源泉徴収ありの特定口座で取引する場合に、原則として確定申告の必要はないことを以下の記事で説明しました。
特定口座は確定申告が必要か?
ただし、状況によっては、源泉徴収ありの特定口座でもあえて確定申告をした方が有利な場合もあります。
そこで今回は、特定口座(源泉徴収あり)で確定申告したほうが有利な場合や、確定申告した場合の住民税申告の注意点等、節税につながる情報を解説します。
なお、年金受給者における確定申告の必要性については、以下の記事をご参考になさってください。
年金受給者の確定申告は必要か?
Table of Contents
特定口座で確定申告した方が有利な場合
特定口座(源泉徴収あり)で確定申告した方がお得な場合とは、具体的に次の4つのケースがあてはまります。
①配当控除を適用する場合(所得金額が900万円以下の人)
②一般口座や他社の特定口座の取引と損益通算ができる場合 ③譲渡損失と配当金等を損益通算できる場合 ④譲渡損失の繰越控除を行う場合 |
以下においては、特定口座(源泉徴収あり)で確定申告した方がお得なケース(上記①~④)の詳細や注意点について、説明します。
(ケース①)配当控除を適用する場合(所得金額が900万円以下の人)
課税総所得金額が900万円以下の方は、確定申告により配当にかかった税金の一部を取り戻すことができます。
特定口座内の株式は保有中に配当金が受け取れますが、この配当金に対しては既に20.315%の源泉徴収が行われています。
配当を行う会社は法人税等を支払った後に配当を実施しており、この配当を受け取った個人側でも所得税が課されると「二重課税」となってしまいます。
そこで、「二重課税」を軽減するための制度として配当控除があります。個人の確定申告で、この配当控除を受けることで税金の還付を受けることができます。
配当控除は全ての課税総所得(総合課税を選択した配当金も含みます)が1,000万円以下の場合に、12.8%(所得税10%住民税2.8%)の税額控除ができます。
例えば、配当金が100万円なら128,000円の税金還付を受けることができます。これは、株式等の譲渡損が出ている場合に限られないことから、特定口座内で株式の譲渡損と損益通算されている配当についても申告で還付を受けることができます。
ただし、配当控除を受けるためには配当金の課税方式として「総合課税」を選択する必要があります。
「申告分離課税」を選択した場合には、他の所得から独立して一律20.315%で課税されますが、総合課税は他の所得と合算して、その合算した所得金額に対する税率(累進課税)で課税されます。
<総合課税の税率表>
所得税 | 住民税 | ||
課税総所得金額 | 税率 | 控除額 | |
195万円以下 | 5% | 0円 | 10% |
195万円超 330万円以下 | 10% | 97,500円 | |
330万円超 695万円以下 | 20% | 427,500円 | |
695万円超 900万円以下 | 23% | 636,000円 | |
900万円超 1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 | |
1,800万円超 4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 | |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
そのため、所得が高い方がこの配当控除を受けようと総合課税を選択した場合には、配当金の税率の20.315%より高くなってしまい、逆に損をしてしまう可能性があるため注意が必要です。
配当控除で得をするのは、課税総所得金額が900万円以下の人(所得税率:「税率23%」-「配当控除10%」=13%)です。
この課税総所得金額とは、給与の源泉徴収票の「給与所得控除後の金額」から「所得控除の額の合計額」を差し引いた金額に、さらに配当金の金額を加えた額です。
なお、「二重課税」を軽減するための制度には、配当控除の他にも外国税額控除と呼ばれる制度もあります。この外国税額控除についての詳細は、以下の記事をご参照ください。
外国上場株式の配当金の外国税額控除
また、外国株式を譲渡した場合の所得税の取扱い(外国上場株式の損益通算等)については、以下の記事をご参照ください。
外国株式を譲渡した場合の所得税の取扱い(外国上場株式の損益通算等)
配当控除を適用する場合の住民税の注意点
課税総所得金額が900万円以下の方は、特定口座の配当金については、「総合課税」を選択して申告することで還付を受けることができると説明しましたが、住民税については、総合課税の税率が分離課税の税率よりも高くなることから注意が必要です。
具体的には、配当から源泉徴収される住民税の税率は5%であるのに対して、「総合課税」を選択した場合の住民税の税率は10%で、「配当控除」2.8%を控除しても7.2%となることから、「総合課税」を選択した場合には不利になってしまいます。
さらに、住民税で「総合課税」を選択した場合には、自営業者等の国民健康保険の保険料などにも影響があります。
ただし、所得税と住民税は異なる課税方式を選べることができるため、これを上手く活用することで、住民税のみ「申告不要」を選択することができ、この不利な点を避けて節税効果をフルで享受することができます。
そのため、一般的には、確定申告で配当を「総合課税」を選択して申告した場合には、住民税は「申告不要」を選択すると有利になります。
住民税で所得税と異なる課税方式を選択する場合には、自治体ごとに一定の手続きが必要でしたが、令和3年分の確定申告からは、確定申告書第2表の住民税欄の「特定配当等の全部の申告不要」欄に「〇」を記載するだけでよくなり、手続きが簡略化されました。
ただし、令和4年度の税制改正で、令和5年分以後の確定申告(令和6年度分以後の住民税)については、所得税と住民税で異なる課税方式の選択ができなくなることから、注意が必要です。
(ケース②)一般口座や他社の特定口座の取引と株式譲渡の損益通算ができる場合
複数の口座で株や投資信託の取引があり、一般口座や他社の特定口座で生じた株式譲渡損失と損益通算ができる場合には、確定申告により株の売却取引にかかった税金の一部を取り戻すことができます。
損失と合算することで、利益が少なくなるため、源泉徴収された金額に過払い分が発生し、申告することで、その過払い分の還付を受けることができるのです。
なお、個人が開設できる口座数には制限がなく、複数の証券会社で口座の開設は可能です。
例えば、A証券の特定口座(源泉徴収あり)で100万円の譲渡利益があり、B証券の特定口座(源泉徴収あり)で20万円の譲渡損失、C証券の一般口座で30万円の譲渡損失がある場合には、それらを合算し、その年の株の売却利益を50万円として申告(「申告分離課税」)することで、10万円ほど(=50万円×20.315%)の還付を受けることができます。
(ケース③)譲渡損失と配当金等を損益通算できる場合
源泉徴収ありの特定口座に受け入れた配当金と、一般口座や他社の特定口座で生じた譲渡損失と損益通算ができる場合には、確定申告により株の配当にかかった税金の一部を取り戻すことができます。
この場合には、配当の課税方式は「申告分離課税」を選択する必要がありますので、「総合課税」を選択した場合のメリットである配当控除の適用はできません。
例えば、A証券の特定口座(源泉徴収あり)で100万円の配当金があり、B証券の特定口座(源泉徴収あり)で10万円の譲渡損失、C証券の一般口座で20万円の譲渡損失がある場合には、それらを合算し、その年の株の配当を70万円として申告することで、6万円ほど(=30万円×20.315%)の還付を受けることができます。
なお、源泉徴収ありの特定口座で譲渡損失が生じ、その口座に配当金等を受け入れている場合には、特定口座の中で損益通算が行われますので、確定申告は不要です。
ただし、譲渡損失と配当金を損益通算するケースにおいて、確定申告は不要と思い込んでいると、還付の受け取りが漏れる可能性がありますので、注意が必要です。
(ケース④)譲渡損失の繰越控除を行う場合
譲渡損失の繰越控除を確定申告において行うことで、株の取引にかかった税金の一部を取り戻すことができます。
譲渡損失の繰越控除とは、年間の株式取引額に損失が生じた場合、翌年以降3年間その損失を繰越できる制度です。この譲渡損失の繰越控除を確定申告において行うことで、翌年以降の株の取引で生じた利益と損益通算が可能となります。
例えば、この制度を使って前年からの繰越譲渡損失が40万円、A証券の特定口座(源泉徴収あり)で100万円の株式譲渡益がある場合には、これらを合算し、その年の株式譲渡益を60万円として申告することで、8万円ほど(=40万円×20.315%)の還付を受けることができます。
なお、譲渡損失の繰越控除を行う場合には、3年間継続して確定申告を行う必要があり、途中で確定申告を怠ると、翌年度以降は繰越控除ができなくなりますので注意が必要です。
特定口座を申告する場合のその他の注意点
配当控除を適用する場合の住民税の注意点でも少し触れましたが、特定口座を申告する場合には、次の点についても注意が必要です。
①配偶者控除や家族の扶養控除
特定口座を申告する場合には、配偶者控除や扶養控除等の適用を判定する際の合計所得金額に合算されます。
合計所得金額とは、配偶者控除など扶養控除を受ける際に基準とされる金額のことで、配偶者控除を受けるためには配偶者の合計所得金額が48万円以下でなければなりません。
例えば、専業主婦の株式利益が48万円を超えている場合、申告した場合には配偶者控除の適用は受けられませんが、特定口座で「申告不要」を選択した場合には配偶者控除の適用が受けられます。
②自営業者等の国民健康保険料・高額医療費制度の医療費上限額
国民健康保険料や高額医療費制度の医療費上限額は前年の住民税の総所得金額を基に、地方自治体ごとに定められるものです。
そのため、株取引の利益を申告した場合は、翌年の国民健康保険料等が増える可能性があります。
ただし、(ケース①)確定申告で配当控除の適用を受ける場合や、(ケース④)配当を繰越控除と損益通算する場合には、上述の住民税のみ「申告不要」を選択することでで、このデメリットは回避できます。
また、給与所得者の場合、会社の健康保険に加入しており、その健康保険料や高額医療費制度の医療費上限額は給与を基に算定するため、株取引の利益を確定申告しても健康保険料等への影響はありません。
③保育園の費用(保育料)
保育園の費用(保育料)は、住民税の所得割額を基に地方自治体ごとに定めらます。
国民健康保険料と注意点は同様ですので、国民健康保険料の記載をご参照ください。
なお、3歳から5歳の保育料は無償となっていますので、0歳から2歳のお子様がいる人のみ影響があります。
④勤務先の家族手当や扶養手当
会社によっては、家族手当の支給に対して収入制限を設けている場合がありますので、注意が必要です。
特定口座の確定申告(必要書類)
最後に特定口座の確定申告をする場合の必要書類を説明します。
通常の確定申告をする場合と、繰越控除や損益通算を受ける場合とでは必要な書類が異なる点に注意が必要です。
なお、ご自身で確定申告書の作成・提出を行う場合には、国税庁の「確定申告書作成コーナー」の利用が便利です。
①特定口座の申告に必要な書類
まずは、特定口座の確定申告に必要な書類についてです。
確定申告書はAとBの2種類がありますが、株取引に関する申告を行う際には、確定申告書B(第一表、第二表、第三表)が必要です。
従来は確定申告書の添付書類として特定口座年間取引報告書の提出も必要でしたが、納税者の利便性向上の観点から手続きの簡素化が図られ、平成31年4月1日以降は特定口座年間取引報告書の添付が不要になっています。
確定申告書には個人番号の記載が必要となります。
また、紙面で申告書を提出する場合には「マイナンバーカード」もしくは「マイナンバー通知カード+身分確認書類」も必要になります。
②上場株式等に係る譲渡損失と配当所得等を損益通算する場合に必要な書類
損益通算の適用を受けるためには、上記①の書類とさらに次の書類も必要となります。
・確定申告書付表「上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除用」 ・株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書 |
③上場株式等に係る譲渡損失を繰越控除する場合に必要な書類
繰越控除の適用を受けるためには、次のケースごとに各書類も必要となります。
〈譲渡損失の金額が生じた年度〉
・確定申告書付表「上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除用」 ・株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書 |
〈譲渡損失の金額が生じた年度より後の年度〉
・確定申告書付表「上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除用」 |
〈繰越控除を受ける年度〉
・確定申告書付表「上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除用」 ・株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書 |
まとめ
以上、今回は特定口座(源泉徴収あり)で確定申告したほうが有利な場合や、確定申告した場合の住民税申告の注意点についての解説をさせていただきました。
これらを上手く活用することで個人での節税ができますが、住民税申告など注意すべき論点もありますので、申告するかどうかお悩みの場合には、金融所得に詳しい「江東区・中央区(日本橋)・千葉県(船橋)」を拠点とする保田会計グループ等の専門家にご相談することをお勧めします。
その他、会社員の節税については、以下の記事もご参照ください。
会社員の節税対策6選!!