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消費税の簡易課税を上手に活用して節税できる!

中小企業においては、消費税申告の計算方法として、一般課税(本則課税)だけでなく、簡易課税と呼ばれる、事務負担を減らすための制度を選択できる場合があります。

この簡易課税を上手く活用することで、節税効果も期待できます。

そこで今回は、簡易課税に関する「制度の概要」や「要件」、「みなし仕入率」、「メリット・デメリット」、「簡易課税と一般課税のどちらが得か?」などについて、詳しく解説します。

なお、当事務所の概要は以下のサイトをご参照ください。
当事務所について – 保田会計事務所|税務・コンサル・会計・その他経営に関わる全てを総合的にサポート

 

簡易課税制度とは?

簡易課税制度の概要や一般課税(本則課税)の計算方法、簡易課税の計算方法は以下の通りです。

(1)簡易課税制度の概要

消費税申告の計算方法には、一般課税(本則課税)と簡易課税の2つの方法があり、会社や個人事業主はどちらかの方法で納付税額を算出します。

簡易課税制度は、基準期間(会社は前々事業年度、個人事業者は前々年)の課税売上高が5,000万円以下の中小事業者の納税事務負担を軽減するために設けられた制度で、仕入税額控除の計算を簡素化できるようにしたものです。

この仕入税額控除とは、消費税の算出の際に、収入にかかる消費税(売上税額)から、支出にかかる消費税(仕入税額)を差し引くことです。

 

(2)一般課税(本則課税)の計算方法

まずは、一般課税(本則課税)の計算方法を確認します。

一般課税では、次のように、実際に収入にかかった消費税額から、実際に支出にかかった消費税額を差し引いて納付税額を求めます。

消費税の納付税額 = 収入の消費税額 - 支出の消費税額

 

(3)簡易課税の計算方法

一般課税に対して、簡易課税では、受け取った消費税額に一定の割合(みなし仕入率)を乗じて、次のように計算します。

消費税の納付税額 = 収入の消費税額 - ( 収入の消費税額 × みなし仕入率 )

これにより、消費税の計算時に必要な支払に関する詳細な情報や書類の整理が軽減され、納税者の事務負担軽減が期待できます。

また、簡易課税で計算した消費税の申告額は、一般課税(本則課税)で計算した消費税の申告額より少なくなる場合があり、消費税の節税ができる可能性があります。

出典:No.6505 簡易課税制度|国税庁 (nta.go.jp)

 

 

簡易課税制度の要件

簡易課税制度の適用を受けるためには、次の2つの要件を満たす必要があります。

基準期間(課税期間の前々年または前々期)の課税売上高(消費税が課税される取引の売上高)が5,000万円以下であること

簡易課税制度届出書を受ける会計期間の初日の前日までに税務署に提出していること
(事業の初年度については、初年度の会計期間中に届出を提出することで要件を満たすことができます)

 

また、消費税の取引は、以下のような課税取引、非課税取引、不課税取引の3つに分類されます。

①課税取引(消費税の課税対象の取引)

商品や製品の販売、事業用設備の売却、資産の貸付け、宿泊、飲食、情報の提供など

②非課税取引(課税しないとしている取引)

土地の譲渡および貸付け、有価証券等の譲渡、支払手段の譲渡、預貯金の利子および保険料を対価とする役務の提供など

③不課税取引(消費税の課税対象にならない取引)

給与・賃金、寄附金、保険金、株式の配当金など

課税売上高は「売上高や営業外収益、特別利益」から「非課税取引や不課税取引」を控除して算出できます。

なお、消費税の課税区分の判定については、以下の記事もご参照ください。
消費税の課税区分の判定(誤りやすい事例)

 

簡易課税のみなし仕入率

「みなし仕入率」とは、業種別の利益率をベースに国が定めた一定の割合を言います。
簡易課税の適用を受ける場合には、事業区分(業種)に合わせた「みなし仕入率」を用いることになります。

事業区分は6段階に分けられており、それぞれの事業区分ごとのみなし仕入率は以下の通りです。

事業区分 みなし
仕入率
該当事業
第1種事業 90% 卸売業(他の者から購入した商品をその性質、形状を変更しないで他の事業者に対して販売する事業)
第2種事業 80% ・小売業(他の者から購入した商品をその性質、形状を変更しないで販売する第1種事業以外のもの)
・農業、林業、漁業(飲食料品の譲渡に係る事業)
第3種事業 70% ・農業、林業、漁業(飲食料品の譲渡に係る事業を除く)
・鉱業、建設業、製造業(製造小売業を含む)
・電気業、ガス業、熱供給業および水道業※第1種事業、第2種事業に該当するものおよび加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を除く
第4種事業 60% 第1~3種・4種・5種事業以外の事業(例:飲食店業など)

※第3種事業から除かれる加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を行う事業も第4種事業に該当する

第5種事業 50% ・運輸通信業、金融業、保険業、サービス業

※飲食店業に該当する事業を除く
※第1種事業から第3種事業までの事業に該当する事業を除く

第6種事業 40% 不動産業

出典:No.6509 簡易課税制度の事業区分|国税庁 (nta.go.jp)

例えば、飲食店業を営む会社が簡易課税制度を適用している場合、みなし仕入率は60%となります。

この場合、事業者は収入にかかる消費税の金額を把握することができれば、支出にかかる消費税は「収入にかかる消費税×60%」で簡単に計算ができ、消費税の納税額を算出することができます。

 

<計算例>

課税売上3,000万円の飲食店業者の納付すべき消費税額

✓収入にかかる消費税:3,000万円 × 10% = 300万円
✓支出にかかる消費税:上記300万円 × みなし仕入率60% = 180万円
✓納付すべき消費税額:300万円 - 180万円 = 120万円

 

なお、簡易課税制度における事業区分の詳細は以下の記事をご参照ください。
簡易課税の事業区分を業種別に詳しく解説!!

 

簡易課税のメリット

簡易課税制度を利用すると、消費税計算の容易さをはじめとするいくつかのメリットがあります。ここでは、簡易課税制度を利用するメリットについて確認します。

(1)事務負担の軽減

簡易課税の適用を受ける最大のメリットは、消費税の計算時に支払消費税額の管理をする必要がなくなり、事務負担が大幅に軽減されることです。

一般課税(本則課税)では基本的に、すべての取引の支出にかかる消費税を管理しなければならず、場合によっては「課税売上のみにかかるもの」「非課税売上のみにかかるもの」「課税売上、非課税売上どちらにもかかるもの」の3区分で管理が必要になり手間がかかります。

一方、簡易課税であればそもそも支出にかかる消費税を管理する必要がありません。そのため、管理する上での手間やコストを省くことができます

 

(2)節税できるケースがある

一般課税(本則課税)では、消費税を算出する際に控除できる金額を「支出にかかる消費税」としている一方で、簡易課税では「収入にかかる消費税×みなし仕入率」で控除額を算出します。

実際の支出にかかる消費税よりも簡易課税の計算式で算出した控除額の方が大きければ節税につながります

なお、一般課税(本則課税)では支出にかかる消費税のうちすべてを控除できないケースもありますので、厳密に判定するのであればその要素も加味する必要があります。

 

 

簡易課税のデメリット

ここでは、逆に簡易課税制度を利用することのデメリットについて確認します。

(1)複数事業を営んでいる場合には事務的負担が増える可能性がある

複数事業を営む会社が簡易課税制度を適用する場合には、収入にかかる消費税を業種ごとに区分しない限り、その中で最も低いみなし仕入率を使って控除額を計算しなければならないという規定があります。

したがって、この不利益を回避する場合には、収入にかかる消費税を業種ごとに区分する必要がありますが、営む事業数が多い会社では、この区分管理が事務的負担となる可能性があります。

なお、複数事業を営む場合の簡易課税の計算については、以下の記事をご参照ください。
複数事業を営む場合の簡易課税の計算について具体例で解説!

 

(2)税負担が増えてしまうケースがある

支出や設備投資が多い期間であれば、支出にかかる消費税は増額しますが、簡易課税の場合、控除額は「収入にかかる消費税×みなし仕入率」で計算されるため、支出や設備投資の増加は控除額に反映されません。そのため、この点がデメリットになり得ます。

 

 

簡易課税と一般課税(本則課税)のどちらが得か?

簡易課税と一般課税(本則課税)のどちらを選択したら得になるかは、事業者の利益計画や設備計画で異なります。

例えば、支出が先行して収益が数年後に計上されるような業態や、大きな設備投資をする事業者にとっては、一般課税(本則課税)の方が有利になるケースがあります。

逆に簡易課税の方が有利になるケースは、課税仕入の割合が低い業種の場合などです。

以下において、事例を確認します。

<事例>

✓業種:飲食店業(みなし仕入率60%)
✓課税売上高3,000万円
✓課税仕入高1,400万円

一般課税(本則課税)の場合は、課税売上高3,000万円に10%を乗じた300万円から、課税仕入1,400万円に10%を乗じた140万円を差し引いた160万円を納付する必要があります。
一方で、簡易課税の場合は、課税売上高3,000万円に10%を乗じた300万円から、みなし仕入率60%分を差し引いた120万円を納付することとなります。

この事例では、160万円と120万円の差額である40万円が本則課税よりも簡易課税のほうが有利な結果となっています。

見方を変えると、課税売上高3,000万円にみなし仕入率60%を乗じた1800万円よりも、実際の支出(課税仕入)が少ない場合には、簡易課税の方が有利となり、逆に1800万円よりも、実際の支出(課税仕入)が多い場合には、一般課税(本則課税)の方が有利となります。

 

 

まとめ

以上今回は、簡易課税に関する「制度の概要」や「要件」、「みなし仕入率」、「メリット・デメリット」、「簡易課税と一般課税のどちらが得か?」などについて、詳しく解説させていただきました。

簡易課税制度では、受け取った消費税額に一定の割合(みなし仕入率)を乗じて、納付すべき消費税を手間なく算定できます。

簡易課税制度の適用を受けるためには、次の2つの要件を満たす必要があります。

・基準期間(課税期間の前々年または前々期)の課税売上高(消費税が課税される取引の売上高)が5,000万円以下であること
・簡易課税制度届出書を受ける会計期間の初日の前日までに税務署に提出していること
(事業の初年度については、初年度の会計期間中に届出を提出することで要件を満たすことができます)

簡易課税制度を利用すると、事務負担が軽減できるだけでなく、節税できるケースもあります。

簡易課税と一般課税(本則課税)のどちらが得かについての一般的な事例は上述の通りですが、顧問税理士などに相談して、シミュレーションをしてもらうことをお勧めします。

なお、税理士への相談にあたっては、実践的な節税対策が評判の「江東区・中央区(日本橋)・千葉県(船橋)」を拠点とする保田会計グループに是非ご相談ください。
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