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【会社設立後の提出書類⑩】労働保険の基本と保険関係成立届の書き方(記入例あり)

会社を新たに設立し、従業員に給与を支払うこととなった場合には、労働基準監督署やハローワークに対して、提出しなければならない届出や申告書等がいくつかあります。
それらの中で、始めに提出が必要な届出として「保険関係成立届」があります。

そこで今回は、労働保険の基本を確認した上で、「加入手続きの流れ」や「保険関係成立届の書き方」、「保険料の納付」などを解説します。

 

労働保険の基本

労働保険とは、雇用保険と労災保険の2つの保険をまとめて指す呼称です。

雇用保険と労災保険は、それぞれ異なる目的で整備された制度のため、申請先や給付のタイミングは異なりますが、保険料の徴収等はまとめて行われます。

(1)雇用保険の概要

雇用保険は、労働者の生活及び雇用の安定と就職の促進のための強制保険制度です。

雇用保険では、労働者の失業の予防、雇用機会の増大を目的とした「雇用安定事業」と、労働者の能力開発等を目的とした「能力開発事業」を「雇用保険二事業」とし、失業等給付金、介護休業手当、育児休業手当、職業訓練等に関する給付金などの給付を行っています。

雇用保険の保険料は、労働者と事業主の双方が負担します。

 

①雇用保険の被保険者

雇用保険の被保険者は、会社の代表者以外の者で、適用事業所に雇用される一定の加入条件を満たした労働者です。

雇用保険の被保険者の種類は、下表の4種類があります。

類型 詳細
一般被保険者 高年齢被保険者、短期雇用特例被保険者、日雇労働被保険者の3類型に該当しない正社員・パート・アルバイトの労働者
高年齢被保険者 65歳以上の高齢労働者
※ 継続雇用の有無にかかわらず、加入条件が満たされていれば、新規雇用保険も可
短期雇用特例被保険者 期間を限定して雇用され、雇用契約が4カ月を超え1年未満かつ週所定労働時間が30時間以上の労働者
日雇労働被保険者 日雇いで雇用される労働者や30日以内の期間を定めて雇用される労働者

 

②雇用保険の加入条件

雇用保険は次の3つの加入条件を満たした場合、事業主・労働者の意思に関係なく、また、正社員や契約社員、パート・アルバイトなど雇用形態に限らず、すべての労働者が雇用保険の加入対象者となります。

✓31日間以上働く見込みがあること

✓所定労働時間が週20時間以上であること

✓学生ではないこと(例外あり)

 

(2)労災保険の概要

労災保険とは、就労中の業務が原因となって起こる怪我や病気に備えるための強制保険制度です。

労災保険では、就労中の怪我はもちろん、業務災害を原因とした死亡や、通勤途中の事故があった場合なども、事業主に代わって国が労働者への給付を行っています。

労災保険は、パートやアルバイトなどの雇用形態にかかわらず、基本的には全ての労働者に加入が適用される保険制度です。

また、保険料は全額事業主の負担となります。

 

 

労働保険加入手続きの流れ

ここでは、一元適用事業(労災保険と雇用保険の保険料の申告・納付等を両保険一本として行う事業)を前提に労働保険加入手続きの流れを確認します。

なお、二元適用事業(その事業の実態からして、労災保険と雇用保険の適用の仕方を区別する必要があるため、保険料の申告・納付等をそれぞれ別個に二元的に行う事業で、農林漁業・建設業等が該当)は、労働保険加入手続きの流れが異なることから、詳細は以下の記事をご参照ください。
労働保険に関するよくある質問(「一元適用事業と二元適用事業とは?」など)

 

STEP1:各種様式の入手

各種様式を次の方法で入手します。

①労働保険の保険関係成立届:最寄りの労働局、労働基準監督署、ハローワーク(公共職業安定所)のいずれかから入手できます。直接取りに行ってもいいですが、ハローワーク(に電話で「初めて雇用をする」ことを伝えると資料一式を郵送してもらえます。

②労働保険概算保険料申告書:同上

③労働保険の保険料等口座振替納付書送付(変更)依頼書兼口座振替依頼書:以下の厚生労働省のサイトから入手できます。
口座振替の申込について|厚生労働省 (mhlw.go.jp)

④雇用保険適用事務所設置届:以下のハローワークインターネットサービスのサイトから入手できます。
雇用保険適用事業所設置届

⑤雇用保険被保険者資格取得届:以下のハローワークインターネットサービスのサイトから入手できます。
雇用保険被保険者資格取得届

 

STEP2:各種様式の記入

各種様式に記入を行います。

①の書き方は、後述しますが、②③④⑤の書き方は、以下の記事をご参照ください。

②労働保険概算保険料申告書はこちら:
【会社設立後の提出書類⑪】労働保険の概算保険料申告書の概要と書き方(記入例つき)

③労働保険の保険料等口座振替納付書送付(変更)依頼書兼口座振替依頼書はこちら:
【会社設立後の提出書類⑫】労働保険の口座振替依頼書の概要と書き方(記入例あり)

④雇用保険適用事務所設置届はこちら:
【会社設立後の提出書類⑬】雇用保険の基本と雇用保険適用事業所設置届の書き方(記入例あり)

⑤雇用保険被保険者資格取得届はこちら:
【会社設立後の提出書類⑭】雇用保険被保険者資格取得届の概要と書き方(記入例あり)

 

STEP3:「労働保険の保険関係成立届」の提出

事業所が保険の適用対象となる従業員を1人でも雇用した場合には、両者の間で保険関係が成立した日の翌日から起算して、10日以内に所轄の労働基準監督署へ「保険関係成立届」を提出する必要があります。

この届出書は紙の場合、複写式の3枚綴りとなっており、所轄の労働基準監督署へと提出すると、「労働保険番号」と事業所控えが返却されます。

 

STEP4:「労働保険概算保険料申告書」の提出

保険関係の成立した日から50日以内に、当該年度分の概算の労働保険料を計算して、所轄の労働基準監督署、または所轄の都道府県労働局、金融機関(日本国内の銀行、信用金庫、郵便局など)のいずれかへ「労働保険概算保険料申告書」を提出する必要があります。

この申告書は紙の場合、複写式となっており、上部は申告書部分で2枚綴り、下部は納付者部分で3枚綴りとなっています。

「労働保険概算保険料申告書」を所轄の労働基準監督署、または所轄の都道府県労働局に提出すると、納付書部分と事業所控えが返却されます。

なお、STEP3の「保険関係成立届」と「労働保険概算保険料申告書」を併せて、所轄の労働基準監督署へ提出する方法が、納付書のチェックもしてもらえ、郵送回数も少なくなることから、お勧めの方法です。

 

STEP5:概算保険料の納付

申告書の提出と同時に保険料(労働関係成立時から3月までの分)の納付が必要となります。

所轄の労働基準監督署、または所轄の都道府県労働局から返却された納付書をもって、金融機関の窓口で納付ができます

なお、STEP4で労働保険概算保険料申告書を金融機関に提出する場合には、提出と同時に納付を行うこととなります。

 

STEP6:「労働保険の保険料等口座振替納付書送付(変更)依頼書兼口座振替依頼書」の提出

口座振替を希望する場合には、「労働保険の保険料等口座振替納付書送付(変更)依頼書兼口座振替依頼書」を口座開設している金融機関の窓口に提出します。

STEP5の納付と併せて手続きをすること効率的に手続きを進めることができます。

 

STEP7:「雇用保険適用事業所設置届」及び「雇用保険被保険者資格取得届」の提出

STEP3で、労働基準監督署から「労働保険番号」を受け取った後に所轄の公共職業安定所(ハローワーク)へ「雇用保険適用事業所設置届」及び「雇用保険被保険者資格取得届」を提出する必要があります。

「雇用保険適用事業所設置届」と「雇用保険被保険者資格取得届」は、「保険関係成立届」と同じように事業所を設置した日の翌日から起算して10日以内という提出期限がありますが、「労働保険番号」を受けた後に提出することが必要なため、実務においては10日を過ぎることもあります。

とは言え、なるべく早くに提出ができるよう、準備を事前に進めておくことが重要です。

 

 

保険関係成立届とは

従業員を1人でも雇用している事業所は(一部の例外を除いて)、その従業員の雇用形態に関わらず、労働保険の適用事業所となります。

「保険関係成立届」とは、適用事業所と加入者の保険関係が成立したことを所轄の労働基準監督署に報告するための届出となります。

なお、従業員を1人以上雇用した場合には、新規に事業を開設した時に限らず、既存の事業所が支店や新たな営業所を開設した時にも、この届出の提出が必要になります。

 

 

保険関係成立届の書き方・添付書類

ここでは、所轄の労働基準監督署へ提出する「保険関係成立届」の書き方や添付書類等を確認します。

(1)「保険関係成立届」の記載イメージ

労働基準監督署に提出する「保険関係成立届」の記載イメージは以下の通りです。

出典:事業主のみなさまへ 労働保険の成立手続はおすみですか(パンフレット)

 

(2)「保険関係成立届」の記載ポイント

所轄の労働基準監督署へ提出する「保険関係成立届」の記載ポイントは以下の通りです。

イメージ図の赤枠部分から順号が付いているため、番号順に記載項目を確認します。

 

年月日:

届出年月日を和暦で記入します。

 

①事業主:

会社の場合には、本店所在地と会社の名称を記入します。

 

②事業:

保険関係が成立した事業の所在地(電話番号)、事業の名称を記入します。

なお、保険関係の成立は、原則として事業所単位で手続きを行う必要がありますが、事業所(支店)が一つの経営組織として独立していない場合には、労働保険の適用事業所とはならないことから、事業所(支店)を設置した際に別段の手続きを行う必要はありません。

 

③事業の概要:

作業内容や製造工程、製品名称等の具体的な事業内容を記入します。

 

④事業の種類:

「卸売業・小売業」や「飲食店業」、「不動産業」等の業種を記入します。

具体的な業種については、下記の厚生労働省告示第16号「労災保険率適用事業細目表」を参考に記入することとなります。
労災保険率適用事業細目表

 

⑤加入済みの労働保険:

すでに加入済みの労働保険(労災保険・雇用保険)に◯を付けますが、初めて労働保険に加入する場合は記入不要です。

 

⑥保険関係成立年月日:

労働保険の適用事業となった年月を記入します。なお、保険関係成立年月日は、原則として、この手続きをしている日の10日前以内の日付となります。

 

⑦雇用保険被保険者数:

「一般・短期」欄にはその年度における 1か月平均雇用保険被保険者数を記入し、「日雇」欄には日雇労働者数を記入します。

なお、1か月平均雇用保険被保険者数とは、一般被保険者数、高年齢労働者数及び短期雇用特例被保険者数を合計した数を言います。

 

⑧賃金総額の見込み額:

保険関係が成立した日から当該年度末(3月31日)までの期間に使用する労働者にかかる

賃金総額の見込額(給料だけでなく、賞与、各手当も含む)を千円未満は切り捨てで記入します。通常は、労災保険概算保険料申告書に記入する「保険料算定基礎額の見込額」と同額になります。

 

⑨委託事務組合、⑩委託事務内容、⑪事業開始年月日、⑫事業廃止等年月日、⑬建設の事業の請負金額、⑭立木の伐採の事業の素材見込生産量、⑮発注者:

通常は記入不要です。

 

⑯種別:

種別の一番右の空欄に「0」、「1」、「2」のいずれかを記入しますが、基本的には「0」を記入することになります。

なお、建設業などの有期事業で加入する場合は「1」、農林水産の一部の事業で任意加入する場合は「2」を記入します。

 

届出先:

所轄の労働基準監督署を記入し、労働基準監督署以外を二重線で消します。

 

届出目的:

「(イ)届けます」以外を二重線で消します。

 

⑰住所(カナ):

事業所の住所を郵便番号からカタカナで記入します。

なお、丁目や番地は「-」を使用し、濁点や半濁点も1文字とします。また、数字はそのまま記入しますが、英字はカタカナに置き換えて記入します。

 

⑱住所(漢字):

事業所の住所を漢字・ひらがな・カタカナの他、数字、英字にて記入します。なお、丁目や番地は「-」を使用し、濁点や半濁点も1文字とします。

 

⑲名称・氏名(カナ):

事業所の名称・氏名をカタカナで記入します。

なお、丁目や番地は「-」を使用し、濁点や半濁点も1文字とします。また、数字はそのまま記入しますが、英字はカタカナに置き換えて記入します。

 

⑳名称・氏名(漢字):

事業所の名称・氏名を漢字で記入し、個人の場合は屋号のほか事業主の氏名も記入します。

なお、濁点や半濁点も1文字とします。

 

㉑保険関係成立年月日:

上記の⑥欄の年月日を記入します。

 

㉒事務処理委託年月日または事業終了予定年月日:

通常は記入不要です。

 

㉓常時使用労働者数:

その年度における1日平均使用労働者数を記入します。

1日平均使用労働者数は、「延使用労働者数(臨時・日雇含む)/ 所定労働日数」で算定した数です。

 

㉔雇用保険被保険者数:

上記の⑦欄の一般・短期と日雇との合計人数を記入します。

 

㉕:

以前は、「免除対象高年齢労働者数」(4月1日現在で64歳以上の人数)欄がありましたが、現在は欄自体がなくなっています。

 

㉖加入済労働保険番号、㉗適用済労働保険番号1、㉘適用済労働保険番号2

通常は記入不要です。

 

㉙法人番号:

法人番号(13桁)を記入します。法人番号は国税庁の以下のサイトで調べることができます。
国税庁法人番号公表サイト (nta.go.jp)

 

事業主氏名:

会社の場合には、名称・代表者の肩書・代表者氏名を記入します。

 

(3)「保険関係成立届」の添付書類

所轄の労働基準監督署へ提出する「保険関係成立届」の添付書類は次の通りです。

✓会社の場合:登記簿謄本(原本)

✓個人事業主の場合:住民票(原本)

 

 

労働保険料の納付と年度更新について

労働保険では、「年度更新」と呼ばれる方法で、毎年6月1日から7月10日の間に申告と保険料の納付を行います

納付については、今年度の概算保険料が一定の金額を超えるなど、分割納付が認められる場合を除き、原則として、この時期に保険料を一括で納付する必要があります

納付方法としては、上述の通り、労働保険概算保険料申告書の下部にある納付書を使って金融機関の窓口で納付する方法が原則です。

ただし、「労働保険の保険料等口座振替納付書送付(変更)依頼書兼口座振替依頼書」を提出することで、保険関係成立届を提出した年度の翌年から(分割納付をする場合には、第二期目から)、金融機関の口座振替によって納付する方法を利用することができます。

労働保険の口座振替については、以下の記事をご参照ください。
【会社設立後の提出書類⑫】労働保険の口座振替依頼書の概要と書き方(記入例あり)

 

また、年度更新の手続きでは、前年度に概算で支払った概算保険料と、その年1年間に支払った賃金総額をもとに計算して確定させた確定保険料との差額を清算し、さらに、今年度における概算労働保険料を合計して申告・納付することになります。

年度更新の詳細は、以下の記事をご参照ください。
労働保険料の計算方法(年度更新)や申告・納付を分かりやすく解説!

 

 

「保険関係成立届」の未提出の場合

「保険関係成立届」の未提出の状況について、労働基準監督署から故意に成立手続きを行わなかったと認められた場合には、遡って労働保険料を徴収されるだけでなく、併せて追徴金も徴収される可能性があります。

また、その状態で労働災害が生じてしまうと、遡って労働保険料を徴収されるだけでなく、労災保険給付に要した費用の全て、または一部も徴収されてしまうおそれもあります。

事業主・従業員双方の安全で安心な就労のために、「保険関係成立届」は忘れずに提出することが重要です。

 

 

会社設立後に必要となるその他の手続き

会社設立後に必要となる税務関係手続や社会保険関係手続については、以下の記事をご参照ください。
会社設立後の税務関係手続・社会保険関係手続

また、健康保険・厚生年金保険の新規適用届については、以下の記事をご参照ください。
【会社設立後の提出書類⑥】健康保険・厚生年金保険の基本と新規適用届の書き方(記入例あり)

 

 

まとめ

以上今回は、労働保険の基本を確認した上で、「加入手続きの流れ」や「保険関係成立届の書き方」、「保険料の納付」などを解説いたしました。

労働保険とは、雇用保険と労災保険の2つの保険をまとめて指す呼称です。

これらの雇用保険と労災保険は、それぞれ異なる目的で整備された制度のため、申請先や給付のタイミングは異なりますが、保険料の徴収等はまとめて行われるところが特徴です。

労働保険に加入するためには、まずは「保険関係成立届」を労働基準監督署に提出する必要があります。

併せて、雇用保険の手続き(雇用保険適用事業所設置届、雇用保険被保険者資格取得届など)も必要となりますが、「保険関係成立届」を提出し、「労働保険番号」を受けた後でないと手続きが行えません。

そのため、従業員を初めて雇用した場合、労働保険に関しては、真っ先に「保険関係成立届」提出に着手することが重要です。

 

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