会社を新たに設立し、労働者を1人でも雇用すると労働保険の加入義務が生じます。そして、労働保険に加入した後は、年度ごとに労働保険料の納付が必要になります。
特段の手続きをしない場合には、納付書を使って金融機関の窓口で納付することとなりますが、毎年毎年、金融機関の窓口で納付手続きをすることはかなり手間がかかります。
そこで、労働保険料の「口座振替」を利用することで、その手間を省くことができます。
今回は、「労働保険料の申告と納付」や「労働保険加入手続きの全体の流れ」を改めて確認した上で、「労働保険料の口座振替の概要」や「労働保険の口座振替依頼書の書き方・添付書類」などを解説します。
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労働保険料の申告と納付
初めに労働保険料の基本である「申告と納付」について、確認します。
毎年6月1日~7月10日(10日が休日の場合には翌営業日)の間に労働保険料(一般拠出金を含む)の申告と納付を行います。
納付は、特段の手続きをしない場合には、労働保険料申告書に付いている領収済通知書(納付書)を使って金融機関の窓口で納付することとなります。
ただし、毎年毎年、金融機関の窓口で納付手続きをすることはかなり手間がかかることから、労働保険料の「口座振替」を利用することで、その手間を省くことができます。
(労働保険料の「口座振替」の詳細は後述します。)
なお、概算保険料が40万円以上(労災・雇用保険のどちらか一方のみが成立している場合は20万円以上)の場合には、下表の納付期限で3分割しての納付が可能です。
また、分割する場合には、概算保険料を分割回数で除した額(1期目に端数を加算)を期ごとに納付することとなります。
第1期 | 第2期 | 第3期 |
7月10日 | 10月31日 | 1月31日 |
※ 分割できるのは「概算保険料」のみで、精算分や一般拠出金は分割ができないため、注意が必要です。
労働保険加入手続きの全体の流れ
次に、一元適用事業(労災保険と雇用保険の保険料の申告・納付等を両保険一本として行う事業)を前提に初めて従業員を雇用する場合の労働保険加入手続きの全体の流れを確認します。
なお、二元適用事業は、労働保険加入手続きの流れが異なることから、詳細は以下の記事をご参照ください。
労働保険に関するよくある質問(「一元適用事業と二元適用事業とは?」など)
STEP1:各種様式の入手
各種様式を次の方法で入手します。
①労働保険の保険関係成立届:最寄りの労働局、労働基準監督署、ハローワーク(公共職業安定所)のいずれかから入手できます。直接取りに行ってもいいですが、ハローワーク(に電話で「初めて雇用をする」ことを伝えると資料一式を郵送してもらえます。
②労働保険概算保険料申告書:同上 ③労働保険の保険料等口座振替納付書送付(変更)依頼書兼口座振替依頼書:以下の厚生労働省のサイトから入手できます。 ④雇用保険適用事務所設置届:以下のハローワークインターネットサービスのサイトから入手できます。 ⑤雇用保険被保険者資格取得届:以下のハローワークインターネットサービスのサイトから入手できます。 |
STEP2:各種様式の記入
各種様式に記入を行います。③の書き方は、後述しますが、①②④⑤の書き方は、以下の記事をご参照ください。
①労働保険の保険関係成立届はこちら:
【会社設立後の提出書類⑩】労働保険の基本と保険関係成立届の書き方(記入例あり)
②労働保険概算保険料申告書はこちら:
【会社設立後の提出書類⑪】労働保険の概算保険料申告書の概要と書き方(記入例つき)
④雇用保険適用事務所設置届はこちら:
【会社設立後の提出書類⑬】雇用保険の基本と雇用保険適用事業所設置届の書き方(記入例あり)
⑤雇用保険被保険者資格取得届はこちら:
【会社設立後の提出書類⑭】雇用保険被保険者資格取得届の概要と書き方(記入例あり)
STEP3:「労働保険の保険関係成立届」の提出
事業所が保険の適用対象となる従業員を1人でも雇用した場合には、両者の間で保険関係が成立した日の翌日から起算して、10日以内に所轄の労働基準監督署へ「保険関係成立届」を提出する必要があります。
この届出書は紙の場合、複写式の3枚綴りとなっており、所轄の労働基準監督署へと提出すると、「労働保険番号」と事業所控えが返却されます。
STEP4:「労働保険概算保険料申告書」の提出
保険関係の成立した日から50日以内に、当該年度分の概算の労働保険料を計算して、所轄の労働基準監督署、または所轄の都道府県労働局、金融機関(日本国内の銀行、信用金庫、郵便局など)のいずれかへ「労働保険概算保険料申告書」を提出する必要があります。
この申告書は紙の場合、複写式となっており、上部は申告書部分で2枚綴り、下部は納付者部分で3枚綴りとなっています。
「労働保険概算保険料申告書」を所轄の労働基準監督署、または所轄の都道府県労働局に提出すると、納付書部分と事業所控えが返却されます。
なお、STEP3の「保険関係成立届」と「労働保険概算保険料申告書」を併せて、所轄の労働基準監督署へ提出する方法が、納付書のチェックもしてもらえ、郵送回数も少なくなることから、お勧めの方法です。
STEP5:概算保険料の納付
申告書の提出と同時に保険料(労働関係成立時から3月までの分)の納付が必要となりますが、所轄の労働基準監督署、または所轄の都道府県労働局から返却された納付書をもって、金融機関の窓口で納付することができます。
なお、STEP4で労働保険概算保険料申告書を金融機関に提出する場合には、提出と同時に納付を行うこととなります。
STEP6:「労働保険の保険料等口座振替納付書送付(変更)依頼書兼口座振替依頼書」の提出
口座振替を希望する場合には、「労働保険の保険料等口座振替納付書送付(変更)依頼書兼口座振替依頼書」を口座開設している金融機関の窓口に提出します。
また、STEP5の納付と併せて手続きをすること効率的に手続きを進めることができます。
なお、金融機関において、届出印を確認する必要があるため、郵送による提出はできないことから注意が必要です。
STEP7:「雇用保険適用事業所設置届」及び「雇用保険被保険者資格取得届」の提出
STEP3で、労働基準監督署から「労働保険番号」を受け取った後に所轄の公共職業安定所(ハローワーク)へ「雇用保険適用事業所設置届」及び「雇用保険被保険者資格取得届」を提出する必要があります。
労働保険料の口座振替の概要
労働保険料の納付については、上述の通り、口座振替の利用が便利です。
口座振替納付日は下表のように決まっています。
納期 | 第1期 | 第2期 | 第3期 |
口座振替納付日 | 9月6日 | 11月14日 | 2月14日 |
口座振替を利用しない場合の納期限 | 7月10日 | 10月31日 | 1月31日 |
※ 口座振替納付日が土・日・祝日の場合には、その後の最初の金融機関の営業日となります。
口座振替を利用することで、次のようなメリットを享受できることから、利用することをお勧めします。
<メリット>
✓保険料納付のために、毎回金融機関の窓口へ行く手間が省け、待ち時間も解消されます。
✓納付漏れや納付遅延がなくなるため、延滞金を課されずに済みます。 ✓保険料の引き落とし期間が2カ月程あるため、資金繰りにゆとりができます。 |
労働保険料等の口座振替納付の詳細については、以下の厚生労働省のサイトをご参照ください。https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/hoken/hokenryou/index.html
労働保険の口座振替依頼書の書き方・添付書類
ここでは、口座開設している金融機関の窓口へ提出する「口座振替依頼書」の書き方や添付書類等を確認します。
(1)「口座振替依頼書」の記載イメージ
口座開設している金融機関の窓口に提出する「口座振替依頼書」の記載イメージは以下の通りです。
(2)「口座振替依頼書」の記載ポイント
口座開設している金融機関の窓口へ提出する「口座振替依頼書」の記載ポイントは以下の通りです。
<1 指定預金口座欄>
金融機関名、支店名:
例えば、〇〇銀行△△支店と言うように、金融機関名と支店名を記入します。なお、ゆうちょ銀行やネット銀行は振替に対応していないことから注意が必要です。
預金種別、口座番号、金融機関コード、店舗コード:
預金種別に、普通預金の場合は①、当座預金の場合は②を記入し、また、口座番号を記入します。さらに、金融機関コードと店舗コードを記入します。
口座名義(カナ)、口座名義(漢字):
口座名義(カナ)には会社の名称の読みをカタカナで記入し、口座名義(漢字)には会社の名称と代表者の役職・氏名を漢字等で記入します。
なお、会社の種類ごとの名称の読みは、例えば以下のように記入します。
会社の種類 | 略語 | ||
頭部 | 途中 | 末尾 | |
株式会社 | カ) | (カ) | (カ |
合同会社 | ド) | (ド) | (ド |
有限会社 | ユ) | (ユ) | (ユ |
データ指示コード:
新規で口座振替を申しむ場合には「1」を、既に申し込んでいる口座振替の口座を変更する場合には「2」を記入します。
労働保険番号:
労働保険の保険関係成立届を労働基準監督署へ提出した時の事業主控えに記載されている労働保険番号を記入します。
金融機関への届出印:
銀行届出印を押印します。
<2 振替納付期日>
振替開始(希望)納期:
振替開始を希望する納期の「年度」と「期」を記入します。なお、口座振替納の申込み締切日は、口座振替納付開始を希望する納期に応じて、以下の日となります。
提出年月日:
提出年月日を記入します。
事業主:
会社の場合には、本店所在地の電話番号・郵便番号・所在地、会社の名称、代表者の役職と氏名、を記入します。
(3)「口座振替依頼書」の添付書類
口座開設している金融機関の窓口へ提出する「口座振替依頼書」に添付する書類はありません。
会社設立後に必要となるその他の手続き
会社設立後に必要となる税務関係手続や社会保険関係手続については、以下の記事をご参照ください。
会社設立後の税務関係手続・社会保険関係手続
また、健康保険・厚生年金保険の新規適用届については、以下の記事をご参照ください。
【会社設立後の提出書類⑥】健康保険・厚生年金保険の基本と新規適用届の書き方(記入例あり)
まとめ
以上今回は、「労働保険料の申告と納付」や「労働保険加入手続きの全体の流れ」を改めて確認した上で、「労働保険料の口座振替の概要」や「労働保険の口座振替依頼書の書き方・添付書類」などを解説させていただきました。
労働保険料は、毎年6月1日~7月10日の間に申告と納付を行います。
納付は、特段の手続きをしない場合には、労働保険料申告書に付いている領収済通知書(納付書)を使って金融機関の窓口で納付することとなります。
ただし、毎年毎年、金融機関の窓口で納付手続きをすることはかなり手間がかかることから、労働保険料の「口座振替」を利用することで、その手間を省くことができます。
口座振替を利用することで、その他にも、「納付漏れの予防」や「資金繰りの余裕」などのメリットも享受できることから、利用することをお勧めします。
なお、「江東区・中央区(日本橋)・千葉県(船橋)」を拠点とする保田会計グループの会社設立支援サービスの特徴はワンストップサービスで、経営者の皆様にはなるべく手間をかけさせません。また、面倒な経理業務を引き取るために経理代行サービスも提供しております。
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