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類似業種比準方式の「非経常的な利益金額」とは?具体例で解説

非上場株式の評価方法の一つである「類似業種比準方式」では、評価会社の利益の金額を使用しますが、この利益の金額から「非経常的な利益金額」は除く必要があります。
ただし、「非経常的な利益金額」は明確な定義がなく、実務上の判定も迷いやすいところです。

そこで今回は、「非経常的な利益金額」とはどういったものなのか、「実務上の考え方」や「具体例」を交えて解説します。

なお、自社株を中心とした事業承継コンサルティングについては、以下のサイトをご参照ください。
業務内容 – 保田会計事務所|税務・コンサル・会計・その他経営に関わる全てを総合的にサポート

 

類似業種比準方式の「1株当たりの利益金額」の算定式

類似業種比準方式における比準要素の一つである「1株当たりの利益金額」は次の算定式で計算します。

法人税上の課税所得 - 非経常的な利益金額 +(受取配当益金不算入-左記の配当に係る所得控除) + 損金算入繰越欠損金

上記の式において、「非経常的な利益金額」を控除している理由は、臨時偶発的に発生した取引の影響を除外し、営む事業本来の経常的な収益力を株式の評価額に反映させるためです。
「本来の経常的な利益」と「類似業種の同業他社の利益」とを比較することで、「類似業種比準方式」の趣旨に適合した株価算定が可能となります。

なお、原則的評価方法である類似業種比準価額については、以下の自社株の計算方法及び株価対策に関する記事もご参照ください。
自社株の計算方法や株価対策を分かりやすく解説!!

 

非経常的な利益金額の定義はない(通達と質疑応答事例の検討)

それでは、「非経常的な利益金額」とは、具体的にどのようなものを指すのでしょうか?
「非経常的な利益金額」については、法令等で明確に定義されておらず、実務上は通達と質疑応答事例を参考に「非経常的な利益」か「経常的な利益」かの判断を行っています。

(1)財産評価基本通達の検討

国税庁の財産評価基本通達183(2)には、次のように規定されています。

「1株当たりの利益金額」は、直前期末以前1年間における法人税の課税所得金額(固定資産売却益、保険差益等の非経常的な利益の金額を除く。)に・・・・・金額とする。

そのため、固定資産売却益と保険差益は非経常利益とすることが一般的です。

 

(2) 質疑応答事例の検討

国税庁の公表している質疑応答事例に、関連する事例が3つほど挙がっておりますので、その内容を以下で確認します。

質疑応答事例①

1株当たりの利益金額―継続的に有価証券売却益がある場合

ここでは、「ある利益が、経常的な利益又は非経常的な利益のいずれに該当するかは、評価会社の事業の内容、その利益の発生原因、その発生原因たる行為の反復継続性又は臨時偶発性等を考慮し、個別に判定します。」と規定されています。

そのため、固定資産売却益、保険差益であっても、会社の個別の状況によっては、非経常的な利益に該当しない場合もあります

 

質疑応答事例②

1株当たりの利益金額―固定資産の譲渡が数回ある場合

ここでは、「固定資産の譲渡が期中に数回あり、個々の譲渡に売却益と売却損があるときは、個々の譲渡の損益を通算し、利益の金額があれば除外することとなります。」と規定されています。

 

質疑応答事例③

1株当たりの利益金額―種類の異なる非経常的な損益がある場合

ここでは「種類の異なる非経常的な損益がある場合(例えば、固定資産売却損と保険差益がある場合等)であっても、これらを通算することとなります。」と規定されています。

なお、「非経常な利益金額」と「非経常的な損失金額」を通算して「マイナス」になる場合には、ゼロとします。

 

判定時の実務上の考え方

上記を踏まえて、判定の際の実務上の考え方を確認します。

「非経常的な利益金額」は、「臨時偶発的に発生した取引」によるものであることから、ざっくり言うと、会計上の「特別利益項目」が「非経常的な利益金額」に該当します。

そこで、実務上は、会計上の「特別利益項目」を「非経常的な利益金額」とした上で、以下の事項を調整します。

調整項目 摘要
①毎期継続して計上される特別利益は除く 例えば、毎年継続的に有価証券を売却している会社の場合には、たとえ特別利益に計上されていても、非経常的な利益には該当しない可能性が高いです。
②「営業外収益」や「販管費のマイナス」に、特別利益項目が含まれていないか確認 「営業外収益」や「販管費のマイナス」の中に、特別損益項目が含まれている場合があります。
③特別損失項目がある場合には、特別利益項目と通算 非経常的な損益は通算する必要があることから、「特別損失」はもちろん「営業外損失」や「販管費」の中にも、非経常的な損失がないかどうかを確認します。
④別表4の減算項目に「非経常利益」の減算がないか確認 「1株当たり利益金額」は、「課税所得」をもとに計算します。そのため、PLで非経常的な利益が計上されていても、別表4で減算処理されている場合には、課税所得上で既に調整済のため、二重でマイナスすることはできません。
例えば、PLの営業外収益に「過年度法人税の還付金」が計上されていても、別表4で減算処理されている場合が該当します。

 

非経常的な損益金額の具体例

最後に非経常的な損益金額の具体例を確認します。

(1)非経常的な損益金額に該当するもの

✓保険差益(下記①参照)
✓固定資産売却損益(臨時性が高いもの)
✓有価証券売却損益(臨時性が高いもの)
✓退職給付引当金戻入益
✓前期損益修正損益(経常的でない過去取引の修正)

 

(2)非経常的な利益金額に該当しないもの(経常的な利益金額)

✓固定資産売却損益(継続的に計上されるもの)
✓固定資産除却損(メーカーなどで毎年除却があるもの)
✓有価証券売却損益(継続的に計上されるもの)
✓オペレーティングリース取引の分配金にかかる損益(下記②参照)
✓貸倒引当金戻入益(毎年の洗替など)
✓賞与引当金戻入益(毎回の見積差額など)
✓前期損益修正損益(経常的な過去取引の修正)
✓店舗の休業等に伴う収益保証金

 

(3)保険差益とオペレーティングリース取引の分配金にかかる損益

保険差益とオペレーティングリース取引の分配金にかかる損益については、次のように整理しています。

①保険差益

固定資産の火災など臨時偶発的な災害の際に受け取る保険にかかる保険差益は当然に非経常的な利益金額に該当します。

また、長期平準保険や逓増定期保険などの保険解約時期が予見できるものであっても、その予見した時期に保険契約が終了することは確定していないことから、これらの保険は、契約から解約まで一体となった取引とは言えず、「臨時偶発的ではない」とまでは言えません。

そのため、長期平準保険や逓増定期保険などの保険解約時期が予見できる保険にかかる保険差益であっても、非経常的な利益金額に該当すると考えられます。

 

②オペレーティングリース取引の分配金にかかる損益

オペレーティングリース取引では、航空機などリース物件の賃貸による損益とリース契約終了時におけるリース物件の売却による損益が出資者に分配されます。この分配金にかかる損益は金額の多寡はあるものの毎期継続的に発生します。

また、リース契約終了時におけるリース物件の売却は、固定資産の売却と異なり、通常はリース契約時に予定されていることから、リース物件の所有から賃貸、売却までが一体となった取引であり、「臨時偶発的」なものではないと考えらます。

そのため、オペレーティングリース取引の分配金にかかる損益は、非経常的な利益金額に該当しないと考えられます。

なお、オペレーティングリース(航空機リース)の概要については、以下の記事をご参照ください。
節税最終手段の航空機リース(オペレーティングリース)とは

 

まとめ

以上、今回は「非経常的な利益金額」とはどういったものなのか、「実務上の考え方」や「具体例」を交えて解説させていただきました。

類似業種比準方式での「1株当たりの利益金額」の算定において、「非経常的な利益」として調整をするか、それとも「経常的な利益」として調整をしないかの判断は税理士等でも迷うところです。

そのため、「非経常的な利益金額」について疑問等がある場合には、自社株対策等を得意とする専門家に相談されることをお勧めします。

「江東区・中央区(日本橋)・千葉県(船橋)」を拠点とする保田会計グループは、自社株評価を得意としておりますので、類似業種比準価額や純資産価額についてなど何でもご相談ください。

なお、自社株式の評価方法については、以下の自社株式の評価方法を決める手順に関する記事をご参照ください。
自社株式の評価方法を決める手順を分かりやすく解説!!