遺産分割協議を行い、相続人全員が内容に合意すると、その協議し合意した内容を「遺産分割協議書」にまとめます。
この遺産分割協議書は、協議に参加した相続人全員の署名と実印の捺印により完成します。また、実務においては、実印の捺印に加えて、契印や割印、捨印といった特殊な印鑑の押し方も必要となります。
そこで、今回は、遺産分割協議書における「契印や割印、捨印の押印方法」や「印刷方法」などについて解説します。
Table of Contents
遺産分割協議書とは?(実印を使用)
遺産分割協議書とは、遺産分割についての相続人同士の合意を証明する書類です。この遺産分割協議書には、協議に参加した相続人全員の署名と捺印が必要になります。
この遺産分割協議書に使用する印鑑は「実印」になります。
実印とは、住民票のある市区町村役場に印鑑登録した印鑑のことです。遺産分割協にあたって、実印を持っていない場合には、登録用の判子を用意して印鑑登録をする必要があります。
また、押印した印が実印であることを証明するため、遺産分割協議書には相続人全員の印鑑証明を添付する必要があります。
遺産分割協議書へ押印する方法には、捺印だけでなく、特殊な印鑑の押し方として「契印」、「割印」、「捨印」の3種類があります。以下においては、これらの押印方法等を確認します。
なお、遺産分割や遺産分割協議については、以下の記事をご参照ください。
遺産分割とは?手続きの流れと揉めやすい4つのケースを解説
遺産分割協議書への契印とは
契印とは、遺産分割協議書が複数ページとなる場合に、ページとページの見開き部分にまたがるように押す印のことを言います。
契印を押すことで、遺産分割協議書のページが勝手に増やされたり、抜き取られたりといった不正が行われないようにします。
契印の押し方は、ホッチキスで綴じたあとに、ページを見開き、下図のように見開いたページの左右のページにまたがるように、実印で押印します。この契印は、相続人全員が全てのページの見開きに、実印で押印することが必要です。
遺産分割協議書の全てのページ見開きに相続人全員の印を押すには、それなりの手間がかかります。
そこで、ページ数が多くなる場合には製本を利用します。遺産分割協議書が製本されていれば、下図のように表紙と裏表紙の2箇所、製本テープと書類の紙にまたがるようにして契印するだけで済みます。
なお、表紙か裏表紙のどちらか1箇所に契印を押すだけでも有効とされていますが、念のために2箇所押印することをお勧めします。
遺産分割協議書への割印とは
割印とは、遺産分割協議書を複数作成した場合に、その複数の文書が同一内容であることを保証するために遺産分割協議書の表紙上部に押す印のことです。
割印を押すことで、不正防止につながり、改ざんは難しくなります。
割印の押し方は、下図のように、全ての遺産分割協議書を少しずつずらしてならべ、全文書にまたがるように押印します。
なお、遺産分割協議書の割印を省略したとしても、遺産分割協議書は有効であるため、実務上は、割印を省略することも多々あります。
遺産分割協議書への捨印とは
捨印とは、文書の訂正が必要になったときに備えて、事前にページの欄外(余白)に押印しておく印のことです。
全てのページに捨印が押してある場合には、訂正したい箇所に二重線を引き、捨印を押した箇所に「〇行目 〇字削除〇字加入」と書くことで、有効に訂正ができ、訂正が必要になった際の手間を軽減することができます。
仮に、捨印がない状況で、遺産分割協議書の内容を訂正することになった場合には、相続人全員分の遺産分割協議書に、相続人全員の実印を押す必要があります。これには手間と時間がかかることから、トラブルが起きることが想定されない相続人間の遺産分割においては、捨印を利用することがあります。
ただし、捨印は義務ではなく、捨印で文書を改ざんされるリスクもあることから、少しでもトラブルが起きそうな場合には、捨印を押さないように注意が必要です。
捨印の押し方は下図のように押印します。
捺印等を失敗したときの対処方法
捺印や契印、割印に押す実印が、かすれる等失敗してしまったときの対処方法について確認します。
失敗してしまった場合には、下図のように、失敗した印影に少しずらして重なるように訂正印を押し、さらにそのすぐ横にはっきりと実印を押し直します。二重訂正線は使わないように注意が必要です。
遺産分割協議書に最低限必要な印とは
遺産分割協議書に最低限必要な印は次の通りです。
①署名欄の隣の捺印
②次のいずれかの契印 ③表紙上部の捨印(上述の通り、トラブルが起きそうな場合には押さない) |
遺産分割協議書の部数や印刷方法、印紙は
最後に遺産分割協議書における「その他の基礎知識」を確認します。
(1)作成部数
相続人それぞれが保管できるように相続人の人数分を作ることが一般的です。
また、不動産登記用や預金の名義変更用に、該当する相続財産のみを記載した遺産分割協議書を作成することもあります。
なお、法務局での不動産の相続登記の際には、遺産分割協議書の原本を提出しますが、コピーを添付して原本還付の手続をすれば、登記完了後に遺産分割協議書の原本は返却されます。
同様に、金融機関での預金の名義変更の際にも、金融機関で遺産分割協議書のコピーをとり、原本は返してくれるケースが多いです。
(2)印刷方法等
遺産分割協議書はA4用紙で作成することが一般的です。
2ページに収まる場合には、A4用紙に両面印刷をするか、A3用紙に見開き(ワードの余白設定で印刷形式を袋とじ)で印刷することで、契印を押す手間が省けます。
3ページ以上になる場合には、A4用紙に片面印刷することが一般的で、枚数が多くなる場合には製本します。
(3)印紙税の対象か否か
遺産分割協議書は印紙税法の課税文書に該当しないことから、遺産分割協議書に印紙を貼付する必要はありません。
なお、印紙税の節税については、以下の記事もご参照ください。
家賃の領収書に印紙は必要?(家賃帳を使った節税も)
まとめ
以上、今回は遺産分割協議書における「契印や割印、捨印の押印方法」や「印刷方法」などについて解説させていただきました。
遺産分割協議書への押印方法には、捺印だけでなく、契印、割印、捨印があります。契印、割印、捨印は義務ではありませんが、紛失や改ざんのリスクから書類を守る等の効果がありあります。
ただし、捨印については、訂正が発生した時の手間を省いてはくれますが、押すことで生じるリスクがあることは理解しておく必要があります。
遺産分割協議書の押印を行うにあたっては、今回の記事を参考に、正しい箇所に正しい方法で押印することが重要です。
なお、相続登記に遺産分割協議書が必要かどうかについては、以下の記事をご参照ください。
相続登記に遺産分割協議書は絶対に必要か?