自分に相続が起こった場合、遺された相続人達が争うことなくスムーズに財産をひきつぐことができるように、生前に遺言書を作成しておくことをお勧めします。
ただし、いざ遺言書を作成しようと思っても、遺言書の具体的な記載内容は、遺言者がおかれた状況や遺言者の想いによって、それぞれ異なります。
そこで今回は、特にご相談が多い「取り分を工夫した遺言書の文例」を分かりやすく解説します。
Table of Contents
標準的な自筆証書遺言の見本と書き方
まずは、標準的でシンプルな遺言書(自筆証書遺言)の見本と書き方を確認し、遺言書のイメージを掴みます。
なお、自筆証書遺言の要件などについては、以下の記事をご参照ください。
自筆証書遺言の要件や見本(記載例)などを漏れなく解説!!
(1)標準的な自筆証書遺言の見本
標準的な自筆証書遺言の見本は次の通りです。
(2)標準的な自筆証書遺言の書き方
①全文の自書
全文とは遺言の実質的内容部分のいわゆる本文のことで、この本文は必ず自書する必要があります。
自筆の場合、筆跡によって本人が書いたものか否か判定ができる上に、さらに遺言が本人によって書かれたものと分かれば、その内容が真意であると推測できるからです。
②日付の自書
年月のみで日付の記入がない場合や、○年○月吉日などといった記入は無効となることから、注意が必要です。
③氏名の自書
氏名の自書は、遺言書の作成者を明確にして、誰の遺言なのかを明らかにするために必要となります。
④押印
押印は、遺言書の作成者を明確にして、誰の遺言なのかを明らかにするために必要となります。
押印に使う印鑑は実印だけでなく、認印、シャチハタ、拇印でも問題ありませんが、遺言書の有効性を巡るトラブルに備え、できる限り、実印を使うことをお勧めします。
⑤遺留分
法的に有効な遺言書であっても、遺留分(一定の相続人が最低限受け取ることができる遺産)を侵害している場合には、遺留分侵害請求をされてしまいます。
そのため、できれば遺留分を侵害しない内容で遺言書を書くことをお勧めします。
なお、一定の相続人の遺留分を侵害してでも、誰か特定の人に相続財産を渡したい場合には、遺留分対策等も必要となることから、遺言書を作成する前に税理士等の相続の専門家にご相談されることが望ましいです。
⑥財産は特定できるように記載
遺言書に記載する財産は、その内容を特定できるように具体的に記載します。
例えば、預金を相続させる場合には、次の事項すべてを遺言書に記載します。
✓名義人
✓金融機関名 ✓支店名 ✓口座の種類 ✓口座番号 |
また、不動産の場合には、「不動産登記事項証明書」を基に次の事項すべてを遺言書に記載します。
✓所在
✓地番または家屋番号 ✓地目または種類・構造 ✓地積または床面積 |
取り分を工夫した遺言書の文例とは?
ここからは、取り分等を工夫したい場合の遺言書文例6つを解説します。
(1)妻に全財産を残したいケース(子供に遺留分の主張はしないように書添する場合)
(2)妻に全財産を残したいケース(妻に自宅を残すため遺留分減殺の順序を指定する場合) (3)妻に財産を多くの財産を残したいケース(遺言者に子と親がいなく兄弟がいる場合) (4)未成年の子供に財産を残したいケース(遺言者に妻と未成年の子がいる場合) (5)甥や姪に財産を相続させたいケース(兄弟姉妹を飛ばして姪に遺贈する場合) (6)行方不明者に相続させたくないケース(行方不明の長男に相続させたくない場合) |
(1)妻に全財産を残したいケース(子供に遺留分の主張はしないように書添する場合)
相続人として、妻と子供がいる場合、妻には2分の1の法定相続分がありますが、子供たちが将来に妻の面倒をしっかりと見てくれるか心配な場合には、妻に全財産を相続させることも考えられます。
ただし、この場合にも子供たちには遺留分があることから、遺留分の主張をしないように書き添えることも検討が必要です。
そこで、「妻に全財産を相続させる」+「子供に遺留分の主張をしないように書き添える」場合の遺言書の記載例は次の通りです。
遺言書
遺言者法務太郎は、次のとおり遺言する。
1 所有するすべての財産を妻法務花子(昭和40年7月7日生)に相続させる。
2 本遺言の遺言執行者として次の者を指定する。 ・・・・
3 付言事項 妻花子は苦しい時代にも愚痴ひとつこぼさず、ひたすらに遺言者を支え続け、子どもたち2人を立派に育ててくれた。子ども2人にも相続分があることは理解しているが、妻にはゆとりを持って人生を暮らしてもらいたく、今回は妻花子に財産の全部を単独で相続させる。 長男一郎や次男次郎は遺留分の減殺請求をせずに、お母さんの幸せを温かく見守ってやってほしい。
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(2)妻に全財産を残したいケース(妻に自宅を残すため遺留分減殺の順序を指定する場合)
相続人に子や孫などの直系卑属がいない場合には、父母や祖父母などの直系相続が配偶者とともに相続人になります。
この場合の法定相続分は配偶者が3分の2、直系尊属は3分に1ですが、配偶者に財産の多くを相続させたい場合には、遺言で配偶者の相続分を増やすことができます。
ただし、直系尊属には遺留分があるため、遺留分減殺の請求をされた場合に備えて、遺留分減殺の順序を指定することでき、そうすることで、例えば、配偶者に多くの財産を相続させた上で、仮に遺留分減殺の請求があった時でも自宅マンション等の特定の財産を残すことができます。
そこで、「妻に全財産を相続させる」+「遺留分減殺の順序を指定する」場合の遺言書の記載例は次の通りです。
遺言書
遺言者法務太郎は、次のとおり遺言する。
1 次の所有するすべての財産を妻法務花子(昭和40年7月7日生)に相続させる。 (1)マンション (一棟の建物の表示) (専有部分の建物の表示) (敷地権の目的たる土地の表示) (敷地権の表示)
(2)〇〇銀行△△支店の遺言者名義の預金のすべて
(3)その他の遺言者に属する一切の財産の
2 遺言者の母法務良子(昭和15年5月5日)が遺留分減殺の請求を行う場合には、その順序を次のとおり指定する。 上記1の(2)、(3)、(1)の順
3 本遺言の遺言執行者として次の者を指定する。 ・・・・
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(3)妻に財産を多くの財産を残したいケース(遺言者に子と親がいなく兄弟がいる場合)
相続の開始時点で、遺言者に子供と親がいない場合、相続人は配偶者と遺言者の兄弟姉妹になります。
この場合の法定相続分は配偶者が4分の3、兄弟姉妹は合わせて4分に1ですが、兄弟姉妹には遺留分はないことから、遺留分を気にせずに配偶者に財産の多くを相続させることができます。
そこで、「妻の相続割合を法定相続割合より多い割合で指定する」場合の遺言書の記載例は次の通りです。
遺言書
遺言者法務太郎は、次のとおり遺言する。
1 次の不動産を妻法務花子(昭和40年7月7日生)に相続させる。 (1) 土地 所在 千代田区九段下一丁目 地番 〇〇番△△ 地目 宅 地 地積 50・55㎡ (2) 建物 所在 千代田区九段下一丁目 〇〇番地△△ 家屋番号 〇〇番△△ 種類 居 宅 構造 木造スレート葺2階建 床面積 1階 45・50㎡ 2階 40・40㎡
2 その他の遺言者に属する一切の財産の相続分を次のように指定する。 妻法務花子 5分の4 兄〇〇〇〇(昭和35年9月9日生) 15分の1 姉〇〇〇〇(昭和38年2月2日生) 15分の1 弟〇〇〇〇(昭和45年5月5日生) 15分の1
3 本遺言の遺言執行者として次の者を指定する。 ・・・・
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(4)未成年の子供に財産を残したいケース(遺言者に妻と未成年の子がいる場合)
相続人となる子供が未成年で遺言書がない場合には、配偶者と子供の間で遺産分割協議を行うこととなりますが、この場合、妻と子供の利害関係が衝突(妻の相続財産を増やすと子供の相続財産が減ってしまう)してしまいます。
そのため、配偶者と未成年の子供の間で遺産分割協議を行う場合には、子供のために「特別代理人」を選任しなければならず、家庭裁判所への申し立てや候補者探しなど、手続きに少なくない手間がかかってしまいます。
ただし、遺言書に配偶者と子供の遺産分割の方法を記載しておくことで、その記載の通りに遺産を分割すれば、両者の利害関係は衝突せず、特別代理人の選任も不要となります。
そこで、「未成年の子供に財産を相続させる」+「未成年者へのメッセージを書き添える」場合の遺言書の記載例は次の通りです。
遺言書
遺言者法務太郎は、次のとおり遺言する。
1 次の不動産を妻法務花子(昭和40年7月7日生)に相続させる。 (1) 土地 表 示 省 略 (2) 建物 表 示 省 略
2 次の遺言者名義の預貯金を長男法務一郎(昭和60年6月6日生)に相続させる。 〇〇銀行 △△支店 普通預金 口座番号1234567
3 その他、遺言書に属する一切の財産を妻法務花子に相続させる。
4 付言事項 一郎が私と花子の子として生まれてきてくれて、本当に嬉しく思っています。 お父さんがいなくても自分の信じる道を進んでください。また、お母さんのことを助けてあげてください。 一郎とお母さんが幸せな人生を送れるようにいつも祈っています。
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(5)甥や姪に財産を相続させたいケース(兄弟姉妹を飛ばして姪に遺贈する場合)
遺言者に子・孫などの直系卑属や、父母・祖父母などの直系尊属もいない場合には、兄弟姉妹が配偶者とともに相続人になります。
甥や姪は、兄弟姉妹が亡くなっている場合に代襲相続人となりますが、亡くなっていない場合には、原則として相続人となりません。
そのため、兄弟姉妹に相続させるのではなく、甥や姪に直接、財産を譲り渡したいといった事情がある場合には、遺贈によることで、甥や姪に財産を渡すことができます。
そこで、「姪に財産を相続させる」場合の遺言書の記載例は次の通りです。
遺言書
遺言者法務太郎は、次のとおり遺言する。
1 次の不動産を妻法務花子(昭和40年7月7日生)に相続させる。 (1) 土地 表 示 省 略 (2) 建物 表 示 省 略
2 〇〇銀行△△支店の遺言者名義の普通預金(口座番号1234567)のすべてをめい税務優子に遺贈する。 子どものいない遺言者夫婦にとって、死後の供養をしてくれる親族はめい優子のみであり、その母税務洋子すなわち遺言者の姉とも協議の上、この遺贈を行うこととしたものである。
3 本遺言の遺言執行者として次の者を指定する。 ・・・・
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(6)行方不明者に相続させたくないケース(行方不明の長男に相続させたくない場合)
遺言者の妻は既に亡くなっていて、相続人は長男と次男の2人であるものの、長男が行方不明であるといったケースもあり得ます。
この場合、遺言者の心情はもとより、遺産分割の協議が困難であることや、失踪宣告、不在者財産管理人の選任の手続きが面倒であることを踏まえ、行方不明者に財産を全く相続させない旨の遺言とすることも可能です。
ただし、行方不明者が子供や親である場合(兄弟姉妹以外の法定相続人)には、遺留分があることから、その行方不明者が遺留分減殺請求を行った場合には、遺留分を侵害した他の相続人は、相続した財産から遺留分相当額を渡さなければならない点には注意が必要です。
そこで、「行方不明者に相続させたくない」場合の遺言書の記載例は次の通りです。
遺言書
遺言者法務太郎は、次のとおり遺言する。
1 遺言者の長男法務一郎(昭和60年6月6日生)は、家業の飲食店を継ぐことを嫌い、遺言者の制止の言葉も聞かずに家を飛び出したまま、一度も実家に帰って来ず、現在は連絡もつかない。 他方、次男の法務二郎(昭和63年3月3日生)は、家業を継ぐとともに、先年他界した遺言者の妻法務花子(昭和40年7月7日生)が寝たきりの状態であった際でも、妻の面倒をよくみてきた。 よって、遺言者は、長男が再び現れたとしても、同人には一切の財産を相続させず、これを次男に相続させる。
2 本遺言の遺言執行者として次の者を指定する。 ・・・・
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その他の遺言書の記載例
その他の遺言書の記載例については、以下の記事の中にある次の文例もご参照ください。
「標準的な遺言書の見本」と「トラブルを避けるための遺言書の文例」を解説!
✓予備的遺言の文例
✓遺言執行者を指定する文例 ✓遺言書から相続財産が漏れないようにするための文例 ✓相続分を割合で指定する文例 |
また、遺言書保管制度や公正証書遺言については、以下の記事もご参照ください。
遺言書保管制度についてはこちら:
遺言書保管制度とは?メリット・デメリット、活用の流れ等を詳しく解説!
公正証書遺言についてはこちら:
公正証書遺言のメリット・デメリットとは?自筆証書遺言との比較表も徹底解説!
まとめ
以上今回は、特にご相談が多い「取り分を工夫した遺言書の文例」を分かりやすく解説しました。
遺言書の具体的な記載内容は、遺言者がおかれた状況や遺言者の想いによって、それぞれ異なります。
そのため、遺言書の記載にあたっては、今回の記事を参考にしつつ、相続の専門家にもご相談されることをお勧めします。
「江東区・中央区(日本橋)・千葉県(船橋)」を拠点とする保田会計グループでは、「遺言書の作成」についてサポートしており、また様々な相続対策・生前対策などの支援実績もあります。
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