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【令和5年税制改正】改正後の暦年課税と相続時精算課税制度の選び方やお勧めは?

これまで、相続対策として生前贈与を活用する場合には、「暦年贈与」を使うことがほとんどで、「相続時精算課税制度による贈与」はあまり使われてきませんでした。

ただし、令和5年度税制改正により、「暦年贈与」は相続財産に加算する期間が延長(改悪)される一方で、「相続時精算課税による贈与」は基礎控除が創設(改善)されることとなりました。

 

そのため、これから、相続対策として生前贈与を活用する場合には、「暦年贈与」と「相続時精算課税制度による贈与」のどちらが家族にとって有利かしっかりと検討を行い、正しい選択をすることが重要となります。

そこで今回は、暦年課税と相続時精算課税制度に関して、「令和5年度税制改正のポイント」や「制度の比較」、「選び方(事例)」、「ケース別のお勧め」などを解説します。

 

 

暦年贈与と相続時精算課税制度の令和5年度税制改正のポイント

「資産移転の時期の選択により中立的な税制」の構築を目的として、令和5年度税制改正により、「暦年贈与」と「相続時精算課税制度」が次の通り、改正されています。

 

(1)暦年贈与は「生前贈与加算期間の延長」(不利な改正)

暦年贈与は税制改正によって、生前贈与加算の年数が従来の3年以内から7年以内に延長されています

この生前贈与加算期間の延長は相続税額の増加に繋がるため、納税者にとって不利な改正となります

なお、適用については、経過措置があり、2027 年以降に1年ずつ加算の対象期間が延長され、2031 年以降から加算の対象期間が 7 年となります。

 

(2)相続時精算課税制度は「基礎控除の創設」(有利な改正)

相続時精算課税制度は税制改正によって、年間110万円の基礎控除が新たに創設されています

この相続時精算課税制度の基礎控除は、2,500万円の非課税枠とは別に年間110万円が非課税となるもので、基礎控除の範囲内であれば贈与税は発生せず、贈与税の申告も必要ありません。

さらに、基礎控除内で贈与された財産については相続時の持ち戻しの対象にはならず、相続財産に加算する必要もありません。

この基礎控除の創設は、贈与税額と相続税額の減少に繋がるため、納税者にとって有利な改正となります

 

 

暦年贈与と相続時精算課税制度の比較

ここでは、暦年贈与と相続時精算課税制度について主な項目の比較表を確認します。

 

<暦年贈与と相続時精算課税の比較表>

比較項目 暦年贈与 相続時精算課税
非課税枠 基礎控除:毎年110万円 基礎控除:毎年110万円

特別控除:2500万円

対象となる財産 すべての財産 すべての財産
贈与者になれる者 制限なし 贈与する年の1月1日時点で60歳以上の父母または祖父母
受贈者になれる者 制限なし 贈与の年の1月1日時点で18歳以上の子や孫
贈与税率 10〜55%の累進課税 一律で20%
贈与税額の計算 (贈与額−110万円)×10〜55% (贈与額−110万円−2,500万円)×20%
基礎控除以下の場合の申告の要否 不要 不要(初年度は申告不要であっても、届出の提出が必要)
相続財産への持ち戻し 基礎控除を含めて、相続発生から7年以内の贈与財産を相続財産に加算

※ 令和5年度税制改正前は3年以内で、令和9年から令和12年にわたって1年ずつ加算対象期間が延長)

基礎控除を除く、すべての贈与財産を相続財産に加算

 

なお、暦年贈与と相続時精算課税制度の詳細については、以下の記事をご覧ください。

暦年贈与はこちら:

暦年贈与とは?メリット・デメリットや選択した方がいいケースを解説!

 

相続時精算課税制度はこちら:

相続時精算課税制度とは?メリット・デメリットや選択した方がいいケースを解説!

 

 

暦年贈与と相続時精算課税制度の選び方(事例)

暦年贈与と相続時精算課税制度の選び方について、次の3つの事例を基に有利な方を確認します。

実際には、贈与する財産の金額や贈与者の相続財産、相続が発生するまでの期間などによって、暦年贈与と相続時精算課税制度のどちらが有利かは異なるため、注意が必要です。

 

(1)毎年、基礎控除額(110万円)以下の贈与を繰り返すケース

毎年110万円以下の贈与を受ける場合、暦年課税と相続時精算課税制度のどちらを選んでも贈与税はかからず、結果は同じになります。

ただし、相続税の観点では暦年課税には7年以内の生前贈与加算がある一方で、相続時精算課税制度には基礎控除以下の贈与は相続財産への持ち戻しがないため、相続時精算課税制度を選択した方が有利になります。

 

具体的な有利・不利の計算は、次の事例で確認します。

<事例①>

✓贈与:110万円 / 年 × 10年(特例贈与)

✓相続財産:1億円

✓法定相続人:2人(長男、次男)

※計算を単純化するために、贈与を行うことによる相続財産の減少は考慮していません。(事例②③も同様)

 

<暦年贈与の計算>

✓贈与税:0円

✓相続時の持ち戻り:110万円 × 7年 = 770万円

✓相続税の課税価格:1億円+持ち戻り770万円

✓相続税:914万円

✓贈与税+相続税:914万円

 

<相続時精算課税による贈与の計算>

✓贈与税:0円

✓相続時の持ち戻り:なし

✓相続税の課税価格:1億円

✓相続税:770万円

✓贈与税+相続税:770万円

 

<判定結果>

✓暦年贈与の贈与税+相続税:914万円

✓相続時精算課税の贈与税+相続税:770万円

よって、相続時精算課税の方が144万円、有利となる

 

(2)基礎控除額を超える贈与を行うケース

毎年、基礎控除を超える贈与を行う場合、贈与を行う期間や贈与額によって、暦年課税の方がいいのか相続時精算課税制度を選択した方がいいのかが異なりますが、10年以内の期間で行う贈与の場合は、相続時精算課税制度を利用した方が有利になるケースが多いです。

 

具体的な有利・不利の計算は、次の事例で確認します。

<事例②>

✓贈与:410万円 / 年 × 10年(特例贈与)

✓相続財産:1億円

✓法定相続人:2人(長男、次男)

 

<暦年贈与の計算>

✓贈与税:( 410万円 − 110万円 )×15% − 10万円 = 35万円

✓贈与税の合計:35万円 × 10年 = 350万円

✓相続時の持ち戻り:410万円 × 7年 = 2,870万円

✓相続税の課税価格:1億円 + 持ち戻り2,870万円

✓相続税(贈与税額控除245万円):1,089万円

✓贈与税+相続税:350万円 + 1,089万円 = 1,439万円

 

<相続時精算課税による贈与の計算>

贈与税(1〜8年目):( 410万円 − 110万円 − 300万円 )× 20% = 0円

贈与税(9年目):( 410万円 − 110万円 −100万円 )× 20% = 40万円

贈与税(10年目):( 410万円 − 110万円 )× 20% = 60万円

贈与税の合計:40万円 + 60万円 = 100万円

相続時の持ち戻り:( 410万円 − 110万円 )× 10年 = 3,000万円

相続税の課税価格:1億円 + 持ち戻り3,000万円

相続税(贈与税額控除100万円):1,260万円

贈与税+相続税:100万円 + 1,260万円 = 1,360万円

 

<判定結果>

✓暦年贈与の贈与税+相続税:1,439万円

✓相続時精算課税の贈与税+相続税:1,360万円

よって、相続時精算課税の方が79万円、有利となる

 

(3)10年超にわたって基礎控除額を超える贈与を行うケース

贈与期間が10年を超えて、基礎控除額を超える贈与を行うケースでは、暦年課税の方が有利になることもあります

具体的な有利・不利の計算は、次の事例(事例②の贈与期間を15年とした場合)で確認します。

 

<事例③>

✓贈与:410万円 / 年 × 15年(特例贈与)

✓相続財産:1億円

✓法定相続人:2人(長男、次男)

 

<暦年贈与の計算>

✓贈与税:( 410万円 − 110万円 )×15% − 10万円 = 35万円

✓贈与税の合計:35万円 × 15年 = 525万円

✓相続時の持ち戻り:410万円 × 7年 = 2,870万円

✓相続税の課税価格:1億円 + 持ち戻り2,870万円

✓相続税(贈与税額控除245万円):1,089万円

✓贈与税+相続税:350万円 + 1,089万円 = 1,439万円

 

<相続時精算課税による贈与の計算>

贈与税(1〜8年目):( 410万円 − 110万円 − 300万円 )× 20% = 0円

贈与税(9年目):( 410万円 − 110万円 −100万円 )× 20% = 40万円

贈与税(10〜15年目):( 410万円 − 110万円 )× 20% = 60万円

贈与税の合計:40万円 + 60万円 × 6年= 400万円

相続時の持ち戻り:( 410万円 − 110万円 )× 15年 = 4,500万円

相続税の課税価格:1億円 +持ち戻り4,500万円

相続税(贈与税額控除400万円):1,290万円

贈与税+相続税:400万円 + 1,290万円 = 1,690万円

 

<判定結果>

✓暦年贈与の贈与税+相続税:1,439万円

✓相続時精算課税の贈与税+相続税:1,690万円

よって、暦年贈与の方が251万円、有利となる

 

 

暦年贈与と相続時精算課税のケース別のお勧めは?

相続税には、基礎控除と呼ばれる「相続財産の総額から一定額(3,000万円+600万円✕法定相続人)を控除できる制度」があることから、相続財産が基礎控除以下の人に相続が発生しても相続税はかかりません。

そこで、「相続税のかかる人」と「相続税のかからない人」に分けた上で、上記の事例も踏まえ、暦年贈与と相続時精算課税のどちらがお勧めかを確認します。

なお、ここでは、相続時精算課税が使える60歳以上の父母または祖父母から、18歳以上の子または孫に対する贈与であることを前提とします。

 

(1)相続税のかかる人からの贈与

①110万円以内の贈与のみを行う場合には相続時精算課税がお勧め

相続時精算課税では、110万円以内の贈与を行う場合、贈与税がかからない上に相続発生時の相続財産への持ち戻りもありません。

一方で、暦年贈与では、110万円以内の贈与を行う場合、贈与税はかかりませんが、相続発生時の贈与加算期間が7年に延長されます。

そのため、相続税のかかる人が110万円以内の贈与のみを行う場合には相続時精算課税がお勧めです

 

なお、相続時精算課税を選択する場合、110万円以内の贈与は申告不要ですが、初年度には届出の提出が必要となるため、ご注意ください。

 

②110万円を超える贈与を行う場合、贈与期間が短いときは相続時精算課税制度、贈与期間が長く、贈与額が多いときは暦年贈与が有利になることが多い

贈与を行う期間や贈与額によって、暦年課税と相続時精算課税制度のどちらが有利となるかは異なるため、実際に贈与を行う場合には、贈与を行う前に贈与税・相続税のシミュレーションを行うことをお勧めします

一般的に、贈与期間が短い(10年以内)ときには、相続時精算課税制度の方が有利になるケースが多く、一方で、贈与期間が長く、贈与額が多い場合には暦年贈与が有利になるケースが多いです。

 

(2)相続税のかからない人からの贈与

①110万円以内の贈与のみを行う場合には暦年贈与がお勧め

暦年贈与では相続発生時の贈与加算期間が7年もありますが、相続税のかからない人であれば、この点はデメリットとならないため、届出などの手続きが不要な暦年贈与がお勧めです。

仮に110万円を超える贈与を行う場合には、その時点で相続時精算課税に切り替えます。

 

②110万円を超える贈与を行う場合には相続時精算課税がお勧め

相続時精算課税では、110万円の基礎控除に加えて、2,500万円の特別控除もあります。

そのため、相続税のかからない人の場合、110万円を超える贈与を行なっても、2,500万円までは贈与税はかからず、仮に贈与が2,500万円を超える場合であっても、相続時に相続税の申告を行うことで、贈与税の還付を受けることができます。

一方で、暦年贈与では、110万円を超えて贈与を行う場合には、贈与税がかかり、相続時に相続税の申告を行ったとしても、贈与税の還付を受けることはできません。

そのため、相続税のかからない人が110万円を超える贈与を行う場合には相続時精算課税がお勧めです。

 

 

まとめ

以上今回は、暦年課税と相続時精算課税制度に関して、「令和5年度税制改正のポイント」や「制度の比較」、「選び方(事例)」、「ケース別のお勧め」などを解説いたしました。

これまで、相続対策として生前贈与を活用する場合には、「暦年贈与」を使うことがほとんどで、「相続時精算課税制度による贈与」はあまり使われてきませんでした。

ただし、令和5年度税制改正により、「暦年贈与」は相続財産に加算する期間が延長され改悪された一方で、「相続時精算課税による贈与」は基礎控除が創設され改善されました。

 

そのため、令和6年度以降に相続対策として生前贈与を活用する場合には、「暦年贈与」と「相続時精算課税制度による贈与」のどちらが家族にとって有利かしっかりと検討を行い、正しい選択をすることが重要となります。

暦年贈与と相続時精算課税のケース別のお勧めは次のようになります。

<相続税のかかる人からの贈与>

✓110万円以内の贈与のみを行う場合には相続時精算課税がお勧め

✓110万円を超える贈与を行う場合、贈与期間が短いときは相続時精算課税制度、贈与期間が長く、贈与額が多いときは暦年贈与がお勧め

 

<相続税のかからない人からの贈与>

✓110万円以内の贈与のみを行う場合には暦年贈与がお勧め

✓110万円を超える贈与を行う場合には相続時精算課税がお勧め

 

ただし、贈与を行う期間や贈与額によって、暦年課税と相続時精算課税制度のどちらが有利となるかは異なるため、実際に贈与を行う場合には、贈与を行う前に贈与税・相続税のシミュレーションを行うことが重要です。

 

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