労働保険料は雇用保険料と労災保険料の合計で、事業主(会社)は年に1回、労働保険料を算出し、申告・納付する必要があります。
労働保険料の申告・納付は年に1回しかない手続きのため、専任の給与計算担当者等がいない中小企業等では、自社での対応が難しいとの声がよく聞かれます。
そこで、今回は、労働保険料に関して、「制度概要」や「対象となる賃金」、「雇用保険料と労災保険料の違い」、「計算方法や申告・納付」等をできるだけ分かりやすく解説します。
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労働保険料制度の概要
「労働保険」とは、「労働者災害補償保険(労災保険)」と「雇用保険」の総称を言います。
これらの労災保険と雇用保険の給付についてはそれぞれ別々に行われますが、保険料については両者を1年分まとめて納付することになります。
また、「労働保険」は、労働者を一人でも雇っていれば、原則として「適用事業」となるため、成立手続きを行って、労働保険料を納付しなければなりません。
また、「労災保険」は労働時間数等を問わず、全ての労働者が加入することになりますが、「雇用保険」は対象者が限定されますのでご注意ください(詳細は後述します)。
なお、労働者を雇っていない場合には、「適用事業」とはならず、また、労働者以外の人(会社役員や個人事業主、家族従事者等)は給付の対象になりません。
代表自らが現場で業務を行っている場合や農水産業の人は労災保険の「特別加入制度」を利用することができますが、雇用保険には同様の制度はありません。
労働保険料は、次の計算式の通り、雇用保険料と労災保険料の合計になります。
労働保険料 = 雇用保険料 (※1)+ 労災保険料(※2)
※1:雇用保険料 = 雇用保険の被保険者である従業員の賃金 × 雇用保険料率 ※2:労災保険料 = 労災保険の被保険者である従業員の賃金 × 労災保険料率 |
なお、労働保険の基本については、以下の記事もご参考になさってください。
【会社設立後の提出書類⑩】労働保険の基本と保険関係成立届の書き方(記入例あり)
労働保険の対象となる賃金
労働保険の対象となる賃金とは、賃金、給料、手当、賞与、その他名称の如何を問わず、労働の対償として事業主が労働者に支払うものを言います。
そのため、原則として、この賃金には税金や社会保険料等を控除する前の支払総額が該当し、賞与や多くの手当を含みますが、退職金や祝い金などの一時金は該当しません。
「賃金の主な範囲」は、下表の通りです。
賃金に該当するもの | 賃金に該当しないもの |
✓基本賃金、賞与
✓通勤手当、定期券 ✓超過勤務手当、深夜手当、扶養手当 ✓調整手当、地域手当、住宅手当 |
✓役員報酬
✓結婚祝金、弔慰金、見舞金 ✓退職金、勤続褒賞金、年功慰労金 ✓出張旅費、宿泊費 |
詳細は以下の厚生労働省のサイトをご覧ください。
労働保険対象賃金の範囲.pdf (mhlw.go.jp)
雇用保険料と労災保険料の違い
雇用保険料と労災保険料はよく似ていますが、被保険者の範囲や保険料の負担者に違いがあります。
(1)被保険者の範囲
労災保険は一度でも賃金の支払いのあった者は全て被保険者となります(事業主等は除く)。そのため、1日だけアルバイトをした人も被保険者になります。
一方で、雇用保険は被保険者となるための条件が少し厳しく、派遣社員やパートタイマーなどの非正規雇用の場合は、雇用期間や勤務時間が以下の通り、一定水準以上でないと被保険者にはなりません。
✓一週間の所定労働時間が20時間以上
✓31日以上継続して雇用される見込みがある(雇用期間がない場合等も含む) |
雇用保険の計算対象となる賃金からは、被保険者とならない人の賃金を除外することとなります。
(2)保険料の負担者の違い
労災保険料は全額を事業主(会社)が負担します。そのため、毎月の従業員給与から天引きする必要はなく、保険料の計算も年に1度だけで済みます。
一方で、雇用保険料は事業主(会社)と従業員とで折半して負担します。そのため、毎月の従業員の給与から天引きしなければならず、保険料も毎月計算しなければなりません。
労働保険料の計算方法や申告・納付について
労働保険料は、前年度1年間の雇用保険料と労災保険料を合計し、原則として年に1度、まとめて申告と納付を行います。
ただし、一部の事業(二元適用事業)では、労災保険料と雇用保険料を別々に納付する必要があります。
なお、「一元適用事業と二元適用事業の違い」や「建設業(二元適用事業)の労災保険の詳細」については、以下の記事をご参照ください。
一元適用事業と二元適用事業の違いはこちら:
労働保険に関するよくある質問(「一元適用事業と二元適用事業とは?」など)
建設業(二元適用事業)の労災保険の詳細ははこちら:
建設業における労災保険を詳しく解説!!
(1)労働保険料の計算方法(年度更新)
労働保険料の計算は、以下の通り、①確定保険料の計算、②概算保険料の計算、③差額の精算といった順で行うこととなります(年度更新)。
また、労働保険料の計算期間(保険年度)は、4月1日~翌年3月31日までとなります。
①確定保険料の計算
4月になって、年度が変わると、前年度に被保険者となる従業員に支払った賃金総額に保険料率を掛けて保険料を算出します。これを確定保険料と言います。
具体的には、上述の通り、賃金総額に労災保険料率を掛けて算出する「労災保険料」と、雇用保険料率を掛けて算出する「雇用保険料」とを合計して、労働保険料を算出します。
また、確定保険料計算の場合は、併せて一般拠出金(アスベストによる健康被害者への救済に利用される負担金)を 0.002% ( 0.02 / 1000 )で計算します。
②差額の精算
次に前年度に前払いで納付を行った概算保険料と、今年度に実際に納付する確定保険料の差額の精算を行う必要があります。
ここで、前年度に納付した概算保険料が確定保険料よりも少なかった場合には、不足分を本年度に申告と納付を行う概算保険料に加算します。
逆に前年度に納付した概算保険料が確定保険料よりも多かった場合には、超過分を本年度に申告と納付を行う概算保険料から減算します。
③概算保険料の計算
前年度の確定保険料を計算するのと合わせて、当年度に支払うと見込まれている保険料を概算で計算し、前払いで申告と納付を行います。
これを概算保険料と言います。
④年度更新
上記の①~③の作業を毎年繰り返すことになります。これを労働保険料の年度更新と言います。
例えば、令和5年6月に年度の年度更新をする場合には、以下の3つの作業を順番に行うことになります。
①令和4年度の確定保険料を計算
②令和4年度の確定保険料(①)と令和4年6月に納付済みの概算保険料との差額を計算 ③令和5年度の概算保険料に②で算出した差額分を加算または減算した労働保険料を申告・納付 |
(2)労働保険申告書の作成手順
労働保険申告書の手順は以下の通り、「確定保険料算定基礎賃金集計表」の作成と「労働保険料申告書」の作成に分けられます。
手順① 確定保険料算定基礎賃金集計表の作成
申告書を作成するため、まずは雇用保険・労災保険それぞれの被保険者(対象者)に対して、前年度1年間に支払った賃金総額を把握する必要があります。
そのため、毎月の支払賃金総額等をまとめた「確定保険料(および一般拠出金)算定基礎賃金集計表」を作成することをお勧めします。
この賃金集計表は提出する書類でないことから、書式等は決まっていませんが、以下の厚生労働省のサイトに賃金集計表のサンプルがあるため、適宜ご使用ください。
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudouhoken01/yousiki.html
なお、労働保険料算定の基礎となる賃金は4月1日~翌年3月31日に支払いが確定したものが対象となることから、実際の支払日がこの算定期間外であっても問題ありません。
この点、支給日ベースで考える源泉所得税とは異なるため、注意が必要です。
手順② 労働保険料申告書の作成
賃金集計表を作成したら、それを基に申告と納付を行う保険料を「労働保険概算・確定保険料申告書」に記入します。
申告書は労働局から送付されますが、手許にない場合には、労働基準監督署やハローワーク等にも用意されています。
A.前年度の確定保険料を算出
B.前年度の確定保険料と概算保険料との差額を算出 C.本年度の概算保険料を算出 D.上記「B」「C」に一般拠出金を加えて、本年度の納付総額を算出 |
A.前年度の確定保険料を算出
まず、集計表で算出した前年度の賃金総額をもとに、雇用保険料、労災保険料、一般拠出金を算出します。
✓雇用保険料 = 被保険者の賃金総額 × 雇用保険料率
✓労災保険料 = 事業主等を除く全従業員の賃金総額 × 労災保険料率 ✓一般拠出金 = 事業主等を除く全従業員の賃金総額 × 一般拠出金率 (業種を問わず一律 0.002% ( 0.02 / 1000 )) |
※「一般拠出金」とは、アスベスト(石綿)健康被害救済基金への拠出金のことで、労災保険の適用事業所は必ず、労働保険料と合わせて納付をします。
B.前年度の確定保険料と概算保険料との差額を算出
前年度の確定保険料を算出したら、次に前年度の概算保険料との差額を精算します。
採用、退職に伴う従業員の変動などによって概算保険料と確定保険料には通常、差額が出ます。確定保険料の方が多い場合には不足額、少ない場合には充当額とします。
C.本年度の概算保険料を算出
次に本年度の概算保険料を賃金総額の見込額から算出します。
この賃金総額の見込額については、前年と比較して100分の50以上(半分以上)、または100分の200以下(2倍以下)の場合、前年度の確定賃金総額と同額とします。
ただし、見込額が前年度の半分未満、または2倍超になることが分かっている場合には、実際の見込額に基づき保険料を算出します。
D.上記「B」「C」に一般拠出金を加えて、本年度の納付総額を算出
上記「B」において不足額が出ている場合には、上記「C」の概算保険料に加算し、逆に充当額が出ている場合には、上記「C」の概算保険料から差し引き、納付する労働保険料を算出します。
さらに、この金額に本年度の一般拠出金を加算し、本年度の納付総額を算定します。
(3)労働保険料の申告と納付
申告書が作成できたら、労働保険料と一般拠出金の申告と納付を毎年6月1日~7月10日(10日が休日の場合には翌営業日)の間に行います。納付には、申告書に付いている領収済通知書(納付書)を使います。
なお、概算保険料が40万円以上(労災・雇用保険のどちらか一方のみが成立している場合は20万円以上)の場合には、下表の納付期限で3分割しての納付が可能です。
また、分割する場合には、概算保険料を分割回数で除した額(1期目に端数を加算)を期ごとに納付することとなります。
第1期 | 第2期 | 第3期 |
7月10日 | 10月31日 | 1月31日 |
※ 分割できるのは「概算保険料」のため、精算分や一般拠出金は分割ができないため、注意が必要です。
口座振替が便利
労働保険については、口座振替を利用して納付することもできます。
口座振替納付日は下表の通りです。
納期 | 第1期 | 第2期 | 第3期 |
口座振替納付日 | 9月6日 | 11月14日 | 2月14日 |
口座振替を利用しない場合の納期限 | 7月10日 | 10月31日 | 1月31日 |
※ 口座振替納付日が土・日・祝日の場合には、その後の最初の金融機関の営業日となります。
労働保険料の口座振替についての詳細は以下の記事をご参照ください。
【会社設立後の提出書類⑫】労働保険の口座振替依頼書の概要と書き方(記入例あり)
まとめ
以上今回は、労働保険料に関して、「制度概要」や「対象となる賃金」、「雇用保険料と労災保険料の違い」、「計算方法や申告・納付について」等をできるだけ分かりやすく解説させていただきました。
「労働保険」とは、「労災保険」と「雇用保険」の総称で、これらの保険の給付についてはそれぞれ別々に行われますが、保険料については両者を1年分まとめて納付することになります。
労災保険は一度でも賃金の支払いのあった者は全て被保険者となりますが、雇用保険は被保険者となるための条件があるため、注意が必要です。
労働保険料の計算は、①確定保険料の計算、②概算保険料の計算、③差額の精算といった順で行うこととなります(年度更新)。
労働保険料の申告・納付は年に1回しかない手続きで、専任の給与計算担当者等がいない中小企業等においては、慣れない年1回の作業で非常に手間がかかり、計算を誤るリスクもあります。
そのため、できるだけ外部の専門家などに業務依頼することをお勧めします。
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