保田会計事務所|税務・コンサル・会計・その他経営に関わる全てを総合的にサポート

BLOG

ブログ

外国上場株式の配当金の外国税額控除

近年においては、国内株式の配当利回りの低さや分散投資等を理由に外国株式等へ投資する人が増えてきています。
外国株式について、日本国内に住んでいれば、基本的には国内株式と同様の取扱いとなりますが、外国税額控除や配当控除など、国内株式と異なる論点があります。
そのため、今回は外国上場株式の配当金の税務上の取扱いについて、外国税額控除の適用などを中心に解説します。

なお、個人の実践的な節税対策については、以下のサイトをご参照ください。
当事務所について – 保田会計事務所|税務・コンサル・会計・その他経営に関わる全てを総合的にサポート

 

個人株主が支払いを受けた外国上場株式の配当金

個人株主が支払いを受けた外国上場株式の配当金は、配当所得に該当し、「配当控除の適用がない」点を除いては、基本的に国内株式と同様の課税となります。

また、外国で源泉徴収が行われる場合には、日本国内での源泉徴収との二重課税を解消するために「外国税額控除」の適用ができます。

ただし、外国上場株式の配当金を日本国内の証券口座で受け取るのか、それとも、外国証券口座で受け取るのかによって、税務上の取扱いに違いがあります。
以下においては、それぞれのケースに分けて、日本国内での課税関係を確認します。

なお、外国税額控除と似たような制度に「分配時調整外国税相当額の控除制度」があります。こちらの詳細は以下の記事をご参照ください。
分配時調整外国税相当額の控除制度が令和2年より始まっています

 

外国における源泉徴収税率

まず初めに、配当に関する外国での源泉徴収について確認します。

日本国内の個人株主が配当支払いを受けた外国上場株式の受取配当金については、日本とその配当を支払う会社の居住地国との間で締結されている租税条約により源泉徴収税率が決まります。

例えば、アメリカに本社のある会社から受けた配当金については、日米租税条約により、原則として10%の源泉徴収が行われます。

 

日本国内の証券口座で受け取る外国上場株式の配当金

日本国内の証券口座で受け取る外国上場株式の配当金についての課税関係は、次の通りです。

①日本国内での源泉徴収

個人株主が日本国内の証券口座で受け取る外国上場株式の配当金については、配当から「外国での源泉徴収税額」を控除した残額に対して、20.315%(国税15.315%、地方税5%)の源泉徴収が行われます。
つまり、日本と外国の両方で源泉徴収が行なわれることとなります。

例えば、アメリカに本社のある会社から受けた配当金については、上述の「外国での源泉徴収税額」10%を配当から控除した残額に対して、さらに日本でも20.315%(国税15.315%、地方税5%)の源泉徴収が行われます。

 

②課税方式

個人株主が日本国内の証券口座で受け取る外国上場株式の配当金については、国内株式の配当金と同様に、「総合課税」、「申告分離課税」、「申告不要」のいずれかを選択することができます。

「申告分離課税」を選択した場合はもちろん、「総合課税」を選択した場合であっても配当控除の適用がない点については注意が必要です。

 

③外国税額控除の適用

外国で源泉徴収が行われる場合には、確定申告において「外国税額控除」の適用を受けることができます
この「外国税額控除」は、日本国内での源泉徴収との二重課税を解消するために、以下の算式で計算される控除限度額の範囲で、その外国税額を日本の所得税から差し引くことができる制度です。

外国税額控除の限度額=①その年の所得税額 × (②その年の外国所得総額 ÷ ③その年の所得総額)

※ 上場株式等に係る譲渡損失との通算がある場合には、通算後の配当所得の金額を外国所得総額や所得総額とする。

この式では、国内外すべての所得のうち、外国で得た所得金額の割合(②÷③)の金額を控除できるという構造になっています。また、課税所得が多い人ほど控除できる額も多くなります。

例えば、総所得のうち外国で得た所得の割合が30%の場合、所得税の30%相当額まで控除できます。

外国税額控除は、「総合課税」による場合でも「申告分離課税」による場合でも適用することができますが、「申告不要」を選択した場合には適用することはできないことから注意が必要です。

なお、その年の控除限度額を超える外国税額がある場合等については、3年間繰り越すことができます。

 

外国の証券口座で受け取る外国上場株式の配当金

外国の証券口座で受け取る外国上場株式の配当金についての課税関係は、次の通りです。

①日本国内での源泉徴収

個人株主が外国(海外)の証券口座で受け取る外国上場株式の配当金については、日本で源泉徴収が行なわれることはありません

 

②課税方式

個人株主が外国(海外)の証券口座で受け取る外国上場株式の配当金については、日本国内で源泉徴収が行なわれることはないため、「総合課税」、「申告分離課税」のいずれかを選択して、確定申告を行う必要があります。

「申告不要」を選択することはできませんので、注意が必要です。
また、日本国内の証券口座で受け取る外国上場株式の配当金と同様に、配当控除の適用がないという点についても注意が必要です。

なお、配当控除については、特定口座に関する以下の記事の中でも、詳細を説明しておりますので、ご参照ください。
特定口座で確定申告したほうがいい人とは?

 

③外国税額控除の適用

外国で源泉徴収が行われる場合には、確定申告において「外国税額控除」の適用を受けることができます
この「外国税額控除」の適用については、日本国内の証券口座で受け取る外国上場株式の配当金と同様の取り扱いとなることから、上述の記載をご参照ください。

 

外国上場株式の受取配当金に係る課税関係一覧表

外国上場株式の受取配当金に係る課税関係について、整理をすると下表の通りとなります。

配当の受取方法 源泉徴収の有無 外国税額控除
支払者の
居住地国
日本国内 総合課税
申告分離課税
申告不要
国内証券口座 ×
× × ×
外国証券口座 × 選択できない
× × × 選択できない

 

外国税額控除額の適用による還付額シミュレーション

外国税額控除の適用によりどれくらいの還付額になるのか、外国上場株式の受取配当金が100万円の場合を事例として確認します。

①源泉徴収税額

まず、外国での源泉徴収税額は10万円(=100万円×10%)、日本国内での源泉徴収税額は181,200円(=(100万円-10万円)×所得税率20.315%)で、源泉徴収された税額の合計は281,200円となります。

 

②確定申告による税額

一方で「申告分離課税」を選択して確定申告した場合には、受取配当金100万円に所得税率を乗じるため203,100円(=100万円×20.315%)となります。

 

③還付額

確定申告による税額と源泉徴収税額との差額78,100円(=②-①)が還付されます。

 

このように確定申告することで、外国で源泉徴収された全額が還付されるわけではありませんが、外国での源泉徴収をされた税額がある程度還付されることから、一般的には確定申告をした方が有利になると考えられます。

なお、実際の還付額については、上述の外国税額控除の限度額や、「総合課税」と「申告分離課税」のどちらを選択したか等の影響で金額は変わりますので、留意が必要です。

 

特定口座の年間取引報告書上の「外国税額」

特定口座の年間取引報告書上、「外国税額」の記載がどこにあるかについては、以下のイメージをご覧ください。

 

ここに記載があれば、外国税額控除を適用した確定申告により還付を受けることをご検討ください。
この例は、楽天証券の書式例になりますが、お取引のある証券会社ごとに書式は異なります。

また、確定申告書の「外国税額控除に関する明細書」における記載は、次のようになります。

A 配当等の額:「相手国での課税標準」欄の円貨記入欄

B 外国所得税の額:「左に係る外国所得税額」欄の円貨記入欄

 

配当通知書上の「外国税額」

配当通知書上、「外国税額」の記載がどこにあるかは、以下のイメージをご覧ください。

ここに記載があれば、外国税額控除を適用した確定申告により還付を受けることをご検討ください。
この例は、SBI証券の書式例になりますが、お取引のある証券会社ごとに書式は異なります。

また、確定申告書の「外国税額控除に関する明細書」における記載は、次のようになります。

A 配当金等金額(外貨):「相手国での課税標準」欄の外貨記入欄

B 外国源泉徴収税額(外貨):「左に係る外国所得税額」欄の外貨記入欄

C 配当金等金額(円貨):「相手国での課税標準」欄の円貨記入欄

D 外国源泉徴収税額(円貨):「左に係る外国所得税額」欄の円貨記入欄

 

まとめ

以上、今回は外国上場株式の配当金の税務上の取扱いについて、外国税額控除の適用などを中心に解説させていただきました。
この外国税額控除については、適用を受けずに損をしているケースが散見されますので、今一度、確定申告書の見直しをしてみてはいかがでしょうか。

外国税額控除の適用を検討される場合には、金融所得に詳しい「江東区・中央区(日本橋)・千葉県(船橋)」を拠点とする保田会計グループ等の専門家にご相談することをお勧めします。