今回は、セカンドオピニオンで立ち会った税務調査事例として、海外中古不動産による節税スキームを紹介させていただきます。
この他にも、実践的な節税対策についてご興味のある方は、以下のサイトも是非ご覧ください。
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事例紹介
今回ご紹介する事例は、納税者が米国西海岸に中古不動産を購入し、建物割合を8割として、「簡便法」による耐用年数4年で多額の減価償却費を計上していたところ、税務調査が入って、建物割合は固定資産税評価額を基準とした2割で再計算すべきと指摘された事例になります。
本事例の税務調査結果の詳細は記載できませんが、最終的には建物割合を8割近くまで認めてもらっています。
令和2年6月に東京不服審判所で同様の案件について、納税者不利の裁決が出ており、この結果に基づき、国外不動産をターゲットとした税務調査の件数が増えていると思われます。
ただし、令和2年度改正で創設された「国外中古建物の不動産所得に係る損益通算等の特例」により,令和3年分以後は一定の国外中古建物を用いた損益通算はできなくなっています。こちらは後程ご説明いたします。
なお、税制改正に関しては、以下の記事もご参照ください。
令和3年度税制改正の「電子帳簿保存法の宥恕措置」に関する記事はこちら:
電子取引のデータ保存義務化が令和5年末まで2年間猶予されました!
令和2年10月の「所得税基本通達の制定について」の一部改正について(法人税法上の時価における小会社方式の取扱い)に関する記事はこちら:
自社株の「法人税法上の時価」が令和2年10月より上昇しています!
海外中古不動産による節税スキーム
本事例でも問題とされた海外中古不動産による節税スキームとは、国外の中古不動産を購入して、購入初期に多額の減価償却費を計上することで、マイナスの不動産所得を計上し、それを給与所得等と損益通算することで所得税を引き下げるというものです。
例えば、木造住宅であれば法定耐用年数は22年とされていますが、築22年を超えた木造住宅を購入した場合、「簡便法」を採用することで耐用年数は4年とすることができます。また、米国を中心とした海外不動産は建物比率が高く、仮に8割とした場合、1.25億円の物件であれば建物価格は1億円となり、年間2,500万円もの減価償却費を計上できます。
こうして不動産所得で赤字を計上し、給与所得等と損益通算することで所得金額が小さくなり、所得税額自体も小さくなります。
また、耐用年数を経過し減価償却費が計上できなくなった後、物件を売却する時には、分離課税として譲渡所得税等20%(※)がかかりますが、一般的に富裕層であれば住民税を含む所得税率は総合課税の55%となることから、全体として税率差分の節税が可能となります。
※ 長期譲渡は20%(所得税15%、住民税5%)、短期譲渡は39%(所得税30%、住民税9%)
なお、減価償却費は定額法で計算することになりますが、個人事業主の減価償却方法の詳細については、以下の記事をご参照ください。
個人事業主の減価償却の概要や留意点(強制償却など)
令和2年度税制改正で海外中古不動産による節税スキームが封じ込め
上記の通り、節税メリットの高い海外中古不動産による節税スキームでしたが、令和2年度税制改正により、「国外中古建物の不動産所得に係る損益通算等の特例」が新たに設けられた結果、節税効果が一気に薄れています。
この特例の主なポイントは次の通りです。
①中古建物の減価償却で生じた損失は「なかったもの」とされます
これまで、海外中古不動産から生じた不動産所得の損失は、その内訳に関係なくすべて他の所得と損益通算することができました。
しかし、令和2年度税制改正により、損失部分のうち海外中古建物の減価償却費相当額はなかったものとされ、損益通算等はできなくなります。
②損益通算できない代わりに、売却時の譲渡所得は小さくなります
本特例の適用を受けた国外中古建物を売却すると,譲渡所得の計算で用いる「取得費」の額が通常とは異なってきます。本来、譲渡所得の計算上、建物の取得費は「取得時の購入価額-減価償却累計額」で計算します。
しかし、令和2年度税制改正により、「なかったものとみなされる減価償却費」の部分は、取得費から差し引かれないこととなりました。その結果、取得費が大きくなることの反動で、譲渡所得は小さくなります。
税制改正を踏まえた海外中古不動産による節税スキーム
以上が税制改正の主な内容ですが、海外中古不動産への投資がすべて封じられたわけではありません。
税制改正後も類似の節税効果を得るためのポイントは以下の通りです。
①法人での投資は対象外
この税制改正が対象としているのは個人の不動産所得です。法人が所有する海外の中古不動産は含まれていません。
②損益通算できなくなった減価償却費はあくまで「国外の中古建物」のみ
税制改正で損益通算できなくなったのは「国外中古建物の減価償却費」部分です。この国外中古建物というのは、「簡便法」か「一定の書類添付のない見積法」で使用可能年数を計算しているものをいいます。
つまり、以下の建物は規制されていません。
・国内の中古建物 ・新築の建物 ・建物以外の固定資産(建物付属設備、構築物等) ・中古建物であっても書類添付(使用可能期間が適格であることの確認ができる書類)のあるもの |
③国外中古建物同士の内部通算はできる
国外の中古建物の減価償却費が全て費用として認められないわけではありません。
国外にある中古建物で生じた不動産所得同士での黒字・赤字の相殺はできます。これを内部通算といいますが、ここまで規制されたわけではありません。
まとめ
以上、今回は、税務調査事例を絡めて、海外中古不動産を活用した節税スキームや税制改正についてご紹介しました。
今後、海外中古不動産を活用した節税スキームは、税務署から厳しい目でチェックされることが想定されます。
そのため、「江東区・中央区(日本橋)・千葉県(船橋)」を拠点とする保田会計グループでは、海外中古不動産ではなく、国内の中古不動産を活用したスキームをご提案させていただいています。なお、保田会計グループの提携する不動産業者では買取保証をつけてもらうことも可能です。
これらの中古不動産を活用した節税スキームに少しでもご興味がある方は、税務調査に強い国税OBが代表を務める専門家集団の保田会計グループにご相談ください。
なお、ふるさと納税や個人型確定拠出年金(iDeCo)など、個人の節税対策については、以下の記事をご参照ください。
会社員の節税対策6選!!