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役員退職給与の基礎知識を解説!(計算方法、損金算入、分掌変更)

中小企業オーナーにとって、簡単で節税効果の大きいものとして、真っ先に思い浮かぶのが役員退職金の活用です。
役員退職金の活用が簡単といっても、無制限に会社の費用として損金算入できるわけではなく、いくつかのルールや注意事項等があります。

そこで今回は、この役員退職金に関する基礎知識として、「役員退職金の概要」や「役員退職金の計算方法」、「役員退職金の損金算入」「分掌変更による役員退職金」などを詳しく解説します。

実践的な節税対策については、以下のサイトをご参照ください。
当事務所について – 保田会計事務所|税務・コンサル・会計・その他経営に関わる全てを総合的にサポート

 

役員退職金の概要

役員退職金とは、役員が退任・退職した後に在任中の職務執行の対価の一部の後払いとして支給される役員給与を言い、税務上は「役員退職給与」と呼んでいます。

この役員退職金の支給にあたっては、定款で定めがない限り、法人の最高意思決定機関である株主総会の決議が必要とされています(会社法361①、会社法387)。

株主総会の決議が必要とされる理由は、役員が役員自身の退職金を増やす「お手盛り」を防止するためとされており、原則として、株主総会決議を経ずに行われた役員退職金の支給は無効となります。

 

 

役員退職金の計算方法

ここでは、役員退職金の計算方法について、「最終月額報酬による功績倍率方式」や「役位別の功績倍率方式」を確認します。

(1)役員退職金の計算方法(最終月額報酬による功績倍率方式)

税法や会社法、労働法において、役員退職金を適正に算出するための具体的な計算方法は明確に定められていません。

ただし、「利益調整」や「お手盛り」でないことを客観的に説明する必要性はあることから、多くの中小企業では、役員退職金の計算方法として「最終月額報酬による功績倍率方式」を採用しています。

最終月額報酬による功績倍率方式とは、下記の計算式の通り、「最終の月額報酬」に「役員勤続年数」を乗じ、さらに役員としての功績を数値化した「功績倍率」を乗じた金額を役員退職金とする計算方法です。

役員退職金( 役員退職慰労金 ) = 最終月額報酬 × 役員勤続年数 × 功績倍率

例えば、退職する代表取締役の最終月額報酬100万円(年間報酬1,200万円)、役員勤続年数が20年、功績倍率が3倍の場合には、役員退職金は次の通り計算します。

報酬 100万円 × 勤続 20年 × 功績倍率 3倍 = 役員退職金 6,000万円

 

(2)最終月額報酬による功績倍率方式の計算要素

最終月額報酬による功績倍率方式の計算要素は、次の通りです。

①最終月額報酬
②役員勤続年数
③功績倍率

これらの計算要素について、注意すべき事項等を確認します。

①最終月額報酬

役員退職金の計算に「最終月額報酬」を使用するのは、退任時の月額報酬が役員としての功績をもっともよく表しているとされるからです。

ただし、例えば、会社の業績が一時的に悪化したため、役員報酬を一時的に減額させている最中に役員が退任した場合など、最終報酬月額が役員の在職期間中における会社に対する功績を反映していない場合には、減額前の報酬月額を使用できる場合もあります

また、このような場合には、後述の「1年当たり平均額法」により役員退職金を算出するケースもあります。

 

②役員勤続年数

役員勤続年数には、従業員として勤務していた期間は含まれません。

また、役員勤続年数に関しては「繰り上げ」した整数で計算することが一般的です。例えば7年6か月であれば「7.5年」ではなく「8年」として計算します。

 

③功績倍率

功績倍率は「役員退職規定」などで役職ごとに、例えば次のように定めます。

役職 功績倍率
代表取締役 3倍
専務 2.5倍
常務 2.5倍
取締役 2倍
監査役 2倍
(非常勤)取締役 1倍
(非常勤)監査役 1倍

 

(3)役位別の功績倍率方式

最終月額報酬による功績倍率方式を下記の計算式の通り、役位別に適用する方法もあります。

役員退職金 = Σ( 役位別最終月額報酬 × 役位別役員勤続年数 × 役位別功績倍率 )

計算の詳細は、以下の記事の「役員退職金の留意事項」の箇所をご参照ください。

役員退職金を活用した事業承継対策(株価が大幅に下がります!) | 保田会計事務所|税務・コンサル・会計・その他経営に関わる全てを総合的にサポート (yg-tax.net)

 

 

役員退職金の損金算入

役員退職金は、その支給額が不相当に高額ではなく、また事実を隠蔽等して支給したものでなければ、会社の経費として損金に算入することできます

ただし、実務上は次の4点について、留意する必要があります。

(1)退職の事実が認められるか

実際に退任や退職の事実があることが必要です。

なお、会社に引き続き勤務する者に支払われる退職金については、税務上の退職金として原則は認められません。ただし、一定の打切り支給を条件とした上で、新たな退職給与規程の制定、使用人から役員への就任、役員の分掌変更等などの場合に支払われるものは、税務上も退職金として認めてもらうことができます

役員の分掌変更による退職金については、詳細を後述します。

 

(2)株主総会等の決議があるか

株主総会の決議等で役員退職金の額が確定していることが必要ですが、必ずしも議事録の具備は損金算入の要件ではありません。

ただし、株主総会の決議等があったかどうか事後的に説明するため、議事録を作成して、備え付けておくことをお勧めします

 

(3)金額は妥当であるか

役員退職金を損金算入するためには、不相当に高額ではなく、事実を隠蔽又は仮装して経理することにより支給したものでないことが必要です。

不相当に高額とされないために、役員退職金の適正額の範囲内での支給とします。また、この役員退職金の適正額については、「退職した役員の貢献度、勤続年数、地位等」を考慮して総合的判断により決定を行います。

中小企業においては、上述の「最終月額報酬による功績倍率方式」を採用することが一般的ですが、過去の判例においては以下の計算方法が用いられています。

平均功績倍率法
同業類似会社の役員退職金の「平均功績倍率」を算定し、退職役員の「最終月額報酬額」と「役員勤続年数」を乗じて適正額を算定する方法✓最高功績倍率法
同業類似会社の役員退職金の「最高功績倍率」を算定し、退職役員の「最終月額報酬額」と「役員勤続年数」を乗じて適正額を算定する方法

1年当たり平均額法
同業類似会社の役員退職金の「1年当たり役員退職金額」を算定し、退職役員の「役員勤続年数」を乗じて適正額を算定する方法

税務調査の実務においては、例えば、代表取締役の場合、「最終月額報酬による功績倍率方式」で功績倍率が3倍以内であれば、調査官に指摘されるケースは少ないと言われています。

役員退職金の適正額に関しては、以下の記事もご参照ください。
役員退職金を過大とされないためのポイントを解説!(判決の検討)

 

(4)損金算入時期等は適切か

損金算入時期(税務上の会社経費となるタイミング)や分割支給についても留意が必要です。

なお、損金算入時期については、以下の国税庁サイトもご参照ください。
No.5208 役員の退職金の損金算入時期|国税庁 (nta.go.jp)

①損金算入時期

役員に対して退職金を支払うためには、原則として株主総会または取締役会で退職金の額を決定する必要があります。具体的に、役員退職金の支給を決議するための手続きと、損金算入時期は次のおとりです。

原則:決議日

(ⅰ)株主総会において、具体的な退職金の金額、支給時期、支給方法等を決定
⇒損金算入時期は株主総会決議日の属する事業年(ⅱ)株主総会において、役員退職金の金額等の決定については取締役会に一任する決議を行い、取締役会で決定
⇒損金算入時期は取締役会決議日の属する事業年度

 

ただし、以下の場合には、例外的に役員退職金の支給日に損金算入することができます。

例外:支給日

(ⅲ)株主総会等の決議後に会社が退職金を実際に支払った事業年度において、損金経理をした場合
⇒支払った事業年度において損金の額に算入することも可能(ⅳ)株主総会等の決議前に取締役会において役員退職金の支給額を決議し、その内定額を実際に支給した日の属する事業年度において損金経理をした場合
⇒支払った事業年度において損金の額に算入することも可能

(ⅳ)の場合には、取締役会で内定した役員退職金について、後日株主総会で追認することになります。なお、取締役会で決議した金額を実際には支給せず、未払金に計上した場合には、その額はその期の損金にはならないことから注意が必要です。

また、後述の分掌変更による役員退職金は、株主総会等の決議があったとしても、未払金に計上した場合には、原則として、その期の損金にはならないことから注意が必要です。

 

②分割支給の場合

分割支給する場合には、支給する都度、役員退職金として損金経理することで、後述する分掌変更による役員退職金を除き、損金算入時期を分割することも可能です。

ただし、分割支給する役員退職金が損金として認められるためには、次の要件が必要とされています。

(ⅰ)株主総会等で分割支給が決議されていること

(ⅱ)資金調達が必要になるなど分割して支給することに合理的な理由があること

(ⅲ)分割期間が3年程度であること

分割期間が5年以上になると、退職金の分割支給ではなく、退職年金として取り扱われる可能性があることから注意が必要です。

具体的に退職年金とされると、会社において損金算入時期は各支給予定日となり、受け取る役員個人側でも、退職所得ではなく、公的年金以外の年金として雑所得となり、節税効果が小さくなることが多いです。

 

 

分掌変更による役員退職金

会社に引き続き勤務する者に支払われる退職金については、税務上の退職金として原則は認められません。ただし、以下のような役員の分掌変更によってその地位や職務内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められる場合に退職金として支払われる役員退職金の打切り支給は、税務上も退職金として認めてもらうことができます(法基通9-2-32)。

常勤役員が非常勤役員になったこと
ただし、常時勤務していないものであっても、代表権を有する者および代表権は有しないが実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く。✓取締役が監査役になったこと
ただし、監査役でありながら実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者およびその法人の株主等で令第71条第1項第5号《使用人兼務役員とされない役員》に掲げる要件のすべてを満たしている者を除く。

分掌変更等のあとにおけるその役員の給与が激減(おおむね50%以上の減少)したこと
ただし、その分掌変更等の後においてもその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く。

上記の通達の例示全てで、「法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く」と規定されているところがポイントです。

例えば、代表取締役を退任して相談役に就任したケースにおいて、給与を従来の50%以上カットすることで、役員退職金の打切り支給をしている事例がよく見受けられます。

この場合に、仮に税務調査で、相談役が法人の経営上主要な地位を占めており、実質的な退職ではないと認定された場合には、この打切支給は認められないことから注意が必要です。

そのため、役員に打切支給をする場合には、分掌変更後に「経営上主要な地位」を占めていると認定されないよう、「取引先や金融機関との折衝」や、「人事や稟議の決裁」など現場に関わることは、できるだけ避けることが重要です。

なお、変更後における会社への関与状況からみて、実質的に退職したと認められない場合には、会社が支給した金額を、その役員に対する賞与として取り扱われることから、注意が必要です。

 

 

個人における役員退職金の優遇措置

役員退職金は、長年の勤労により受け取ることができるもので、老後の糧になるものでもあることから、税金面で各種の優遇措置があります。そのため、役員報酬として支給するよりも、退職金としてお金を支給したほうが税負担ははるかに軽減されます。

個人における退職金の優遇措置は、次の通りです。

(1)退職所得控除

(2)2分の1課税の特例

(3)分離課税

 

(1)退職所得控除

退職所得控除とは、退職所得に税率を乗じる前に一定の金額を控除できる制度です。

勤続年数20年以下の場合には年40万円、勤続年数が20年を超える場合には超える年数について年70万円を退職所得から控除できます。

この点、最大195万円の給与所得控除と比べて、かなり優遇されています。

 

(2)2分の1課税の特例

退職所得の税額計算においては、退職所得控除を控除した後の金額の2分の1だけが課税の対象となります。この点も給与所得と比べると、かなり優遇されています。

 

(3)分離課税

分離課税制度とは、他の所得と合算することなく、単独で税計算を行う仕組みです。この分離課税制度の逆の総合課税制度では、給与所得や事業所得など複数の所得を合算した上で超過累進税率が適用されることから、合算した所得の額が高いと、すぐに高い税率(最高で住民税とあわせて55%)が適用されてしまいます。

退職所得の税額計算においては、分離課税制度が採用されているため、累進課税の高い税率が適用されにくくなり、この点も優遇されています。

退職所得の具体的な計算方法については、以下の国税庁サイトもご参照下さい。
No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)|国税庁 (nta.go.jp)

 

 

まとめ

以上今回は、役員退職金に関する基礎知識として、「役員退職金の概要」や「役員退職金の計算方法」、「役員退職金の損金算入」「分掌変更による役員退職金」などを詳しく解説させていただきました。

役員退職金の支給にあたっては、定款で定めがない限り、法人の最高意思決定機関である株主総会の決議が必要です。

多くの中小企業では、役員退職金の計算方法として、次の「最終月額報酬による功績倍率方式」を採用しています。
・役員退職金(役員退職慰労金)= 最終月額報酬 × 役員勤続年数 × 功績倍率

代表取締役の功績倍率は3倍以内であれば、税務調査で指摘される可能性は低いです。

役員退職金の損金算入ができる時期については、原則、株主総会等の決議日ですが、例外的に役員退職金の支給日に損金算入することもできます。

役員退職金を受け取る役員個人においても、税金面で各種の優遇措置があり、上手に活用することで節税につながります。

会社にとっては、経費として費用処理ができ、受け取る役員個人においても節税ができる役員退職金については、是非とも活用することをお勧めします。
ただし、高額な役員退職金は、会社の経費として認められず(損金不算入)、会社の経費とする時期などにも注意すべき点があります。

そのため、役員退職金を活用して、節税をしたい方は、税理士等の専門家にご相談されることをお勧めします。

「江東区・中央区(日本橋)・千葉県(船橋)」を拠点とする保田会計グループでは、役員退職金を活用した節税事例がいくつもありますので、ご興味等ございましたら、お気軽にご相談ください。

 

また、役員退職金は事業承継や自社株対策としても非常に使いやすい手法になります。こちらについては、以下の記事をご参照ください。

役員退職金を活用した事業承継対策(株価が大幅に下がります!) | 保田会計事務所|税務・コンサル・会計・その他経営に関わる全てを総合的にサポート (yg-tax.net)