遺言書は法律に規定されたルールに則して、正しく作成しないと無効となってしまうことから、いざ相続が起きた際に、遺言者が生前に望んでいた遺言の執行ができないという事態が起こり得ます。
また、ルールに則して正しい遺言書を作成したとしても、原本を紛失してしまった場合には、同様に遺言の執行はできません。
このような不測の事態を防ぐことができる遺言書が「公正証書遺言」になります。
そこで、今回はこの「公正証書遺言」について、「概要」や「メリット・デメリット」、「公正証書遺言と自筆証書遺言との比較」、「公正証書遺言の作成の流れ」などを詳しく解説します。
Table of Contents
3種類の遺言とは?
遺言書には、「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があり、それぞれの特徴は次の通りです。
✓自筆証書遺言:
最も手軽な遺言で、遺言者が1人で自筆し、押印をするだけで作成することができます。 ✓公正証書遺言: 証人の立会いの下に、遺言者が公証人に遺言の趣旨を口頭で伝え、公証人が遺言者の口述内容を筆記して作成する遺言です。 ✓秘密証書遺言: 遺言の「内容」を秘密にしたまま、公証役場で遺言の「存在」を、公証人と証人に証明してもらう遺言です。 |
「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の比較については、後述する比較表をご参照ください。
なお、自筆証書遺言の要件や記載例は以下の記事をご参照ください。
自筆証書遺言の要件や見本(記載例)などを漏れなく解説!!
公正証書遺言の概要
公正証書遺言は、公証人に作成してもらう「公文書」の遺言になります。
法律の専門家である公証人に職務として作成してもらえることから、法律の規定された要件違反で無効になる可能性は限りなく低くなり、遺言内容の有効性を担保することができます。
また、遺言書原本が公証役場において、原則として20年間も保管されることから、紛失するリスクや書き換えされるリスクがなく、安心して利用することができます。
以下において、公正証書遺言の「メリット」と「デメリット」を確認します。
公正証書遺言の5つのメリット
公正証書遺言の概要を踏まえ、まずは公正証書遺言の5つのメリットを確認します。
(1)遺言が無効にならない
(2)遺言を紛失しない (3)偽造を防止できる (4)遺言者自身が書かなくていい (5)相続の際すぐに遺産相続を開始できる |
それぞれのメリットは以下の通りです。
(1)遺言が無効にならない
遺言は法律に規定されたルールに則して、正しく作成しないと無効になってしまいます。また、訂正方法にも決まったルールがあることから、遺言者1人で作成する場合には、ルールが守られないことがよくあります。
公正証書遺言では、公証人が遺言書作成にかかわることで、このようなミスを防ぎ、法的有効性を担保することで、いざ相続が起きた際に、遺言者が生前に望んでいた遺言の執行ができないという不測の事態を防ぐことができます。
(2)遺言書を紛失しない
いくら法的に有効な遺言書を作成できたとしても、遺言書原本を紛失してしまうと、遺言の執行ができません。
また、遺言書の内容を知っている関係者が破棄しようとするケースもあります。
以上のことから、公証役場で原本を保管してもらえる公正証書遺言は、安全面で大きなメリットがあります。
(3)偽造を防止できる
自筆証書遺言において、偽造が疑われる場合には筆跡などから、その遺言書の有効性を判断する必要があります。
公正証書遺言は、公証人が作成することから、偽造の心配がありません。
(4)遺言者自身が書かなくていい
自筆証書遺言は、財産目録を除き、すべて自筆による必要があります。一部分でも他人が書いた形跡があると無効になってしまいます。
公正証書遺言では、遺言者自身で書く手間を省くことができ、また、遺言者が文字を書ける状態でない場合でも遺言書を作成することができます。
(5)相続の際すぐに遺産相続を開始できる
公正証書遺言の法的な有効性は担保されていることから、家庭裁判所の検認を受けることなく、すぐに遺産相続を開始できます。
相続人にとって、取得する財産の確定を速やかに行えることは、相続人の精神面においてもメリットとなります。
公正証書遺言の3つのデメリット
次に、公正証書遺言の3つのデメリットを確認します。
(1)手続きに手間と時間がかかる
(2)手続きに費用がかかる (3)公証人や証人に内容を話さなくてはいけない |
それぞれのデメリットは以下の通りです。
(1)手続きに手間と時間がかかる
公正証書遺言は、証人を探し、公証人と打ち合わせをした上で、遺言書作成の手続きを行うため、手間と時間がかかります。
ただし、この手間を省こうとして、自筆証書遺言を選択すると、遺言書が無効になることが多々あることから、注意が必要です。
遺言書の有効性が疑われる場合には、訴訟に発展することもあり、遺産分割が大幅に遅れてしまいます。
(2)手続きに費用がかかる
公正証書遺言の作成に、次のような費用がかかる点はデメリットとなりますが、遺言の有効性を担保する費用と考えれば決して高くはありません。
公正証書遺言の主な作成費用としては、「①公正証書作成手数料」や「②証人2人の日当」、「③公証人の出張費用」、「④専門家報酬」があります。
なお、公正証書遺言の遺言書原本は、公証役場で保管されますが、保管のための手数料は不要です。
①公正証書作成手数料
遺言書に書く財産価額の合計 | 手数料 |
100万円まで | 5,000円 |
200万円まで | 7,000円 |
500万円まで | 11,000円 |
1,000万円まで | 17,000円 |
3,000万円まで | 23,000円 |
5,000万円まで | 29,000円 |
1億円まで | 43,000円 |
3億円まで | 43,000円に超過額5,000万円までごとに13,000円を加算した額 |
10億円まで | 95,000円に超過額5,000万円までごとに11,000円を加算した額 |
10億円超 | 249,000円に超過額5,000万円までごとに8,000円を加算した額 |
※ 財産価額が1億円未満の場合、11,000円が加算されます。
出典:日本公証人連合会_Q7.公正証書遺言の作成手数料は、どれくらいですか?
なお、遺言は、相続人・受遺者ごとに別個の法律行為となるため、各相続人・各受遺者ごとに、相続させるまたは遺贈する財産価額により、それぞれの手数料を算定し、その合計額が手数料となります。
②証人2人の日当
公証役場で証人になってもらえる人の紹介を受ける場合には、1人につき、5,000円~15,000円程度の日当が必要となります。ただし、遺言者自身や専門家が証人となる人を探す場合には、証人2人の日当は不要です。
③公証人の出張費用
遺言者が病気や高齢により公証役場に出向くことができない場合には、公証人が出張して遺言公正証書を作成します。
この場合の手数料は、財産価額による手数料(加算手数料を含めない)の1.5倍が基本手数料となり、これに加算手数料を加えます。この他、旅費(実費)や日当(1日2万円、4時間まで1万円)が必要になります。
④専門家報酬
行政書士や司法書士へ公正証書遺言の作成を依頼をしたときの費用相違場は8万円~20万円です。
⑤公正証書遺言の作成費用の例示
例えば、総額1億円の財産を妻1人に相続させるケースで、証人2人は遺言者の家族、公証人の出張はないことを前提とすると、次のような作成費用14.3万円がかかります。
①公正証書作成手数料:4.3万円
②証人2人の日当:0円 ③公証人の出張費:0円 ④専門家報酬:10万円 |
(3)公証人や証人に遺言内容を知られてしまう
公正証書遺言は、必ず公証人や証人に遺言内容を知られてしまうため、抵抗を感じる人もいるという点がデメリットとなります。
証人2名は遺言者の家族や知人に依頼することも可能ですが、遺言内容は家族のセンシティブな問題であることから、公証役場や業務を依頼した専門家に証人の用意をしてもらう方法がお勧めです。
公正証書遺言と自筆証書遺言の比較表
ここでは、公正証書遺言の5つのメリット、3つのデメリットを踏まえ、自筆証書遺言との違いを以下の比較表で確認します。
自筆証書遺言 | 公正証書遺言 | |
作成方法 | 遺言者が自筆で作成 | 公証人が作成 |
証人の有無 | 証人は不要 | 証人が2名必要 |
保管場所 | 遺言者が決めた場所(自宅など)、 または法務局 |
原本は公証役場、正本は遺言者が 決めた場所(自宅など) |
無効になるリスク | × 高い |
〇 低い |
紛失するリスク | × 高い |
〇 低い |
偽造されるリスク | × 高い |
〇 低い |
手間 | △ 遺言者を自筆することに手間がかかる |
× 証人探し、公証人との打ち合わせ、公証役場に行く等に手間がかかる |
時間 | 〇 かからない |
× かかる |
費用 | 〇 基本的に無料 |
× 費用が発生 (例えば、総額1億円で14万円ほど) |
遺言内容を知られる | 〇 誰にも遺言内容を言う必要はない |
△ 公証人や証人に遺言内容が知られる |
遺言内容の秘密性 | △ 保管場所や教えた人によって秘密性が 守られない可能性がある |
〇 公証人や証人に知られても、 秘密性は守られる |
検認の必要性 | × 必要(法務局で保管の場合を除く) |
〇 不要 |
書き換え | 〇 簡単 |
× 遺言書を公証役場で再作成 (費用が高い) |
なお、自筆証書遺言書については、2020年から法務局で遺言書を保管してもらえる「自筆証書遺言書保管制度」が開始しています。
この制度を利用する場合には、検認作業が不要となる等、従来の自筆証書遺言書のデメリットが解消されています。
この「自筆証書遺言書保管制度」に関しては、以下の2つの記事もご参照ください
遺言書保管制度のメリット・デメリットなどはこちら:
遺言書保管制度とは?メリット・デメリット、活用の流れ等を詳しく解説!
遺言書保管制度で使う「遺言書」と「保管申請書」の書き方や記載例はこちら:
遺言書保管制度で使う「遺言書」と「保管申請書」の書き方を解説!(記載例付き)
公正証書遺言の作成の流れ
ここでは、公正証書遺言の作成の流れとして、STEP1~4を確認します。
STEP1:遺言書の内容を整理する STEP2:証人を選んでおく STEP3:必要書類を準備する STEP4:公証役場で遺言書を作成する |
それぞれのSTEPの詳細は以下の通りです。
STEP1:遺言書の内容を整理する
公正証書遺言は、公証役場で公証人に遺言内容を口述する形で作成しますが、作成する際に、その場ですぐに決められるものではありません。
そのため、あらかじめ、遺言者の財産を明確にして、誰に何を相続させるのか、遺言書の内容を整理しておくことが重要です。
また、「特定遺贈」と「包括遺贈」のどちらを選択するか、「相続税」や「遺留分」などは十分に考慮されているか等、相続の専門家にも相談しておくことが重要です。
なお、どのような遺言の内容にすべきかについては、公証人に相談できないことから注意が必要です。
STEP2:証人を選んでおく
公正証書遺言の作成にあたっては、証人2名に立ち会ってもらう必要があるため、あらかじめ証人を選んでおく必要があります。
証人になるための特別な資格はありませんが、次の者は証人になれないため、注意が必要です。
✓未成年者
✓推定相続人・受遺者並びにこれらの配偶者および直系血族 ✓公証人の配偶者、4親等内の親族、書記および使用人 |
「推定相続人」とは、その時点で相続が開始された場合に、相続人になると推定される人のことで、遺言書作成時に「推定相続人」でなければ、遺言書の作成後に相続人になったとしても問題はありません。
そのため、少し遠い親族や友人に証人になってもらうことが考えられますが、遺言内容は家族のセンシティブな問題であることから、上述の通り、公証役場や業務を依頼した専門家に証人の用意をしてもらう方法が無難です。
STEP3:必要書類を準備する
公正証書遺言の作成には、次の書類が必要となることから、事前に準備します。
✓遺言者の印鑑登録証明書
✓遺言者の本人確認書類(運転免許証などの公的機関の発行した顔写真入り証明書) ✓遺言者と推定相続人との続柄が分かる戸籍謄本 ✓財産を相続人以外の人に遺贈する場合は受遺者の住民票(受遺者が法人の場合には法人の登記簿謄本が必要ですが、公益の団体の場合には不要) ✓財産に不動産がある場合には、登記簿謄本と、固定資産評価証明書 ✓財産に預貯金がある場合には、通帳コピーなど ✓証人を準備する場合には、証人の住所・氏名・生年月日の分かる資料(例えば、運転免許証のコピーなど) ✓遺言執行者として、相続人または受遺者以外の者を指定する場合には、その人の住所・氏名・生年月日が確認できる資料(例えば、住民票や運転免許証のコピーなど) |
STEP4:公証役場で遺言書を作成する
STEP1からSTEP3までの準備が整ったら、「公証役場」に予約の電話を行い、平日の午前9時から午後5時までの間で希望日時を伝えます。そうすると、希望日時を踏まえた訪問日時が指定されますので、その指定された日時に公証役場を訪問することとなります。
予約の際、公証役場に証人の用意をお願いする場合や、公証人に出張してもらう場合には、その旨も伝えます。
証人を遺言者自身もしくは専門家が用意する場合には、訪問日当日に2人の証人と一緒に公証役場に出向き、公証人に出張してもらう場合には、任意の場所に証人とともに待機します。
当日、遺言者は実印を、証人は認印を必ず持参します。
遺言者、公証人、証人2名が揃った段階で、遺言書の作成が始まります。
一般的には、以下の流れで質問や読み聞かせ等が行われ、所要時間の目安は30分から1時間程度です。
①遺言者に「氏名」や「生年月日」の質問がされ、印鑑証明書などの本人確認書類の提出が求められます。また、用紙に氏名や生年月日の記載を求められ、持参した実印の印影の確認なども行われます。
②証人2名にも本人確認書類の提示が求められます。
③遺言者に遺言の大まかな内容について、以下のような質問がされ、用紙に記入を求められることもあります。
✓それぞれの財産を誰に相続させたいか
✓相続させたい者との親族関係 |
なお、遺言者への質問の中には、稀にあえて遺言者が公証人に対して訂正をすべき事項が含まれていることがあるため、公証人の質問には、慎重に回答をするよう注意が必要です。
④遺言内容の確認が終わると、遺言書全文の読み合わせが行われ、内容に間違いがないか確認が行われます。
⑤遺言書の原本に遺言者、証人がそれぞれ署名し、押印をします。
この押印に使用する印鑑は、遺言者は「実印」、証人は「認印」となります。
⑥最後に、公正証書遺言の正本や謄本を受け取り、公証人へ費用の支払いをして終了となります。
なお、作成された遺言書の原本は、公正証書として、公証役場に20年以上も保管されることとなります。
まとめ
以上今回は、この「公正証書遺言」について、「概要」や「メリット・デメリット」、「公正証書遺言と自筆証書遺言との比較」、「公正証書遺言の作成の流れ」などを詳しく解説いたしました。
「公正証書遺言」とは、公証人に作成してもらう「公文書」の遺言となります。
法律の専門家である公証人に職務として作成してもらうことから、「自筆証書遺言」と比べて手間も時間も費用もかかりますが、法律の規定された要件違反で無効になる可能性は限りなく低くなり、遺言内容の有効性も担保することができます。
ただし、「公正証書遺言」を作成するためには、事前準備や書類の取り寄せなど、煩雑な手続きが多くなり、労力も要することから、税理士など専門家の支援を受けることをお勧めします。
「江東区・中央区(日本橋)・千葉県(船橋)」を拠点とする保田会計グループでは、「遺言書の作成」についてサポートしており、また様々な相続対策・生前対策などの支援実績もあります。
少しでもご興味いただける場合には、まずはお気軽にご連絡ください。