会社員(サラリーマン)であっても、副業をしている場合には、通常は所得税の確定申告が必要です。ただし、会社員の副業等の所得が20万円以下である場合には、例外的に所得税の確定申告は不要となります。
実務では、この例外ルールを「20万円以下申告不要ルール」と呼んでいます。
この「20万円以下申告不要ルール」については、誤って認識されていることが多く、個人事業主や不動産オーナーにも適用できると拡大解釈されたり、雑所得は20万円までなら非課税と誤解されたりしています。
そこで今回は、「20万円以下申告不要ルール」を正しく理解するために、「会社員の確定申告」や「会社員で確定申告が不要となる人」、「20万円以下申告不要ルールにおける8つの注意事項」などを詳しく解説します。
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会社員の確定申告について
所得税の確定申告は、毎年1月1日から12月31日までの1年間に生じた所得の金額とそれに対する所得税等の額を計算して確定させる手続きで、原則として、その年の翌年2月16日から3月15日の間に税務署に提出する必要があります。
ただし、会社員(サラリーマン)、役員、公務員、パート・アルバイトなどの給与所得者については、通常、勤務先の年末調整により所得税が精算されるため、所得税の確定申告は不要です。
ただし、年末調整では医療費控除や寄付金控除等の適用を受けることができないため、例えば、次のようなケースでは、会社員であっても確定申告をすることで税金の還付を受けることができます。
✓医療費の支払いが10万円を超えるケース
✓ふるさと納税(寄付する自治体数が6か所以上でワンストップ特例が使えない場合)や国・特定公益増進法人に寄附を行ったケース ✓住宅ローンを利用してマイホームを取得したケース |
また、株取引で損をした人について、「損失を3年間繰り越したい場合」や、「証券会社間で株取引の損益通算をしたい場合」には、確定申告をした方が節税につながる可能性もあります。
なお、確定申告に関しては、以下の関連記事についても、ご参照ください。
所得税の確定申告が必要な人はこちら:
「所得税の確定申告が必要な人」を詳しく解説!(確定申告が不要な人もあわせて確認)
会社員でも使える節税策はこちら:
住宅ローン控除はこちら:
【住宅ローン控除①】制度概要や要件、最大控除額、申告手続、留意点などを網羅的に解説!
特定口座の確定申告についてはこちら:
会社員で確定申告が不要となる人(20万円以下申告不要ルール)
会社員(サラリーマン)で確定申告が不要となる人は、次に該当する人です。
(1)給与所得がある人で年末調整を受けている人
会社員(サラリーマン)、役員、公務員、パート・アルバイトなどの給与所得者は、通常、勤務先で年末調整を受けることから、確定申告は不要です。
ここで、年末調整とは、以下のような仕組みを言います。
年末調整とは、給与や賞与などから天引きされた源泉徴収の金額と、1年間の所得に対して実際に納付すべき所得税の額とを比較して、過不足があれば精算(給与の天引きや還付で調整)する仕組み |
この年末調整は、原則として、「扶養控除等(異動)申告書」を提出している給与所得者全員に対して行われますが、「給与の年間収入金額が2,000万円を超える人」や「ダブルワークで他の勤務先で年末調整を受ける人」などは、年末調整の対象外となり、原則として確定申告が必要となります。
(2)給与所得がある人で副業等による所得が20万円以下の人(20万円以下申告不要ルール)
給与所得がある人で副業等による所得が20万円以下の人は、申告不要となります。
これが、いわゆる「20万円以下申告不要ルール」のことです。
このルールの趣旨としては、「税金の少額不追求」や「税務署の事務処理簡便化」が挙げられます。
正確には、給与の支払い元が1か所か2か所以上かで、次のようなルールとなっています。
< 1ヵ所から給与の支払いを受けている人>
副業等による所得(給与所得及び退職所得以外の所得の金額の合計額)が20万円以下の人は、確定申告が不要 |
<2ヵ所以上から給与の支払いを受けている人(ダブルワーク)>
主たる給与以外の給与(年末調整されなかった給与)の収入金額」(※)と「副業等による所得(給与所得及び退職所得以外の所得の金額の合計額)」が20万円以下の人は、確定申告が不要 |
※ ダブルワークの給与については、所得ではなく収入で判断するため、注意が必要です。
例えば、会社員(サラリーマン)が副業でネット販売などを行う場合、仮に副業の収入が40万円あったとしても、経費が25万円ある場合には、副業等による所得は15万円(=40万円-25万円)となり、副業等による所得が20万円以下になるため、確定申告は不要となります。
「20万円以下申告不要ルール」における8つの注意事項
「20万円以下申告不要ルール」は次のように誤って認識されていることが多いです。
✓個人事業主や不動産オーナーにも適用できる
✓雑所得は20万円までなら非課税である |
そこで、ここでは、「20万円以下申告不要ルール」を正しく理解するために、次の8つの注意事項を確認します。
(1)確定申告をする場合には、所得が20万円以下の副業も申告が必要
(2)年末調整対象外の人には適用されない (3)同族会社の役員等には適用されない場合がある (4)個人事業主やフリーランス、不動産オーナーには適用されない (5)雑所得だけでなく、給与所得・退職所得以外の所得なら対象となる (6)20万円は売上ではなく所得で判断 (7)ダブルワークの場合も給与収入額も含めて判断 (8)住民税には適用されない(住民税の申告が必要) |
上記の注意事項の詳細については、以下の通りです。
(1)確定申告をする場合には、所得が20万円以下の副業も申告が必要
「20万円以下申告不要ルール」はあくまで確定申告をする必要があるのか、それともないのかという判断基準であり、副業等の所得が20万円までなら非課税というわけではありません。
そのため、確定申告をする場合には、たとえ副業等の所得が20万円以下であったとしても、必ず申告する必要があります。
例えば、会社員(サラリーマン)が確定申告で医療費控除を受ける場合には、副業等の所得が20万円以下であったとしても、給与所得とあわせて副業等の所得も申告をしなくてはなりません。
(2)年末調整対象外の人には適用されない
このルールはあくまでも年末調整を受けている給与所得者が対象となるため、会社員(サラリーマン)であっても、年末調整の対象とならない次の人には、このルールの適用はありません。
✓給与の収入金額が2,000万円を超える人
✓ 「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出していない人(税額表の乙欄適用者) ✓他の給与の支払者に「扶養控除等申告書」を提出している人 ✓日雇労働者(日額表の丙欄適用者) ✓非居住者 ✓年の途中で退職した人(死亡により退職した人や12月中に支給期の到来する給与の支払を受けた後に退職した人を除く) |
(3)同族会社の役員等には適用されない場合がある
同族会社の役員やその親族等が、その同族会社から給与・賞与の他に、貸付金の利子や不動産の賃貸料、資産の使用料などの収入を得ている場合、その同族会社からの所得については、このルールの適用はありません。
そのため、同族会社から得ている貸付金の利子や不動産の賃貸料、資産の使用料などの収入については、金額が20万円以下であっても申告をする必要があります。
(4)個人事業主やフリーランス、不動産オーナーには適用されない
このルールはあくまでも会社員(サラリーマン)などの給与所得者が対象となるため、基本的に確定申告をしなければならない個人事業主やフリーランス、不動産オーナーなどにはこのルールの適用はありません。
(5)雑所得だけでなく、給与所得・退職所得以外の所得なら対象となる
20万円以下申告不要ルールは、給与所得・退職所得以外の所得に適用されます。
ここで、給与所得・退職所得以外の所得とは、具体的には、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、山林所得、譲渡所得、一時所得、雑所得のことを言います。
そのため、雑所得だけでなく、事業所得・譲渡所得・一時所得などが20万円以下であってもこのルールが適用されます。
(6)20万円は売上ではなく所得で判断
「20万円以下申告不要ルール」の20万円は売上(収入)ではなく所得(利益)で判断する必要があります。
例えば、副業の売上が30万円あったとしても、必要経費が12万円あれば、所得は18万円(=30万円-12万円)となり、20万円以下で申告は不要となります。
(7)ダブルワークの場合も給与収入額も含めて判断
ダブルワークにおける「20万円以下申告不要ルール」の20万円には、主たる給与以外の給与(年末調整されなかった給与)の収入金額を含めて判断する必要があります。
例えば、ダブルワークで主たる給与以外の給与(年末調整されなかった給与)収入が15万円、副業等の所得が18万円である場合には、合計で33万円(=15万円+18円)となり、20万円超となることから申告が必要となります
(8)住民税には適用されない(住民税の申告が必要)
住民税は、収入の多少に関係なく申告をする必要があるため、「20万円以下申告不要ルール」の適用がありません。
また、通常は年末調整や所得税の確定申告をすることで、住民税に関する情報も市区町村に連携されますが、年末調整をした給与所得者の副業等の所得が20万円以下で、所得税の確定申告が不要となった場合には、住民税の確定申告をしないと市区町村の住民税データが正しく更新されません。
そのため、年末調整をした給与所得者の副業等の所得が20万円以下で、所得税の確定申告をしない場合には、別途住民税の申告が必要になります。
20万円までなら非課税?間違えやすい雑所得とは
「20万円以下申告不要ルール」を確認する際、「雑所得は20万円までなら非課税」と誤解してしまう方が多くいます。
(1)雑所得とは
雑所得とは、所得税法上の所得区分の一つで、給与所得や事業所得など、他のいずれの所得にも該当しない所得を指します。雑所得にはさまざまな種類があり、副業や一時的な収入も含まれる場合があります。
(2)雑所得の具体例
以下は、雑所得に該当する主な収入の例です。
1.副業や個人活動の収入
アフィリエイト収入
フリマアプリでの利益(営利目的の場合)
ライターやデザインなどのフリーランス活動収入(規模が小さい場合)
2.年金関連の収入
公的年金(国民年金や厚生年金など)
個人年金(生命保険会社の年金商品など)
3.その他の収入
印税や講演料
賃貸物件の一時的な収入(事業として継続していない場合)
暗号資産(仮想通貨)を売却して得た利益(原則雑所得に分類)
(3)雑所得の計算方法
雑所得の金額は以下の計算式で求めます。
雑所得 = 総収入金額 – 必要経費
・総収入金額:雑所得の対象となる収入の合計額
・必要経費:その収入を得るためにかかった費用(例:取引手数料、材料費など)
たとえば、アフィリエイト収入が10万円で、必要経費が2万円の場合、雑所得は8万円となります。
(4)雑所得の特徴
1.確定申告が必要な場合
・雑所得が20万円を超える場合、確定申告が必要です(給与所得のみで源泉徴収が行われている場合)。
・雑所得が20万円以下でも、住民税の申告は必要です。
2.他の所得との違い
・雑所得は、事業規模に満たない副業や不定期な収入が対象です。
・一方、継続的かつ本格的に行っている活動による収入は、事業所得に該当する可能性があります。
雑所得を適切に申告しないと、税務署から指摘を受け、追徴課税やペナルティが課されるリスクがあります。雑所得に該当するか不明な場合は、税理士や専門家に相談するのがおすすめです。
20万以下の副業は住民税でバレる?
20万円以下の副業は確定申告をしていなくても自治体に知られる可能性があります。また、住民税が原因で、内緒で行っている副業が会社に知られてしまう可能性もあります。
(1)住民税で会社に副業がバレる理由
住民税は確定申告をしていなくても、以下のしくみで「バレる」ことがあります。
1. 支払調書が税務署に提出される
副業先(業務委託やアルバイトなど)が税務署に「支払調書」を提出する場合、その情報が税務署から自治体に共有されます。これにより、副業収入が住民税の課税対象となり、住民税額に反映されます。申告しない場合でも、自治体がその情報を把握する可能性があります。
2. 特定口座の取引情報が税務署に報告される
副業収入が投資や配当、雑所得などの場合、金融機関から税務署へ取引情報が自動的に報告されます。その情報が自治体にも共有されるため、未申告でも住民税で把握される可能性があります。
3. 未申告や不一致で自治体が調査を開始
副業収入が20万円以下で確定申告の必要がない場合でも、住民税の申告は必要です。申告をしないと、税務署や他の情報と自治体の課税情報が不一致となり、自治体が調査を行うことがあります。これにより副業が発覚することがあります。
(2)住民税で会社に副業がバレる理由
住民税が原因で、会社に内緒で行っている副業が、以下のしくみで「バレる」ことがあります。
1. 副業の住民税額が給与と異なる計算で発覚
本業の給与所得に基づいて計算された住民税と、実際に自治体から通知される住民税額が異なることで副業が知られる可能性があります。
2. 副業の住民税が「特別徴収」で発覚
副業収入が給与所得であり、住民税の納付方法が「特別徴収(給与天引き)」になっている場合、本業の勤務先にも副業分の住民税額が通知されます。この通知によって副業が発覚する可能性が高くなります。
3. 住民税の通知書の金額で気づかれる
本業の勤務先が従業員の住民税通知書を確認した際、通常の給与に見合わない住民税額の高さで、副業の存在に気づく場合があります。
20万円以下の副業収入を申告しないとどうなる?
会社員の副業等の所得が20万円以下の場合、説明した通り所得税の確定申告は不要となります。
しかし、住民税の申告は必要です。
住民税を申告しない場合、以下のリスクが考えられます。
(1)住民税の未申告で問題になる可能性がある
住民税を申告しないと、自治体が収入を把握した際に、未申告を指摘される場合があります。また、後から住民税を追徴されることもあります。
(2)税務署に収入を把握される可能性
副業の支払い元が税務署に「支払調書」を提出している場合があります。この情報が税務署や自治体に伝わり、申告漏れとして追徴課税やペナルティを課される可能性があります。
(3)延滞税や加算税が課されるリスク
副業収入の申告漏れが発覚した場合、延滞税(支払いが遅れた分の利息)や加算税(ペナルティ)が課されることがあります。特に申告漏れが意図的とみなされると、重加算税(35~40%)が課される可能性もあります。
(4) 副業が発覚するリスク
副業分の住民税が未納となることで、自治体から調査され、本業の勤務先や関係者に副業の存在が知られる可能性があります。副業OKの企業なら問題ありませんが、禁止企業もあるので注意が必要です。
副業収入が少額でも、適切に住民税を申告しトラブルを回避しましょう。
まとめ
以上今回は、「20万円以下申告不要ルール」を正しく理解するために、「会社員の確定申告」や「会社員で確定申告が不要となる人」、「20万円以下申告不要ルールにおける8つの注意事項」などを詳しく解説させていただきました。
「20万円以下申告不要ルール」とは、給与所得がある人で副業等による所得が20万円以下の人は確定申告をしなくてもいいというルールのことを言います。
この「20万円以下申告不要ルール」について、個人事業主や不動産オーナーにも適用できると拡大解釈されていることがありますが、正しくは、個人事業主や不動産オーナーには適用されません。
また、副業等の所得は20万円までなら非課税と誤解されていることがありますが、正しくは、非課税ではないため、確定申告をする場合には、たとえ副業等の所得が20万円以下であったとしても、必ず確定申告をする必要があります。
このように「20万円以下申告不要ルール」には、注意すべき事項がいくつもあるため、ルールの適用にあたって少しでも不安がある方は、税理士などの専門家にご相談されることをお勧めします。
「江東区・中央区(日本橋)・千葉県(船橋)」を拠点とする保田会計グループでは、個人の申告業務も積極的にお受けしておりますので、ご興味等ございましたら、お気軽にご連絡ください。