「106万円の壁がなくなるらしい」、「2026年から制度が変わると聞いた」、こうした情報を目にして、今後の働き方に不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
近年の全国的な最低賃金の上昇を受け、政府・厚生労働省は、2026年春にも106万円の壁を撤廃する方向で調整に入っています。
ただし、この「撤廃」という言葉を誤って理解すると、手取りが減る・扶養から外れるといった想定外の結果につながることもあります。
今回の記事では、パートで働く人が損をしないために、106万円の壁の正確な意味、現行制度、そして2026年制度改正を見据えて今から注意すべきポイントを、税理士の視点で分かりやすく解説します。
Table of Contents
1.「106万円の壁がなくなる」とはどういう意味?
まずは、言葉だけが一人歩きしがちな「106万円の壁」について整理します。
106万円の壁の撤廃については、以下の弊所記事もご参考になさってください。
(1) そもそも「106万円の壁」とは何か
106万円の壁とは、一定の条件を満たしたパート・アルバイトが社会保険(健康保険・厚生年金)に加入する基準の一つです。
ここで注意したいのは、これは税金の壁ではなく、社会保険の壁だという点です。
社会保険に加入すると、給与から保険料が天引きされるため、年収が増えても手取りが減ることがあります。この現象が「壁」と呼ばれてきました。
(2) 「なくなる」と言われる理由と制度改正の背景
最低賃金の上昇により、以前より少ない労働時間でも106万円を超えるケースが増えています。その結果、「年収を抑えて働く」という選択自体が現実的でなくなりつつあります。
この状況を受け、政府・厚生労働省は、2026年春にも106万円の年収要件を撤廃する方向で調整を進めています。
これは、働き控えをなくし、社会保険加入を前提とした働き方へ移行させる狙いがあります。
(3) 106万円という金額が“絶対基準”ではない理由
現行制度でも、106万円は単独で判断される基準ではありません。
年収・労働時間・雇用期間・企業規模など、複数の要件をすべて満たした場合に社会保険加入が必要になります。
2026年以降は、「年収だけを基準に働き方を調整する考え方自体が通用しなくなる」可能性が高い点に注意が必要です。
2.106万円の壁は完全になくなるのか?
制度改正の方向性を正しく理解しておきましょう。
(1) 制度上「廃止」されるもの・されないもの
検討されている「撤廃」とは、106万円という年収基準の見直しを意味します。
社会保険制度そのものがなくなるわけではなく、加入対象者がさらに広がると考えるのが現実的です。
つまり、「社会保険料を払わなくてよくなる」のではなく、「年収を理由に加入を避けることができなくなる」方向への転換です。
(2) 今後も残る「社会保険の壁」
106万円の基準が撤廃されても、社会保険料の自己負担が発生する仕組みは変わりません。
そのため、短期的には手取りが減る局面もあり、心理的な「壁」は今後も残ります。
2026年改正を見据えると、「いつ加入するか」ではなく「加入後にどう働くか」を考える視点が重要になります。
3.社会保険の加入要件とは?
ここでは、現行制度を前提に、対象者を確認します。
(1) 現在の社会保険の加入要件5つ
短時間労働者(労働時間・日数が正社員の4分の3未満)であるパート・アルバイトは、以下の要件を全て満たした場合に、社会保険に加入する必要があります。
| ✓週の所定労働時間が20時間以上であること
✓月額賃金が88,000円以上(年収換算で約106万円)であること ←見直し予定 ✓2か月を超えて雇用される見込みがあること ✓学生でないこと ✓勤務先が従業員数51人以上の企業であること |
2026年以降は、このうちの年収要件の見直しが想定されています。
(2) 社会保険の加入要件におけるQ&A
社会保険の加入要件に関して、実務上よくある疑問をQ&A形式で整理します。
Q1.残業して20時間を超えたらどうなる?
一時的な残業で超えた場合、直ちに対象になるわけではありません。
継続的に20時間以上働く見込みがあるかで判断されます。
Q2.雇用契約を週20時間未満の契約にしておけばいい?
契約上20時間未満でも、実態として超えていれば加入対象と判断される可能性があります。
Q3.通勤手当や残業代も含める?
月額賃金には、通勤手当や残業代も含まれるのが原則です。
Q4.2か月以内の契約は対象外?
原則は対象外ですが、更新が前提の場合は対象になることがあります。
4.130万円の壁とは何が違う?
106万円の壁が撤廃されても、130万円の壁は別制度として残る可能性があります。
<106万円の壁と130万円の壁の比較表>
| 項目 | 106万円の壁 | 130万円の壁 |
| 壁の内容 | 社会保険の加入対象になるかどうかの壁 | 社会保険の扶養から外れるかどうかの壁 |
| 判断主体 | 本人 | 配偶者等の扶養者 |
| 基準 | 複数要件 | 原則年収 ※ |
| 超えた場合 | 社会保険に加入 | 扶養から外れる |
※ 被扶養者認定における収入判定の考え方については、以下の弊所記事をご参照ください。
【社会保険】被扶養者の年間収入とは?2026年4月からの改正ポイントを徹底解説!
2026年以降は、「106万円は気にしなくていいが、130万円は注意が必要」というケースが増えると考えられます。
5.まとめ
「106万円の壁がなくなる」という言葉は、一見すると“働きやすくなる制度改正”のように聞こえますが、実態は「社会保険に加入しないために年収を調整する働き方が、今後は通用しにくくなる」という方向転換を意味します。106万円の壁はもともと税金ではなく社会保険の加入基準であり、撤廃されても社会保険制度自体がなくなるわけではありません。むしろ、社会保険の適用対象が広がり、パート・アルバイトであっても加入が前提となるケースが増えると考えられます。
そのため、2026年以降は「106万円を超えないように働くか」ではなく、「社会保険に加入したうえで、どのくらい働き、どのくらい収入を得るか」という視点が重要になります。特に注意したいのは、106万円の壁が見直されても、130万円の壁(扶養から外れる基準)は別制度として残る可能性が高い点です。配偶者の扶養に入っている方は、世帯全体の手取りや将来の年金額まで含めて判断する必要があります。
制度改正は今後も段階的に進む可能性があり、自己判断で働き方を決めてしまうと、思わぬ手取り減少につながることもあります。最新の制度動向を正しく把握し、自身や家族にとって最適な選択をするためにも、早めに税理士などの専門家へ相談することが、将来の安心につながると言えるでしょう。
なお、年収の壁については、以下の弊所記事もご覧ください。