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自筆証書遺言の要件や見本(記載例)などを漏れなく解説!!

近年における「終活ブーム」や、2020年度の相続法改正による「財産目録における自筆要件の緩和」により、自筆証書遺言を残す人が増えています。

そこで今回は、遺言書の「概要」や、「3種類の遺言書の特徴」を確認した上で、自筆証書遺言の「メリット・デメリット」や「作成の流れ」、「見本(記載例)」などを漏れなく解説します。

 

「遺言」や「遺言書」とは?

「遺言」とは、被相続人(遺言者)が自身の財産について誰に何を残したいのか、生前に意思表示をするものです。
遺言は日常的には「ゆいごん」と読みますが、法律用語としては「いごん」と読みます。

遺言書とは、この「遺言」を書面にしたものです。

相続の際に、この遺言書があると、原則として、遺言書の内容の通りに相続人は遺産を分割するルールになっていることから、相続人間の争いが起こりにくくなります。

また、相続財産を売却して現金化することなどもスムーズにできることから、相続人は相続税を支払うための資金を確保しやすくなります。

さらに、遺言書を作成することで、自身の財産を法定相続人だけでなく、自身があげたいと思う人に残すことや寄付をすることも可能となります。
例えば、介護を献身的にしてくれた長男の嫁に財産を残したり、内縁の妻に財産を残したり、NPO法人に寄付をしたりすることができます。

 

 

3種類の遺言書の特徴

遺言書には、「自筆証書遺言」、「公正証書遺言」、「秘密証書遺言」の3種類があります。

それぞれの特徴を簡単に整理すると、次の通りになります。

(1)自筆証書遺言

遺言者が1人で自筆により作成する

(2)公正証書遺言

遺言書の内容を公証人()が証明する

(3)秘密証書遺言

遺言書の存在のみを公証人()が証明する

 公証人とは、公正証書の作成など法令で定められた業務を独占的に行う権限をもっている専門家(元裁判官や元検察官など)で、国家公務員法上の公務員ではありませんが、国の公務である公証作用を担う実質的な公務員です。

各遺言書の特徴は以下で確認します。

 

(1)自筆証書遺言

「自筆証書遺言」とは、遺言者が全文・日付・氏名を自書し、押印することによって作成される遺言書を言います(民法968条1項)。

自筆証書遺言は、遺言者が一人だけですべて作成でき、費用もかからないことから、3種類の遺言書の中で、一番お手軽な遺言書になります。

ただし、遺言書は法律で厳格にその書き方が定められており、少しでも不備があると、無効となってしまうことから、作成にあたっては専門家等にアドバイスを受けることをお勧めします。

なお、2019年1月に民法が改正され、財産目録だけはワープロやパソコンを使って記載したものが認められるようになっています。

 

(2)公正証書遺言

「公正証書遺言」とは、公証人が遺言者から口頭で述べてもらった内容を筆記し、遺言者及び証人2名以上が署名・押印することによって作成される遺言書を言います(民法969条1項)。

公正証書遺言は、費用と手間はかかりますが、公文書のため、証明力(証拠としての価値)は非常に高く、また、公証人の関与の下で作成することから、不備が生じて無効になる心配もありません

公正証書遺言について詳しくは下記の記事もご覧ください。
公正証書遺言のメリット・デメリットとは?自筆証書遺言との比較表も徹底解説!

 

(3)秘密証書遺言

「秘密証書遺言」とは、遺言者が作成・署名・押印した証書を封じ、その封書を公証人に提出した上で必要事項の記載を受け、さらに遺言者および証人2名以上が封書に署名・押印することによって作成される遺言書を言います(民法970条1項)。

秘密証書遺言は、「公正証書遺言」と同じく公証役場で作成されますが、遺言の内容は公証人にも明かされず、公証人は遺言書の存在のみを証明します。

費用が「公正証書遺言」より安いもののかかる上に、「自筆証書遺言」と同じく内容に不備があると無効になりかねないことから、秘密証書遺言の利用件数はごくわずかな特殊な遺言書です。

 

 

自筆証書遺言のメリットとデメリット

ここでは、自筆証書遺言のメリットとデメリットを確認します。

(1)自筆証書遺言のメリット

自筆証書遺言の主なメリットには、以下の事項が挙げられます。

①作成が簡単

自筆証書遺言は、紙とペンさえあれば、いつでも簡単に作成ができます。

また、公正証書遺言のように公証役場に足を運び、証人を準備する必要もありません。

 

②費用が安い

自筆証書遺言は、紙や筆記用具にこだわりがなければ、ほとんど費用はかかりません。

それに比べ、公正証書遺言は公証役場で作成しなければならないため、公正証書作成手数料(財産価額が1億円で数万程度)がかかり、さらに専門家に作成を依頼した場合には、8万円から20万円ほどの費用がかかると言われています。

 

③失敗してもすぐに書き直せる

自筆証書遺言は、上述の通り、作成が簡単で費用も安いため、失敗しても気軽に作り直しができます。

作り直しの度にそれなりの費用がかかる公正証書遺言と比べると、何回でも作り直しができるため、とりあえず作成して、後で心変わりをした場合には書き直すというように気軽に遺言書の作成に望むことができます。

また、上述の通り、既に作った遺言書に対して訂正をすることもできます。

この場合の訂正方法には決まったルールがあるため、文面が少なければ、全て書き直した方が早いこともあります。

 

(2)自筆証書遺言のデメリット

自筆証書遺言の主なデメリットには、以下の事項が挙げられます。

①要件を満たしていないと無効になるリスクがある

自筆証書遺言は、簡単に作成することはできますが、法律上の要件に定められた通りに作成しないと、無効な遺言書となってしまいます(民法第968条)。

ご自身ではこの要件を満たしたつもりでいても、いざ相続の時に遺言書の内容を拝見すると無効な遺言書だったと言うこともよくあります。
そのため、自筆証書遺言の作成においても、なるべく相続の専門家に相談することが望ましいです。

 

②検認が必要

封がされている自筆証書遺言には、「検認」という手続きが必要になります。
この「検認」とは、遺言者の死後に家庭裁判所に遺言書を確認してもらうための手続きで、相続人にとっては、とても面倒な作業となります。

公正証書遺言は法律の専門家である公証人が手伝って作成し、保管までしてもらうことから、この検認という作業は必要ありません。

なお、封をしていない場合や、法務局で遺言書を保管してもらえる「自筆証書遺言書保管制度」を利用する場合には、検認作業は不要となります。

「自筆証書遺言書保管制度」については、以下の2つの記事をご参照ください

遺言書保管制度のメリット・デメリットなどはこちら:
遺言書保管制度とは?メリット・デメリット、活用の流れ等を詳しく解説!

遺言書保管制度で使う「遺言書」と「保管申請書」の書き方や記載例はこちら:
遺言書保管制度で使う「遺言書」と「保管申請書」の書き方を解説!(記載例付き)

 

③相続人が発見できないリスクがある

自筆証書遺言は基本的に遺言者自身で保管する必要があることから、紛失するリスクや相続後に相続人が発見できないリスクがあります。

発見できないリスクを減らすためには、遺言書を「金庫」や「仏壇」、「机の引き出し」など、比較的分かりやすい場所に保管します。

ただし、分かりやすい場所に保管していると、書き換えられるリスクは高まります。

なお、「自筆証書遺言書保管制度」を利用する場合には、死亡時通知を活用することで、遺言書の存在を通知することができ、相続人が発見できないリスクはかなり下がります。

 

④書き換えられるリスクがある

自筆証書遺言は、遺言者自身で作成した遺言書かどうか立証することが難しいことから、遺言書を分かりやすい場所に保管していると、相続人の誰かに遺言書を書き換えられたり、破棄されたりするリスクがあります。

なお、「自筆証書遺言書保管制度」を利用する場合には、法務局で遺言書を保管してもらえることから、遺言書を書き換えられたり、破棄されたりするリスクがなくなります。

 

⑤他の相続人に秘密にしたまま遺言執行ができない

自筆証書遺言について、通常は、相続時に「家庭裁判所の検認を受ける」か、「法務局で遺言書情報証明書の取得をする」かいずれかになります。

家庭裁判所で検認を受けると、全ての相続人に通知がされることから、他の相続人は遺言の存在をその通知で知ることになります。また、法務局で遺言書情報証明書を発行すると、全ての相続人に関係遺言書保管通知がされることから、他の相続人は遺言の存在をその通知で知ることになります。

したがって、自筆証書遺言を利用する場合には、検認が不要となるように封をしないで保管をしない限り、他の相続人に遺言の存在を知られてしまうことになります。

一方で、公正証書遺言の場合には、手元にある正本か謄本を銀行や法務局に持参するだけで「他の相続人に秘密にしたまま」遺言執行をすることが可能です。

そのため、他の相続人に遺言の事実を知られたくない人は自筆証書遺言の選択が消極的になってしまいます。

 

 

自筆証書遺言の5つの要件

ここでは、有効な自筆証書遺言を作成するための5つの要件を確認します。

(1)全文の自書
(2)日付の自書
(3)氏名の自書
(4)押印
(5)訂正

有効な自筆証書遺言を作成する場合には、上記の要件を全て満たす必要があります。各要件の詳細については、以下で確認します。

(1)全文の自書

全文とは実質的内容部分のいわゆる本文のことで、この本文は自書する必要があります

自筆であれば、筆跡によって本人が書いたものか否か判定ができ、さらに遺言が本人によって書かれたものと分かれば、その内容が真意であると推測できるからです。

Wordやワープロで作成された遺言は無効のため、注意が必要です。なお、鉛筆による作成であっても要件を満たしますが、消える可能性もあるため、できる限り避けた方がいいとされています。
ただし、上述の通り、民放改正によって、財産目録の部分については、自筆以外の方法(ワープロなど)が認められています

 

(2)日付の自書

遺言書は複数ある場合、一番新しい日付のものが効力のある遺言書とされます。

また、遺言書の有効性を巡っては、遺言書の作成時に遺言者本人にその作成能力があったのか否かが重要なポイントとなることから、日付の自書が要求されています。

なお、年月のみで日付の記入がない場合や、○年○月吉日などといった記入は無効となることから、注意が必要です。

 

(3)氏名の自書

氏名の自書は、遺言書の作成者を明確にして、誰の遺言なのかを明らかにするために必要となります。この氏名の自書は、本人と識別できる名前なら問題ないとされていることから、戸籍上の氏名でない、通称による自書も可能です。

 

(4)押印

押印は、遺言書の作成者を明確にして、誰の遺言なのかを明らかにするために必要となります。押印に使う印鑑は実印だけでなく、認印、シャチハタ、拇印でも問題ありませんが、遺言書の有効性を巡るトラブルに備え、できる限り、実印を使うことをお勧めします。

 

(5)訂正

遺言書の記載内容の訂正(加除その他の変更)は、遺言者がその場所を指示し、これを変更した旨を付記し、その変更の場所に印を押さなければならないと定められています(民法968条3項)。つまり、以下の通り、訂正印を押して、欄外に訂正の内容や加えた文字、削除した文字等を記載して、加除その他の変更を行います。

なお、この方法と異なる方法で訂正等を行った場合に、当該訂正は無効になりますが、遺言自体が無効になることはありません。

①具体的な訂正の方法

具体的な訂正の方法は以下の通りです。

✓訂正箇所を、「元の文字が見える」ように「二重線」で取り消します。

⇒この際に、修正液や修正テープなどを使用したり、黒く塗りつぶしたりしないように注意が必要です。

✓横書きの場合には、二重線の「上部」に、縦書きの場合は二重線の「右側」に、正しい文字や数字を記入します。

✓訂正した行の「近くの余白」に、削除や加えた文字数を書き、署名を行います。

✓訂正印を「元の文字や数字が見える」ように押します。

 

②具体的な加筆の方法

具体的な加筆の方法は以下の通りです。

✓文字や数字を加筆したい部分に、挿入記号を記入します。

✓挿入記号を記入した箇所に、加筆する文字や数字を記入します。

✓加筆した行の「近くの余白」に、加えた文字数を書き、署名を行います。

✓加筆した「近くに」訂正印を押します。

 

 

自筆証書遺言作成の流れ

ここでは、自筆証書遺言を作成するための5つの流れを確認します。

(1)財産の洗い出しと遺言書に記載する財産の決定

まずは、どんな財産があって、その評価額はどれくらいなのかを洗い出します。そして、遺言書に記載する財産を決めます。

遺言書の記載する主な財産は、次の通りです。

✓自宅不動産、賃貸用不動産
✓預貯金(普通預金、定期預金)、現金
✓株式、投資信託、など

 

(2)財産に関する資料収集

遺言書に記載する財産が決まったら、それらの関係する資料を収集します。

主な財産ごとの資料は次の通りです。

✓不動産:登記簿謄本や固定資産税納税通知書
✓預貯金:通帳や定期証券
✓株式:取引残高報告書
✓投資信託:取引残高証明書 など

 

(3)財産を取得させる人の決定

財産に関する資料が集まったら、それらの財産を取得させる人を決定します。
なお、財産を取得させる人は、遺言者の家族や親族に限らず、推定相続人以外の第三者とすることも可能です。

 

(4)遺言書の記載

上記(1)から(3)の準備ができたら、遺言書の記載が可能となります。
遺言書には、用紙の決まりがないことから、自宅にある白紙や便箋で問題ありません。

なお、最近では、文房具屋や本屋に「遺言書作成キット」があることから、専門家を全く利用せずに遺言者だけで遺言書作成をする場合には、このようなものを使うことをお勧めします。

なお、「自筆証書遺言書保管制度」を利用する場合には、A4サイズに用紙を使う必要がありますので、ご注意ください。

 

(5)記載内容の最終確認

遺言書の記載が終わると、記載内容に不備がないか、法律上の要件に従っているか、最終確認を慎重に行います。特に問題がなければ、あとは遺言書の保管先を決めます。

遺言者自身で保管をする以外にも、例えば、依頼した専門家や家族に保管をお願いしたり、「自筆証書遺言書保管制度」を利用して法務局で保管をしたりすることもできます。

 

 

自筆証書遺言の見本(記載例)

ここでは、自筆証書遺言の見本(記載例)を確認します。

 

なお、自筆証書遺言の書き方や記載例の詳細については、以下の記事もご参照ください。
「標準的な遺言書の見本」と「トラブルを避けるための遺言書の文例」を解説!

 

 

まとめ

以上今回は、遺言書の「概要」や、「3種類の遺言書の特徴」を確認した上で、自筆証書遺言の「メリット・デメリット」や「作成の流れ」、「見本(記載例)」などを漏れなく解説いたしました。

遺言書には、「自筆証書遺言」、「公正証書遺言」、「秘密証書遺言」の3種類があります。

自筆証書遺言には、「作成が簡単」「費用が安い」「失敗してもすぐに書き直せる」といったメリットがあるため、単純な遺言内容の場合には、お勧めの遺言方法です。

ただし、要件を満たしていないと無効になるリスクがあることから、自筆証書遺言の作成においても、なるべく相続の専門家にご相談されることが望ましいです。

なお、「江東区・中央区(日本橋)・千葉県(船橋)」を拠点とする保田会計グループでは、「遺言書の作成」についてサポートしており、また様々な相続対策・生前対策などの支援実績もあります。

少しでもご興味いただける場合には、まずはお気軽にご連絡ください。