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法人化(会社設立)すべきタイミングとは

個人事業主の方は、事業が軌道に乗り、売上や利益が大きくなってきたら、法人化(会社設立)の検討をすることが一般的です。
個人事業主と会社とでは課せられる税金の種類や税務上の様々な取り扱いに違いがあるため、どのタイミングで法人化をすればお得なのか見極めが大切です。
今回は、「法人化すべきタイミング」と「法人化するメリット」などを詳しく解説します。

この他にも、実践的な節税対策についてご興味のある方は、以下のサイトも是非ご覧ください。
当事務所について – 保田会計事務所|税務・コンサル・会計・その他経営に関わる全てを総合的にサポート

法人化すべきタイミング

法人化すべきタイミングとして、次の4つが挙げられます。

①税金を減らすことを目的とした法人化のタイミング

税金を減らすことを目的とした場合には、売上ではなく、所得を基準に考えることが基本となります。
個人事業主に課せられる所得税などの税金は売上ではなく、個人事業主のもうけである利益に相当する所得金額に税率をかけて計算します。たとえ売上が大きくても、所得金額が少なければ、税金も少なくなることから、ここでは所得金額に着目します。

そこで、法人化すべきタイミングとしては、個人事業主の所得金額に対する所得税率等が一般的な法人税の実効税率33%より高くなった時が考えらえます。
このタイミングで法人化することで、個人との税率の差を利用した節税効果を得ることができます。

ここで、所得税率等とは下表の税率の合計になります。

課税所得金額 所得税率 住民税率 事業税
195万円以下 5% 10% 3%~5%
195万円超~330万円以下 10% 10% 3%~5%
330万円超~695万円以下 20% 10% 3%~5%
695万円超~900万円以下 23% 10% 3%~5%
900万円超~1,800万円以下 33% 10% 3%~5%
1,800万円超~4,000万円以下 40% 10% 3%~5%
4,000万円超 45% 10% 3%~5%

上記の表から、所得金額が695万円を越えた場合には、法人化の検討をすべきです。
ただし、実際には法人化することにより、税理士等の外部専門家に対するコスト増加等もあるため、所得金額800万円あたりが法人化すべきタイミングの一つと言われています。

また、所得金額が900万円を越えている場合には、法人化をしないと税金面で損をしている可能性が高いとも言えます。

 

②消費税免除のための法人化のタイミング

売上1,000万円を超えた時も法人化すべきタイミングの基準になり得ます。なぜなら、売上1,000万円を超えた翌々年には消費税を申告して、納付する必要があるためです。
この翌々年のタイミングで、法人化すれば、設立して2年間は一定の場合に免税事業者となることが可能で、消費税が免除されます。つまり、個人事業主を継続していたら、本来、申告しなければならないところ、法人化により、さらに2年間の消費税免除の制度を利用することができるということです。

では、どのぐらいの消費税が免除できるのでしょうか。ここでは、仮に売上が1,000万円(税込)で、簡易課税制度(仕入額を売上額の一定割合とみなして控除額を計算する方法)を採用していた場合の金額を表にしてみました。

事業区分 事業例 みなし仕入率 消費税額(万円)
第一種事業 卸売業 0.9 9
第二種事業 小売業 0.8 18
第三種事業 製造業 0.7 27
第四種事業 飲食業 0.6 36
第五種事業 サービス業 0.5 45
第六種事業 不動産業 0.4 54

なお、消費税の課税・免税の基準となる1,000万円の判定は、免税の事業者は税込で行う必要がありますので、注意が必要です。

また、インボイス制度が導入される2023年10月以降は、インボイスを発行できない免税事業者からの仕入は仕入税額控除の制限があります。そのため、取引先からの目に見えない圧力により、今までみたいに免税事業者になることができない可能性もあり、こちらも注意が必要です。

なお、インボイス制度において免税事業者がとるべき対応については、以下の記事をご参照ください。
【インボイス③】インボイス制度において免税事業者がとるべき対応

 

③社会保険加入の観点での法人化のタイミング

健康保険や厚生年金などの社会保険については、個人事業の場合、特定の業種で5名以上雇用している場合を除いて加入する義務はありませんが、法人化すると役員だけの会社であったとしても強制加入となります。
今まで社会保険に加入していなかった個人事業主の従業員数が5名以上になると、そのタイミングで社会保険に加入すべき義務が生じ、社会保険料の負担は従業員と折半するものの負担額は大きくなることから、資金面からの注意が必要となります。

また、将来に受け取れる年金の受け取り額は、個人事業主が加入する国民年金よりも、会社で加入する厚生年金の方が一般的に高くなります

そのため、個人事業主であったとしても社会保険に加入する義務が生じるのであれば、その義務化が生じる従業員数5名以上となるタイミングで法人化して、手厚い補償の厚生年金や健康保険に加入することも十分に検討できます。

なお、社会保険の手続きについては、以下の記事をご参照ください。
会社設立後の税務関係手続・社会保険関係手続

 

④社会的信用を獲得するための法人化のタイミング

その他の法人化のタイミングとしては、個人事業主よりも法人化したほうが社会的信用を得られ、事業拡大にも有利と判断した時点が挙げられます。
例えば、上場企業などの取引先から、大口の新規取引を受注する条件として、法人化を求められるケースがあります。

また、公共工事について、入札できる工事の規模を大きくするためには、経営事項審査の点数を上げる必要があります。この点数を上げることは会社の方が比較的行いやすいことから、法人化が検討されます。

これらの理由により、法人化を検討する場合には、節税等の観点よりも、優先事項として検討すべきです。

 

法人化のメリット

法人化すべきタイミングを判断するためにも、ここでは法人化すべきメリットを確認します。

①給与所得控除による恩恵

会社員は給与を会社から受け取る時に「給与所得控除」といって一定額を差し引いて、所得税を計算します。
一方で、個人事業主は売上から経費を差し引いた所得に対して、所得税を計算します。
そのため、法人化によって、個人事業主自らも社長になり役員報酬の支給を受けることで、給与所得控除の恩恵最大で195万円も受けることができます。

この給与所得控除額は、給与等の収入金額に応じて、次のようになります。

給与等の収入金額 給与所得控除額
1,625,000円まで 550,000円
1,625,001円~1,800,000円 収入金額 × 40% – 100,000円
1,800,001円~3,600,000円 収入金額 × 30% + 80,000円
3,600,001円~6,600,000円 収入金額 × 20% + 440,000円
6,600,001円~8,500,000円 収入金額 × 10% + 1,100,000円
8,500,001円以上 1,950,000円(上限)

 

②家族に役員報酬を支払うことができる

法人化して家族を役員にし、役員報酬を支払うことで所得分散効果を享受できます。
所得税は所得の額に比例して大きくなる累進課税制度を採用しているため、社長一人で全額を受け取るのではなく、家族に役員報酬を分散することで、家族全体の所得税率を抑えながら、さらに各個人で給与所得控除の恩恵を受けることができます。

役員報酬をいくらにすべきかについては、以下の記事もご参考になさってください。
役員報酬はいくらに設定すべき?

 

③2年間の消費税の免除

上述の通り、法人化すれば、設立して2年間は一定の場合に免税事業者となることが可能で、消費税が免除されます。

 

④赤字の繰り越しが9年間できる

個人事業の青色申告者において、年間の利益が赤字になった場合には、赤字による損失を「3年間」繰り越すことができ、赤字の翌年に利益が出た場合には、その利益から繰り越した損失を控除することで税金の支払額を減らすことができます。
この赤字になった場合の損失の繰り越し可能な期間が、会社の場合にはなんと「9年間」にもなります。

個人事業主であれば3年間で過去の赤字と利益を相殺できなくなってしまうところ、会社であれば9年間も赤字による損失を繰り越すことができることから、将来に黒字化した際に過去の赤字と利益を相殺して税負担を抑えることが可能となります。

そのため、当分は赤字が続くものの将来は黒字化が見込まれる事業を展開している個人事業主であれば、法人化することで長期的な税負担の抑制が可能となります。

 

⑤経費にできる範囲が広い

個人事業主の場合には、プライベートな家事関連費の支出は経費にしづらいですが、会社の場合には、営利目的を追求する建前のもと、基本的に支出した経費はすべて事業活動のために支出されたと見ることができることから、経費の範囲が個人事業主と比較すると広くなっています。
例えば、自宅を社宅にして家賃を経費としたり、車両関連、生命保険、退職金等を経費としたりすることができます

 

⑥社会的信用度が上がる

上述の通り、法人化すれば、個人事業主よりも社会的信用を得られ、事業拡大にも有利に働くことが多いです。

 

法人化のデメリット

次に、法人化した場合のデメリットを確認します。

①事務作業の手間とコストの負担増加

会計や税務関係等に関する事務作業の手間がかかります。
また、税務申告書の作成等を税理士、給与計算を社労士等に依頼することでコストもかかります。

 

②設立コストがかかる

一般的に設立する会社が株式会社であれば20万から25万、合同会社であれば10万程度の設立コストが発生します。

 

③赤字でも法人住民税の均等割は納税義務あり

会社の利益が赤字の場合であっても、「法人住民税の均等割」は毎年の納税義務があります。地方自治体によって、金額は異なりますが、例えば東京都に所在する会社は年間7万円の法人住民税の均等割が生じます。

 

④従業員の社会保険や労働保険の負担

法人化をすると上述の通り、社会保険への加入が義務となります。そのため、従業員等を雇用する場合、保険料の支払いは大きくなります。

 

まとめ

以上、今回は「法人化すべきタイミング」と「法人化するメリット」などを解説させていただきました。
実際に法人化を行う場合には、事前に専門家へ相談を行い、法人化した場合の税効果等のシミュレーションを行うことが望ましいです。

保田会計グループでは、法人化シミュレーションを無料で実施させていただいております。
また、「江東区・中央区(日本橋)・千葉県(船橋)」を拠点とする保田会計グループは会社設立支援業務を得意としておりますので、ご興味あるお客様はいつでもお問い合わせください。