相続対策として、養子縁組を活用する方法があることは前回の記事で解説しました。
この養子縁組に制度には、「普通養子縁組」と「特別養子縁組」の2種類があります。
そこで今回は、「養子縁組制度の概要」を確認した上で、「普通養子縁組と特別養子縁組の両制度の特徴」、「両制度の比較や手続き」などを解説します。
なお、養子縁組を活用した相続税の節税方法については、以下の記事をご参照ください。
養子縁組で相続税を節税!!(節税効果や注意点も)
Table of Contents
養子縁組制度の概要
養子縁組とは、養親と養子との間に法律上の親子関係を作り出すための制度です。
養子縁組には、次の2つの制度があります。
①普通養子縁組:縁組後も実親との関係が存続する養子縁組制度
②特別養子縁組:縁組により実親との関係が終了する養子縁組制度 |
特別養子縁組は、子供の利益のために特に必要がある場合に限って、家庭裁判所の手続きにより成立します。
一方で、普通養子縁組は、市区町村等への届出のみで成立します。ただし、未成年者を養子とする場合には家庭裁判所における許可等が必要となります。
各制度の詳細は後述しますが、養子縁組制度の概要については、以下の法務省サイトもご参考になさってください。
養子縁組について知ろう <法務省> (moj.go.jp)
普通養子縁組の主な特徴
普通養子縁組は、特別養子縁組に比べて手続きが簡単で、条件も緩やかです。まずは、普通養子縁組の特徴を確認します。
(1)養親と養子の同意だけで成立する
普通養子縁組は養親と養子の同意さえあれば成立し、家庭裁判所の審判は不要です。
また、手続きについては、養子縁組届を書いて役所に提出するだけであることから、特別養子縁組と比べて、とても簡単です。
なお、養子になる子供が未成年者の場合(孫や結婚相手の連れ子との縁組の場合は除く)には、家庭裁判所の許可が必要となることから、注意が必要です。
この特徴により、普通養子縁組は、以下のような場合に利用されています。
✓再婚相手の子どもを養子にする場合
✓娘の結婚相手を婿養子にする場合 ✓相続税対策で孫を養子にする場合 |
なお、「相続税が無税となるケース」や、「相続税がかかる場合に適用できる控除や特例」について、興味がある方は以下の記事もご参照ください。
相続税の無税はいくらまで?(相続税の早見表つき)
(2)実親との関係が存続する
普通養子縁組は、養子になった後でも、実親(生みの親)との親子関係は変わらず存続します。子供の立場からすると、実親と養親との2つの親子関係が存在することになります。
(3)戸籍の記載
普通養子縁組の場合、養子は養親の戸籍に入り、養親の名字になります(結婚時に名字を変更した養子は除く)。
そして、戸籍上の続柄は「養子」または「養女」と記載され、実の親の名前も記載されます。
特別養子縁組の主な特徴
「特別養子縁組」とは、いろいろな事情により実親と生活ができない子供のために、新たに養親との間に実の子と同じ法律上の親子関係を成立させ、子供の健全な養育環境を整えて子の福祉を図るための制度です。
次は、この特別養子縁組の特徴を確認します。
(1)家庭裁判所の許可が必要
特別養子縁組を成立させるためには、必ず家庭裁判所の審判が必要です。
家庭裁判所では、特別養子縁組を認めるための条件がそろっているかどうかを検討し、条件を満たすと判断した場合にだけ許可をしています。
(2)実親との関係が終了する
特別養子縁組が成立すると、養子と実親との間の法律上の親子関係がなくなります。
そのため、実親が亡くなった時でも、実親の遺産を相続することはできなくなります。
(3)戸籍の記載
特別養子縁組の場合、最終的に養子は養親の戸籍に入りますが、次のような3つのSTEPを踏むことになります。
STEP1:養子は実親の戸籍から除籍される
STEP2:いったん養子を筆頭者とする新戸籍が編製(作成)される STEP3:養子は新戸籍から除外され、養親の戸籍に入る |
上記のSTEP2で、いったん養子単独の戸籍を編製することで、実親の戸籍を見ても、養子がどこに行ったのか分からないようにしています。
この養子単独の戸籍の内容は、実親と同じ本籍地で、名字は養親と同じになります。そして、戸籍上の続柄は「長女」「三男」などと、実子と同じように記載され、特別養子縁組により実親の戸籍から入籍があった旨が記載されます。
また、上記のSTEP3で養子が最終的に入籍する養親の戸籍には、「特別養子縁組」という記載はなく、「民法817条の2による裁判確定」と記載されます。
普通養子縁組と特別養子縁組の比較
ここでは、上記3の記載内容も含めて、普通養子縁組と特別養子縁組の比較表を確認します。
普通養子縁組 | 特別養子縁組 | |
目的 | ✓「家」の存続のため ✓親のため ✓相続税の節税のため |
✓子供の福祉を図るため |
縁組の設立 | ✓当事者の同意のみで成立 | ✓家庭裁判所の許可審判 |
実親との関係 | ✓実親との関係は「存続する」 | ✓実親との関係は「終了する」 |
養親の条件 | ✓独身可 ✓20歳以上 |
✓婚姻している夫婦 ✓25歳以上(夫婦の一方が25歳以上の場合、もう一方は20歳以上でいい) |
養子の条件 | ✓養親より年下 ✓養親の尊属(前の世代)は不可 |
✓原則、15歳未満 |
実親等の同意 | ✓養子が15歳未満の場合、法定代理人の承諾が必要 | ✓原則、同意が必要 |
配偶者の同意等 | ✓結婚している者が縁組する場合、配偶者の同意が必要 ✓結婚している者が縁組する場合で、養子が未成年者のときは、夫婦ともに養親になる(結婚相手の連れ子との縁組の場合は除く) |
✓同意が必要(そもそも夫婦揃っていないと制度を使えない) |
その他の条件 | ✓特になし | ✓実親が子どもを育てるのが困難または不適当なとき |
縁組の手続き | ✓役所に縁組届の提出が必要 ✓養子が未成年者の場合には、家庭裁判所の許可が必要(自分の孫や結婚相手の連れ子との縁組の場合は不要) |
✓家庭裁判所による審判が必要 ✓役所に縁組届の提出が必要 |
試験養育期間 | ✓なし | 6ヶ月以上の試験養育期間 |
戸籍の表示 | ✓「養子」や「養女」 | ✓「長男」や「長女」 |
離縁 | ✓離縁は原則できる | ✓離縁は原則できない |
費用 | ✓養子縁組届書の提出自体は手数料なし ✓戸籍謄本の取得手数料450円 |
✓家庭裁判所に申し立てる際の収入印紙800円と返信用の切手代 ✓戸籍謄本の取得手数料450円 |
必要期間 | ✓特になし(市区町村に届出した日に成立) | ✓準備手続き1年程度+法的手続き3~6か月 |
普通養子縁組と特別養子縁組の手続き
ここでは、普通養子縁組と特別養子縁組の各手続きについて確認します。
(1)普通養子縁組の手続き
普通養子縁組の手続きについての詳細は、以下の記事をご参照ください。
普通養子縁組届の書き方や必要書類を詳しく解説!(記入例付き)
(2)特別養子縁組の手続き
特別養子縁組は実親との関係は終了し、養子縁組の解消も原則できないことから、慎重に手続きを進める必要があります。
養親は法的に重い責任を負うこととなることから、法的手続きを行う前の準備手続きとして、まずは、以下のような手続きが必要になります。
<特別養子縁組の準備手続き>
①申請要件の確認
特別養子縁組を行うことができる人について、様々な要件があるため、まずはこれらの要件を満たすかどうか確認をします。
②里親研修の受講
特別養子縁組を行うためには、児童相談所やあっせん機関の紹介を受けることが一般的です。いきなり養親になるのではなく、まずは里親制度を利用して子供を育てられるように研修を受講します。
③里親の登録申請
里親研修を受講したら、里親の登録を申請します。
登録申請を行うと、その内容について児童相談所などで調査や審議が行われます。
④養子縁組里親に登録
里親の登録申請が認められると、里親として認定され、養子縁組里親に登録されます。
⑤養子となる子供の紹介
児童相談所を通じて、養子になることを希望する子供の紹介を受けます。その後、3~4か月程度、その子供との交流期間が設けられます。
⑥養育の委託
児童相談所は、里親の意向や子供の状況から、子供の養育を委託するかどうかの可否を決定します。委託が決定すると、試験養育期間として、6か月程度一緒に生活をして、実際に養育を行います。
<特別養子縁組の法的手続き>
①特別養子縁組成立の申立て
6か月程度の試験養育期間が終了すると、特別養子縁組の法的な手続きを行うことができます。
まずは家庭裁判所に対して、特別養子縁組成立の申立てを行います。この際に必要となる書類は次の通りです。
✓特別養子適格の確認申立書
✓特別養子縁組成立の申立書 ✓養親となる人の戸籍謄本 ✓養子となる人の戸籍謄本 ✓養子となる人の実父母の戸籍謄本 |
②特別養子縁組届の提出
家庭裁判所で特別養子縁組成立の審判が確定した場合には、審判確定の日から10日以内に市区町村の役場に「特別養子縁組届」を提出します。
提出先は、養子の本籍地か、養親の本籍地・住所地・所在地のいずれかの市区町村となります。この際に必要となる書類は次の通りです。
✓特別養子縁組届書
✓家庭裁判所の審判書謄本と確定証明書 ✓養親となる人の戸籍謄本(本籍地以外に届出する場合) |
<特別養子縁組に要する費用>
特別養子縁組を行う場合にかかる費用は、家庭裁判所に申し立てる際の収入印紙代800円と、返信用の切手代です。
また、市区町村の役場での手続きには、戸籍謄本を取得する場合には、その取得手数料450円がかかります。
<特別養子縁組に必要な期間>
特別養子縁組を行うためには、法的手続きを始める前に1年程度の期間が必要となります。
また、家庭裁判所での法的手続きを開始した後も、審判が確定するまでは数か月程度かかることがありますので、時間はかかることを前もって認識しておくことが重要です。
まとめ
以上今回は、「養子縁組制度の概要」「普通養子縁組と特別養子縁組の両制度の特徴」、「両制度の比較や手続き」などを解説いたしました。
「養子縁組」とは、養親と養子との間に法律上の親子関係を作り出すための制度で、普通養子縁組と特別養子縁組の2種類があります。
普通養子縁組は、特別養子縁組に比べて手続きが簡単で、条件も緩やかです。そのため、相続税の節税対策には、通常は普通養子縁組を活用します。
ただし、普通養子縁組であっても、気をつけるべき点がいくつかあるため、節税対策を意識して養子縁組を実施される場合には、実行前に相続の専門家にご相談されることをお勧めします。
なお、「江東区・中央区(日本橋)・千葉県(船橋)」を拠点とする保田会計グループでは、「養子縁組の活用」はもちろん様々な相続対策・生前対策などの支援実績があります。
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