないことから、家なき子特例の適用を受けることはできません。

 

(2)所有する家屋に住んでいないが他に収益不動産を所有しているケース

相続開始前3年間に、その相続人等が所有する家屋に住んでいない状況であれば、収益不動産の所有の有無とは関係なく、家なき子特例を適用できる可能性があります。

また、もともと所有し住んでいた家を第三者に賃貸して、自分自身は別に借りた賃貸物件に住むことになった場合でも、相続開始から3年が経過している時は、家なき子特例が適用できる可能性があります。

 

(3)相続で取得した自宅を申告期限までに賃貸物件にしているケース

家なき子特例では、相続した自宅の用途に関する要件はありません。

そのため、相続した自宅を申告期限までに賃貸物件にしていても、家なき子特例を適用できる可能性があります。

なお、家なき子特例と併用できる譲渡所得の特例である「空き家特例」は、賃貸物件にした場合、適用を受けることはできないため注意が必要です。
「空き家特例」の適用を受けるためには、相続してから譲渡するまでの間に取得した自宅が未利用であることが条件です。

 

(4)被相続人が老人ホームに入居していたケース

被相続人が老人ホームに入居していた場合、自宅は空き家状態となりますが、次の3つの要件を満たしていれば、家なき子特例を適用できる可能性があります。

①被相続人が「要介護・要支援・障害支援区分など」の認定を受けていたこと

②入居していた施設は老人福祉法等に規定する介護施設(養護老人ホーム、特別養護老人ホーム、有料老人ホーム、介護老人保健施設など)であること

③老人ホーム等入居後に自宅を貸付業などの事業の用に供していないこと

 

(5)自宅が2か所あって住民票のない方の家に住んでいたケース

家なき子特例を含む小規模宅地等の特例を適用できるのは、住民票がおかれているか否かに関わらず、主に居住をしていた自宅1か所のみです。

主にどの家に住んでいたのかが重視されることから、住民票をおいていない自宅であっても、その自宅に主に住んでいた場合には、家なき子特例を適用できる可能性があります。

 

 

家なき子特例の適用を受けるための生前対策

家なき子特例の適用を受けた場合には、相続税の計算の基となる土地の評価額を最大で80%も減額することができます。これは、非常に大きな節税効果となることから、相続税の負担をなるべく少なくするという観点からは、家なき子特例の適用を受けることが望ましいです。

ここでは、家なき子特例の適用を受けるための生前からできる対策として、次の3つの方法を確認します。

(1)取得予定者は賃貸物件に住み続ける

取得予定者が現在、賃貸物件に住んでいる場合には、そのまま住んでいる賃貸物件に3年超、住み続けることで、家なき子特例を適用できる可能性があります。

なお、取得予定者が持ち家を売却して、その家屋を賃貸物件として借りて住む場合(リースバック)は、平成30年(2018年)税制改正により要件を満たすことができず、家なき子特例の適用を受けることができないため注意が必要です。

 

(2)取得予定者は引っ越しをしておく

取得予定者が現在、持ち家に住んでいる場合には、その持ち家を賃貸もしくは売却して、別の第三者が所有する賃貸物件に引っ越しすることで、3年以上経過して相続が発生したときには、家なき子特例を適用できる可能性があります。

ただし、3年以内に予期せず相続が発生した場合には、家なき子特例の適用を受けることができないことから注意が必要です。

 

(3)遺言書を作って孫へ遺贈する

被相続人の子世代が持ち家に住んでおり、引っ越しも難しい場合には、持ち家がないであろう孫世代に自宅を取得させることで、家なき子特例を適用できる可能性があります。

家なき子特例を含む小規模宅地等の特例では、相続人だけでなく親族であれば孫でも適用を受けることができます。そのため、被相続人の生前に遺言書を作成してもらい、持ち家のない孫に自宅を遺贈することも有効的な手法となります。

なお、孫が親(相続人)の持ち家に住んでいた場合には家なき子に該当しない点や、孫には相続税の2割加算が適用される点については、注意が必要です。

 

 

家なき子特例の適用に必要な書類

家なき子特例の適用を受ける際には、小規模宅地等の特例の適用を受けるための書類に加えて、家なき子特例の要件を満たしていることを示す次の書類の添付が必要となります。

 

<家なき子特例の適用に必要な書類>

必要書類 備考など
①被相続人の戸籍謄本または法定相続情報一覧図の写し 被相続人に配偶者や同居親族がいないことを証明する書類です。

戸籍謄本は、相続開始日から10日以降に作成されたもの

②自宅を取得する人の戸籍の附表の写し 過去の住所変遷がわかる書類で、相続開始前3年以内における住所を証明します。

戸籍の附表は、相続開始日以降に作成されたもの

③遺言書の写しまたは遺産分割協議書の写し 特例を申請する宅地を、申請者が相続しているかを証明する書類です。
④相続人全員の印鑑証明書 遺産分割協議書に押印したものです。

上記③で遺産分割協議書を添付する場合にのみ必要となります。

⑤登記事項証明書や賃貸借契約書の写し 相続開始前3年以内に居住していた家屋が「自分の持ち家」「配偶者の持ち家」「3親等以内の親族の持ち家」「特別の関係がある法人の持ち家」のいずれにも該当しない家屋であることを証明する書類です。

 

<老人ホーム等に入所していた場合に追加で必要な書類>

必要書類 備考など
①被相続人の戸籍の附票の写し 過去の住所変遷がわかる書類で、介護等のために老人ホームへ住所を移したことを証明します。

戸籍の附表は、相続開始日以降に作成されたもの

②介護保険の被保険者証の写し、障がい者福祉サービス受給者証の写しなど 被相続人が要介護認定や要支援認定、または障がい支援区分の認定を受けていたことを証明する書類です。
③施設への入所時における契約書の写しなど 被相続人が相続開始の直前において入所していた施設が、一定の老人ホーム等に該当するかを明らかにするための書類です。

 

 

まとめ

以上今回は、小規模宅地の特例(特定居住用宅地等)のうち、家なき子特例について、「概要」や「要件」、「迷いやすい事例」、「受けるための生前対策」、「必要書類」などを分かりやすく解説いたしました。

家なき子特例の適用を受けた場合には、相続税の計算の基となる土地の評価額を最大で80%も減額することができます。土地の評価額が下がると、相続税の金額も当然に小さくなることから、相続税節税の観点では、なるべく、この特例の適用を受けるべきです。

また、家なき子特例の適用を受けるためには、相続税の申告が必要となりますが、自分自身で相続税申告書を作成することは難易度が高いことから、税理士等の相続の専門家にご相談されることをお勧めします。

ただし、家なき子特例は税制改正により要件が厳格化されていることから、相続の実務経験の少ない税理士では、適用判定の可否を間違えたり、適用漏れをしたりすることも少なくありません。そのため、ご依頼にあたっては、相続の実務経験豊富な税理士に依頼することが重要です。

 

なお、「江東区・中央区(日本橋)・千葉県(船橋)」を拠点とする保田会計グループでは、家なき子特例を含む小規模宅地等の特例の適用について熟知しており、国税OBによる様々な相続対策・生前対策などの支援実績もあります。

少しでもご興味いただける場合には、以下のお問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。
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