相続税法の改正により、2015年(平成27年)1月から、「基礎控除額」が大きく引き下げられ、相続税申告が必要となる人が2倍に増えたと言われています。
そのため、相続税が身近な税金となり、最近では、相続税の「生前対策」や「節税方法」について、お問い合わせいただくケースも増えています。
そこで、今回は相続税の節税ができる「養子縁組」について、「節税ポイント」や「節税効果」、「活用する場合の注意点」などを解説します。
Table of Contents
養子縁組とは?
「養子縁組」とは、養親と養子との間に法律上の親子関係を作り出すための制度です。
そのため、養子縁組が成立すると、養子は法定相続人となり、財産を相続する権利を取得するとともに、扶養に関する義務をもつことになります。
養子縁組が一般的に行われるのは、次のようなケースです。
✓再婚時に再婚相手の連れ子と養子縁組をする
✓結婚時に相手方の両親と養子縁組をする |
ただし、これらのケースに限られず、例えば、相続税の節税対策になることを考慮して孫と養子縁組をすることもあります。
なお、「養子縁組制度の特徴や手続き」、「普通養子縁組と特別養子縁組の比較」などについては、以下の記事をご参照ください。
普通養子縁組と特別養子縁組の「特徴・比較・手続き」を漏れなく解説!
また、普通養子縁組届の書き方等については、以下の記事をご参照ください。
普通養子縁組届の書き方や必要書類を詳しく解説!(記入例付き)
養子縁組による節税ポイント
それでは、養子縁組を行うことで、どのように節税ができるのでしょうか。ここでは、養子縁組による節税ポイントを4点確認します。
(1)相続税の基礎控除額の拡大
相続税の基礎控除額は以下の計算式で算定されるため、法定相続人の数が増えると基礎控除額が大きくなります。
3000万円 + 600万円 × 法定相続人の数 |
そのため、養子縁組を行うことで、法定相続人を1人増やすことができれば、基礎控除額が600万円増加し、その結果、課税遺産総額が600万円減少することで、節税が可能となります。
なお、相続税計算上は、法定相続人の数に含めることができる養子の数は制限されており、被相続人に実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までとなります。
(2)生命保険金等の非課税枠の拡大
被相続人の死亡に伴い支払われる生命保険金や死亡退職金の非課税枠は、以下の計算式で算定されるため、法定相続人の数が増えると非課税枠が大きくなります。
500万円 × 法定相続人の数 |
そのため、養子縁組を行うことで、法定相続人を1人増やすことができれば、非課税枠が500万円増加し、その結果、課税遺産総額が500万円減少することで、節税が可能となります。
なお、相続税計算上、法定相続人の数に含めることができる養子の数が制限されている点は上述の通りです。
(3)適用税率が下がる
相続税の総額の計算過程においては、以下の通り、課税遺産総額を法定相続分で按分したうえで、各相続人の相続税額を計算して合計します。
ここで適用される税率は10%~55%まで段階的に増えていく「超過累進税率」が採用されています。
そのため、養子縁組により法定相続人が増えることで、各法定相続人に配分される課税遺産が少なくなることから、適用される税率が下がり、結果として、相続税の総額が少なくなる場合があります。
なお、相続税の計算方法については、以下の記事をご参照ください。
相続税の計算方法をわかりやすく解説!(スケジュールや相続税がかかる遺産額も)
(4)相続税の課税機会を1回飛ばすことができる(孫養子)
3世代で相続を考えた場合、相続税の課税機会は「親から子への相続時」、「子から孫への相続時」の2回になることが通常です。
ここで、孫を養子にした場合には、相続税の課税機会は「親から孫への相続時」の1回になるため、相続税の課税機会を1回分飛ばす(回避する)ことができます。
相続税の課税機会が1回減ることで、3世代全体で考えた時の相続税負担を軽減できる可能性があります。
ただし、相続等で財産を取得した人が被相続人の「1親等の血族および配偶者」以外の場合には、その人の相続税の2割が加算されるという「2割加算」のルールがあります。
孫養子の場合にも、この2割加算の対象になることから、注意が必要です。
養子縁組の活用による節税効果
ここでは、養子縁組の活用による節税効果を具体的な金額で確認します。
<前提>
✓配偶者はいない
✓子供(実子)は1人 ✓遺産総額には生命保険1千万円(受取人は実子)が含まれる ✓子供(実子)と養子の取得財産は法定相続割合の1/2ずつ ✓特例計算や税額控除は考慮しない |
このケースにおいて、養子縁組を行った場合の相続税の節税効果は下表の通りです。
遺産総額 | 子1人 の相続税 |
子1人+養子1人 の相続税 |
節税効果 |
5千万円 | 90万円 | 0円 | 90万円 |
8千万円 | 580万円 | 320万円 | 260万円 |
1億円 | 1,070万円 | 620万円 | 450万円 |
2億円 | 4,660万円 | 3,040万円 | 1,620万円 |
3億円 | 8,955万円 | 6,520万円 | 2,435万円 |
5億円 | 1億8,750万円 | 1億4,760万円 | 3,990万円 |
10億円 | 4億5,545万円 | 3億9,000万円 | 6,545万円 |
この表からは、例えば、遺産総額が1億円の場合には450万円の節税効果があり、遺産総額が増加にするにつれて、養子縁組の活用による相続税の節税効果は高まることが分かります。
なお、相続税が無税となるケースについて、興味がある方は以下の記事もご参照ください。
相続税の無税はいくらまで?(相続税の早見表つき)
養子縁組を活用する場合の注意点
ここでは、相続税を節税することを意識して養子縁組を活用する場合の主な注意点を3つ確認します。
(1)明らかな節税目的と認めれれる場合には否認されるリスクもある
平成29年1月31日の最高裁判決では「相続税の節税の動機と養子縁組をする意思は併存し得るものであって、もっぱら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちにその養子縁組について、当事者間に養子縁組をする意思がないとすることはできない」としています。
つまり、この判例では、節税目的の養子縁組であっても、それだけでは直ちに無効にならないことを明らかにしています。ただし、これは民法上の養子縁組の有効性に関する判例であり、税法上、節税目的の養子縁組が当然に認められたわけではありません。
相続税法の第63条には「養子の数を相続人の数に算入することが、相続税の負担を不当に減少させる結果になると認められる場合には、税務署長は養子の数を加味せずに相続税の計算ができる」と規定されています。
そこで、実務上は以下のようなケースなど、養子縁組制度の利用が明らかな節税目的のみと認められる場合には、税務署から相続人の数を否認される可能性があると言われています。
✓被相続人が亡くなる直前に行った養子縁組
✓被相続人が意思表示のできない状態で行った養子縁組 |
そのため、養子縁組制度の利用にあたっては、節税目的以外にも、次のような「他の目的」があることを関係者全員で認識しておくことが重要です。
✓家業を継いでもらうため
✓氏を後世の残すため ✓扶養に関する義務(身の回りの世話や介護など)を負わせるため |
(2)法定相続人が逆に減少することもある
親族関係によっては、養子縁組を活用することで、逆に法定相続人の数が減少してしまうことがあります。
例えば、被相続人に両親と子がいない場合、法定相続人は配偶者と兄弟姉妹になります。この場合に養子縁組を活用すると、法定相続人が配偶者と養子に変わります。そのため、兄弟姉妹が複数いた場合には、養子縁組をすることで法定相続人の数が減少して、結果的に相続税が増加する可能性もあります。
(3)相続争いの発生
養子縁組を活用することで、相続争いが発生してしまうことがあります。
例えば、上記(2)の例では、法定相続人が変わることで、もともとは相続財産を取得できたはずの兄弟姉妹が、養子縁組によって法定相続人ではなくなり、相続財産を取得できなくなることがあります。ここで、兄弟姉妹が相続財産の取得に期待をしていた場合には、争いとなる可能性があります。
また、養子縁組の活用で法定相続人の立場が変わらない場合であっても、法定相続人が増えることで他の相続人の相続財産の取り分が減る場合には、争いとなる可能性もあります。
養子縁組を節税対策として行う前に
上述の通り、養子縁組の活用には、大きな節税効果があります。
一方で、いくつかの注意点もあることから、節税対策を意識して養子縁組を実施される場合には、実行前に相続の専門家にご相談されることをお勧めします。
節税対策のためにやったつもりが実は税金が増える結果になっていたという失敗事例は、実務の世界でもよく耳にします。
そのため、養子縁組の活用についても、専門家なしで対応される場合には十分に注意が必要です。
なお、相続税の節税方法として、よく使われる「配偶者控除」や「小規模宅地等の特例」については、以下の記事もご参考になさってください。
配偶者控除はこちら:
配偶者控除の適用で相続財産1億6,000万円までなら無税(要件やデメリットなども)
小規模宅地等の特例はこちら:
小規模宅地の特例で相続税を大幅に減額!!
まとめ
以上、今回は相続税の節税ができる「養子縁組」について、「節税ポイント」や「節税効果」、「活用する場合の注意点」などを解説させていただきました。
「養子縁組」とは、養親と養子との間に法律上の親子関係を作り出すための制度で、養子縁組が成立すると、養子は法定相続人となることから、相続税の節税対策になります。
ただし、次のような注意点があるため、節税対策を意識して養子縁組を実施される場合には、実行前に相続の専門家にご相談されることをお勧めします。
✓目的が節税だけでは否認リスクあり
✓法定相続人が逆に減少することもある
✓相続争いの発生
なお、「江東区・中央区(日本橋)・千葉県(船橋)」を拠点とする保田会計グループでは、「養子縁組の活用」はもちろん様々な相続対策・生前対策などの支援実績があります。
少しでもご興味いただける場合には、まずはお気軽にご連絡ください。