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相続登記に遺産分割協議書は絶対に必要か?

不動産を相続すると、相続登記手続きが必要になります。この相続登記には、「遺産分割協議書」を添付することが一般的です。
それでは、相続登記に遺産分割協議書は絶対に必要となるのでしょうか?結論としては、ケースによって不要となる場合があります。

そこで今回は、相続登記について、「どのようなケースで遺産分割協議書が必要となり、また不要となるのか」や「相続登記をしないリスク」などを解説します。

 

相続登記の概要

相続登記とは、土地や建物などの不動産の所有者が亡くなった場合に、その不動産の所有に関する名義を相続人に名義変更することです。
2022年現在、相続登記の手続期限は定められておらず、任意手続とされていることから、仮に相続登記を行わなくても罰則などはありません。

ただし、2024年4月1日から、相続登記が義務化されることから、今後、相続があった際には注意が必要です。

 

相続登記と遺産分割協議書の関係

相続登記の申請をする際には、申請書とともに「登記原因証明情報」を添付する必要があります。この登記原因証明情報とは、「どんな原因で登記が発生し、誰にどの権利が移ったのか」を証明する情報です。

また、相続人が複数いる場合、登記原因証明情報には、誰が不動産を相続したのかを証明する必要があるため、「遺産分割協議書」を添付することが一般的です。
ただし、ケースによって、「遺産分割協議書」の添付は不要となる場合があることから、どのようなケースで遺産分割協議書が必要となり、また不要となるのか、以下で確認します。

なお、遺産分割や遺産分割協議については、以下の記事をご参照ください。
産分割とは?手続きの流れと揉めやすい4つのケースを解説

 

遺産分割協議書が必要となるケース

まず、相続登記手続きで遺産分割協議書が必要となるケースを確認します。

(1)遺言書がないケース

遺言書がなく、相続人が複数いる場合には、遺産分割協議書が必要となります。
ただし、相続人が一人の場合や、調停・審判を利用する場合等は必要ないことから、後述の「遺産分割協議書が不要となるケース」の記載内容もご確認ください。

 

(2)法定相続分と異なる税率で相続するケース

民法には、「法定相続分」として、被相続人と相続人の関係に応じた相続分が規定されています。
この法定相続分とは、配偶者がいない場合は単純で、相続人の数で均等割りするだけです。一方で、配偶者がいる場合の法定相続分は少し複雑で、下表の通り、例えば、相続人が配偶者と子どもの場合、それぞれの相続分は2分の1ずつとなります。

血縁相続人 血縁相続人の相続割合 配偶者の相続割合
1/2 1/2
直系尊属 1/3 2/3
兄弟姉妹 1/4 3/4

 

法定相続分の詳細については、以下の記事の中の「(3)法定相続分(法定相続割合)」もご参照ください。
相続税の計算方法をわかりやすく解説!(スケジュールや相続税がかかる遺産額も)

 

この法定相続分はあくまで目安であることから、法定相続分と異なる割合で遺産を分割しても構いません。
その場合には、相続人間で話し合い(遺産分割協議)を行う必要があり、相続登記時にこの話し合いを書面にした遺産分割協議書が必要になります。

 

遺産分割協議書が不要となるケース

次に、相続登記手続きで遺産分割協議書が不要となるケースを確認します。

(1)遺言書があるケース

遺言書に沿って遺産分割を行う場合には、この遺言書の添付が必要となりますが、遺産分割協議書は不要となります。

ただし、遺言書に日付の漏れがあったり、押印がなかったりするなど、法律で定められている形式・要件を守っていない場合には、その遺言書は無効となることから、遺産分割協議が必要となります。

また、「妻○○に財産を3分の1、子△△に財産を3分の2相続させる」というように、相続割合の指定のみ記載した遺言書であれば、遺言自体は有効であるものの、具体的にどのように分けるかを話し合う必要があるため、結局、遺産分割協議を行うことになります。

さらに、たとえ法律上の形式が守られ、具体的な財産の指定がなされていても、相続人全員の合意があれば、遺産分割協議で遺言と異なる遺産分割をすることも可能です。

これらの場合には、遺産分割協議書が必要となりますので、注意が必要です。

 

(2)法定相続分で相続するケース

対象となる不動産について、法定相続分で相続登記を行う場合には、遺言書も遺産分割協議書も不要となります。

 

(3)相続人が1人だけの場合

相続人が1人だけの場合には、他の相続人と話し合う必要がないことから、当然に遺産分割協議書は不要となります。

 

(4)遺産分割調停・審判を利用する場合

遺産分割協議では話がまとまらず、家庭裁判所の調停・審判による決定がある場合、遺産分割協議書は不要となります。
なお、この場合には、遺産分割協議書の代わりとして、調停の場合には調停調書、審判の場合には審判書を添付します。

 

相続登記をしない(放置している)リスク

相続登記をしないで、放置をしている場合には、次のようなリスクがあります。

(1)相続人の間でトラブルが発生する可能性がある

相続登記を行わずに共有の状態にしている場合には、将来的にトラブルが発生する可能性があります。

例えば、相続人A・相続人B・相続人Cで相続不動産を共有しているケースにおいて、相続人Cが借金をして、返済できなくなった場合には、相続人Cの持ち分(相続した不動産の一部)が差し押さえられる可能性があります。その結果、全く関係のない第三者が相続人Cの所有分を引き継ぐことになり、その後に不動産の売却をしたくても難しい状況になることがあります。

 

(2)不動産売却が難しくなる可能性がある

相続した不動産を売却する場合には、いったん相続人名義での登記が必要になります。しかし、相続登記をせずに時間が経ってしまうと、いざ相続登記をしようとしたときに他の相続人からの了承を得られず、相続登記ができず、結果として、不動産の売却が難しくなる可能性があります。

 

(3)担保にできない

金融機関の借入は、不動産担保などを差し入れすると金利が安くなったり、良い条件で借りられたりといったメリットがあります。しかし、登記をしていない不動産は融資の担保にすることができません。
そのため、将来的に融資を利用する可能性がある場合には、相続登記は済ましておく必要があります。

 

(4)固定資産税の納税漏れの可能性がある

不動産を保有する場合には、毎年、固定資産税の納税が必要になります。そのため、相続登記をせずに空き家の実家を相続人間で共有する場合であっても、相続人には固定資産税を負担する義務が生じます。

ただし、相続登記をせずに空き家のままの場合には、納税を忘れたり、一部の相続人から税金分を回収できなくなったりする恐れがあります。固定資産税を延滞すると、延滞税の支払いが必要になりますので、注意が必要です。

 

(5)利害関係者が増えていく

相続登記をしない不動産は、法定相続人が共有という形で所有していることになります。そのため、次の相続が発生したら所有者の数がどんどん増えていき、所有関係が複雑化してしまいます。

 

まとめ

以上、今回は相続登記について、「その概要」や「どのようなケースで遺産分割協議書が必要となり、また不要となるのか」を解説させていただきました。

相続登記に遺産分割協議書が必要となるか否かについては、遺言の有無や相続人の数、相続方法によって異なります。
また、相続登記を放置していると、後々に不動産の所有権をめぐって相続人の間でトラブルが発生する可能性もあります。

そのため、不動産を相続したら、忘れないうちに相続登記を行うことをお勧めします。

なお、不動産を売却した場合に、代償分割と換価分割のどちらが有利かについては、以下の記事をご参照ください。
代償分割と換価分割の違い(不動産売却はどっちが有利?)