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相続すべての手続を漏れなく解説(期限や提出先も)

相続手続きは、人生で何度も経験することではありません。
慣れていないことから、不安に感じる方も多いかと存じます。
そこで、今回は、「相続後の手続き」について、期限や提出先、スムーズに進めるためのポイントなどを解説します。

なお、相続・事業承継コンサルティングについては、以下のサイトをご参照ください。
当事務所について – 保田会計事務所|税務・コンサル・会計・その他経営に関わる全てを総合的にサポート

 

手続き一覧表

まず、相続人が行う手続きについて、下表の通り整理しましたので、ご確認ください。
手続きの詳細等は、以降の項目で解説します。

期限 手続き・届出など 提出先等
7日以内 (1)死亡診断書の取得 病院
(2)死亡届の提出 市区町村役場
(3)火葬許可証と死体埋葬許可証の取得 市区町村役場
10日以内 (4)年金受給権者死亡届(報告書)の提出
(未収支給年金請求書は5年以内)
年金事務所または
市区町村役場
14日以内 (5)介護保険被保険証の返却、介護保険の資格喪失届の提出 市区町村役場
(6)世帯主の変更届 市区町村役場
(7)住民票の抹消 市区町村役場
なるべく早く
(目安は2~3週間程度)
(8)国民健康保険証の返却、埋葬費等の申請 市区町村役場
(9)金融機関の口座凍結の連絡 金融機関
(10)公共料金等の名義変更、解約又は返却手続き 契約先など
(11)生命保険金の請求 保険会社
(12)遺族年金の手続き 年金事務所または
市区町村役場
なるべく早く
(目安は2~3カ月程度)
(13)遺言書の有無の調査・検認 公証役場と法務局
(14)相続人(戸籍)調査・確定 市区町村役場
(15)故人の財産調査 金融機関、市区町村役場、法務局、保険会社、証券会社など
(16)遺産分割協議を行う
(17)遺産分割協議書の作成
(18)協議不成立の場合、調停・審判 家庭裁判所
(19)預貯金、不動産の名義変更手続き 金融機関、法務局など
(20)高額医療費の請求 市区町村役場
3カ月以内 (21)相続放棄または限定承認の申立て 家庭裁判所
4ヵ月以内 (22)準確定申告 税務署
10ヵ月以内 (24)相続税の申告と納税 税務署
1年以内 (24)遺留分侵害額請求権の手続き 訴える場合は裁判所

 

相続から7日以内にすべき手続き

相続から7日以内にすべき手続きは次の通りです。

(1)死亡診断書の取得

死亡診断書は、死亡の判断を行った医師等が発行します。料金は発行する病院により異なりますが、3,000円~10,000円程度です。
また、事故死や突然死の場合には、死亡診断書ではなく「死体検案書」が発行されます。この場合の料金は、死因の特定に時間等を要するため、30,000円~100,000円と高くなります。

なお、死亡診断書や死体検案書の発行に要する費用は、相続税算定にいて債務控除の対象となりますので、領収書等の保管を忘れないよう注意が必要です。

 

(2)死亡届の提出

(1)の死亡診断書を確認し、死亡診断書と一体になっている「死亡届」に記入をして市区町村役場に届け出する必要があります。
「死亡届」には「届出人」の記入欄があり、親族や同居人などの限られた人のみ届出人として記入することができます。これを提出するのは代理人でもよく、一般的には葬儀会社が代行して提出します。
「死亡届」が受理されると、戸籍に除籍の記載や、住民票に死亡の記載がなされます

「死亡診断書」及び「死亡届」は、相続の手続きや生命保険金の請求など、この後の手続きに何度か使用することになります。
そのため、「死亡届」の原本を役所へ提出する前に数枚のコピーを取っておきます。

 

(3)火葬許可証と死体埋葬許可証の取得

火葬場で火葬するためには火葬許可証が必要となり、また、墓地等へ埋葬するためには埋葬許可証が必要となります。
通常は「死亡届」を市区町村役場へ提出した時に、窓口で「火葬許可証」が交付されることから、こちらも葬儀会社が代行することが一般的です。

その後、火葬が終了すると火葬許可証に火葬済証明印が押されたものが交付されます。これが「埋葬許可証」となり墓地や霊園の管理者に提出することになります。

 

相続から10日以内にすべき手続き

相続から10日以内にすべき手続きは次の通りです。

(4)年金受給権者死亡届(報告書)の提出(未収支給年金請求書は5年以内)

年金を受け取っていた方が亡くなった場合には、年金受給権者死亡届(報告書)の提出が必要となります。この書類を提出することで、故人への年金振込が停止されます。

「年金受給権者死亡届(報告書)」について、厚生年金の場合は死亡後10日以内に年金事務所、国民年金の場合は死亡後14日以内に市区町村役場、窓口へ持参または郵送により提出を行います。なお、日本年金機構に個人番号(マイナンバー)が届出されていれば、この年金受給権者死亡届(報告書)の提出は省略することができます。マイナンバー届出の状況については、お近くの年金事務所への問い合わせにより、確認することができます。

また、故人が受け取るはずであったもののまだ受け取っていない年金や、亡くなった日より後に振込された年金のうち、亡くなった月分までの年金については「未支給年金」としてその方と生計を同じくしていた遺族が受け取ることができます。
年金の支給は2ケ月に1回偶数月(2月、4月、6月、8月、10月、12月)に後払いで支給されることから、「未支給年金」は必ず発生します。例えば、4月に振り込まれる年金は、前2ケ月分(2月分と3月分)ということになります。

未支給年金の請求は5年以内に、厚生年金の方は年金事務所へ、国民年金の方は各市区町村役場役場の年金窓口へ「未収支給年金請求書」の提出が必要となります。

 

相続から14日以内にすべき手続き

相続から14日以内にすべき手続きは次の通りです。

(5)介護保険被保険証の返却と介護保険の資格喪失届の提出

故人が65歳以上の場合、または40歳以上65歳未満で要介護・要支援認定を受けていた場合は、14日以内に介護保険被保険証の返却が必要となります。
市区町村役場の介護保険担当窓口で、被保険証の返却をする際には、「介護保険資格喪失届」の提出も併せて行います。

65歳以上の方がお亡くなりになった場合、未納保険料があれば相続人に請求されます。
また、納めすぎの場合には相続人に対して還付されます。こちらは概ね2〜3ヶ月後に手続きのための書類が「介護保険資格喪失届」に記載した住所に到着します。

 

(6)世帯主の変更届

故人が世帯主であった場合で、かつ、残された同一世帯の家族(住民票にの一緒に記載されている人)が2名以上いる場合には、14日以内に市区町村役場へ「世帯主変更届」の提出が必要となります。ただし、次の世帯主となる人が明確な場合には世帯主変更の手続きは必要ありません。

例えば、残された同一世帯の家族が15歳未満の子どもとその母親の2名である場合には、「世帯主変更届」を提出せずとも、母親が当然に世帯主となります。

 

(7)住民票の抹消

14日以内に住民票から抹消する手続きを行う必要がありますが、死亡届の提出により自動的に住民票から抹消されることから、特に手続きは不要です。

故人が抹消された住民票は「住民票の除票」となり、不動産の登記や相続税申告の手続きに必要となります。

 

なるべく早く(相続から2・3週間以内が目安)

相続から2・3週間以内を目安として、なるべく早めにすべき手続きは次の通りです。

(8)各保険証の返却・葬祭費等の申請

死亡届の提出により、死亡日の翌日付けで国民健康保険や後期高齢者医療被保険(75歳以上)の資格は喪失します。
そのため、資格喪失に関しては、通常は提出するものはありませんが、速やかに「国民健康保険証」または「後期高齢者医療被保険者証」を市区町村役場に返却する必要があります。

なお、故人が国民健康保険加入者の世帯主であった場合には、世帯全員分の「国民健康保険証」の返却が必要となります。また、残された同一世帯の家族には、上述の「世帯主の変更届」により、新たな世帯主名義での保険証が交付されます。

保険証の返却と同時に、通常は、葬儀費用や埋葬費用の助成を受けるために「葬祭費の申請」を行います。この葬祭費の申請期限は2年以内ですが、保険証の返却と併せて行うことで、効率的に手続きを進めることができます。

 

(9)金融機関の口座凍結の連絡

故人の預貯金は相続財産となりますが、亡くなった後も口座が凍結されるまでは通帳やカードでの引き出しができることから、相続人による使い込みなどのトラブルが懸念されます。
金融機関の口座は、役所に死亡届を提出したとしても、金融機関に死亡の事実を連絡しない限りは基本的に凍結されません。

トラブル回避のためには、お亡くなりの後なるべく早めに口座の凍結をした方がいいですが、すぐに凍結してしまうと各種支払いの手続きが滞ってしまうため、タイミングを見計らって、金融機関に連絡することが一般的です。

預貯金の相続手続きについては、以下の記事もご参照ください。
預貯金の相続手続の流れと注意点等を詳しく解説!

 

また、遺産分割前でも預金を引き出すことができる仮払い制度が創設され、銀行への請求により「=口座の預貯金残高 ×1/3 × 法定相続分」までの金額を払い出しできるようになっています。また、より多くの仮払いを受けたい場合には、家庭裁判所での手続きもあります。

預貯金の仮払い制度に関しては、以下の記事もご参照ください。
預貯金の仮払い制度とは?銀行で150万円まで引出し可能?

 

ただし、故人に多額の借金があるなどの理由で「相続放棄」や「限定承認」を検討している場合には口座からの引き出しにより、単純承認」したことになることから注意が必要です。単純承認の詳細については、「(21)相続放棄または限定承認の申立て」の記載をご参照ください。

 

(10)公共料金等の名義変更や解約、返却

故人名義の銀行口座から、公共料金などを自動引落にしている場合には、故人の口座凍結により料金の引き落としができなくなります。
また、滞納が続くと水道光熱費や通信のサービスが受けられなくなります。
そのため、毎月の支払うものが多い場合は、なるべく早いうちに名義変更や解約をする必要があります。

具体的には、請求書や通帳の記録、クレジットカードの明細などを参考にしながら、契約先等と承継手続きや解約手続き、返却などを行います。
代表的な手続きは、下表の通りです(金融機関及び不動産の名義変更は後述します)。

契約等 手続き先 手続き内容 必要書類など
電気 契約している電力会社 契約者名、支払方法の変更または利用解約 契約者名の変更や解約の手続きは、電話やインターネットでできるものが多いです。

また、自動引落口座の変更は、変更先の金融機関での手続きも必要となります。

ガス 契約しているガス会社
水道 水道局のお客様センター
NHK
受信料
NHK受信料の窓口
携帯電話 契約している電話会社 承継または解約 それぞれの場合で下記の書類等が必要になります。

<承継の場合>

・戸籍謄本などの相続関係が分かるもの
・承継する方の本人確認書類
・利用料支払いの手続きに必要なもの

<解約の場合>

・死亡の確認ができるもの
・電話機本体
・手続きする方の本人確認書類

固定電話(NTT) NTT東日本
または
NTT西日本
加入権の承継
または
利用休止など
それぞれの場合で下記の書類等が必要になります

<承継の場合>

・承継改称届出書(ホームページから入手)
・死亡の事実と相続関係が確認できる書類
・承継者の本人確認書類

<解約の場合>

・死亡の事実が確認できる書類
・解約者の本人確認書類

運転免許証 最寄りの警察署
または
運転免許センター
返却 ・故人の運転免許証
・死亡を証明する書類
・届出人の身分証明書
・届出人と故人との関係を証明する書類
マイナンバーカード通知カード 住民票がある
市区町村の窓口
返却 死亡届と同時にマイナンバーは失効しますが、カードの返却が必要となります。
パスポート 都道府県の申請窓口 返却 ・故人のパスポート
・死亡を確認できる書類
クレジットカード 各クレジット会社 返却 インターネットや電話で手続きできる会社が多いです。

 

(11)生命保険金の請求

一般的に、生命保険金は故人が、残されるご家族が安心して暮らしていけるよう、将来の生活費や葬祭費に充てるためのお金を準備するために設定しているケースが多いです。
そのため、保険金の請求期限は3年ありますが、残されたご家族の生活のために、早めに保険会社へ連絡することが多いです。

また、故人が契約者で、かつ被保険者である生命保険金については、相続財産とみなされ、相続税の算定に影響を及ぼします
そのため、遅くとも、財産を調査するタイミングまでには生命保険金を請求することをお勧めします。

 

(12)遺族年金の手続き

遺族年金は、国民年金または厚生年金保険の被保険者(20歳以上60歳未満の人)、または既に年金を受給していた方が死亡した場合に、その方によって生活を支えられていた遺族が受け取ることのできる年金です。

加入している年金制度によって、遺族年金の申請手続きや受給できる要件が異なりますので、国民年金加入者の場合は市区町村役場の年金担当窓口へ、厚生年金加入者は加入していた年金事務所へ、相談をした上で手続きを行います。

遺族年金の時効は5年ですが、手続きがもれないように、なるべく早く手続きを済ませることをお勧めします。
なお、遺族年金の受給決定から受け取りまでには、通常4ヶ月程度かかります。

 

なるべく早く(相続から2・3カ月以内が目安)

相続から2・3カ月以内を目安として、なるべく早めにすべき手続きは次の通りです。
相続のためには、さまざまな調査や手続きが必要となります。

(13)遺言書の有無の確認と検認

遺言書の有無は、遺産分割や、相続手続きに大きな影響を及ぼすことから、遺言書が残されていないかどうか、なるべく早く調べる必要があります。
遺言書には公正証書遺言・秘密証書遺言・自筆証書遺言の3種類があります。
遺言書の種類によって、下表の通り、保管場所等が異なりますが、まずは、公証役場と法務局で遺言書の有無を確認します。

「被相続人の戸籍(除籍)謄本」や「相続人の戸籍謄本」、「請求書の住民票」などの書類を持参して、訪問することで遺言書の有無が確認できます。

種類 保管場所 検認の必要性
公正証書遺言

(公証人に筆記してもらう、
最も安全確実な遺言書)

公証役場 不要
秘密証書遺言

(遺言書の内容は秘密のまま
封をし、遺言書の存在だけ
を明確にしたもの)

公証役場

※遺言書の存在のみを確認。

遺言書があることが分かったら、通常の自筆証書遺言と同様に、自宅の部屋や貸金庫などを探します。

必要
保管制度を使った自筆証書遺言

(本人が自筆した遺言書)

法務局

(通知者指定がある場合には、法務局から遺言書保管の通知が来ます)

不要
通常の自筆証書遺言

(本人が自筆した遺言書)

 

どこに保管されているか分からないため、故人の部屋や貸金庫などを探します。また、友人や専門家など生前にお付き合いのあった方に預けてある可能性もありますので、思い当たる方への確認も行います。

遺品の中に紛れ込んでいることもありますので、遺品整理は慎重に行う必要があります。

必要

上記の表の通り、秘密証書遺言もしくは通常の自筆証書遺言(保管制度を使わない)が見つかった場合には、開封前に家庭裁判所での「検認」が必要となります。

この「検認」とは遺言書の存在を確認するための手続きです。

家庭裁判所が相続人などの立会いのもとで遺言書を開封して、その内容を確認するために行われ、書き換えなどの不正を防ぐことはできますが、遺言書の内容が実質的に有効かどうかを確認するための手続きではありません。

なお、自筆証書遺言や公正証書遺言の概要については、以下の記事をご参照ください。
公正証書遺言のメリット・デメリットとは?自筆証書遺言との比較表も徹底解説!

 

(14)相続人(戸籍)調査

相続手続きを始める前には、必ず法定相続人(※)を確定させます。

 法定相続人とは、民法で定められた相続人(遺産を承継する人)のことを言い、その範囲は配偶者と一定の血族と定められています。

法定相続人を確定させずに相続手続きを始めてから法定相続人が出てきた場合には、これまでの相続内容が無効となってしまいます。

法定相続人を確定させるためには、故人の出生から死亡までの戸籍を調査する必要があることから、死亡したことが書いてある現在の戸籍から、生まれた時の戸籍まで順にさかのぼっていき、全ての戸籍を揃えていきます。

故人の出生から死亡までの全ての戸籍を揃えたところで、次の優先順位により、法定相続人を確定します。

常に相続人:被相続人の配偶者(法律婚の場合のみ)
第1順位:被相続人の(子が死亡している場合は孫)
第2順位:被相続人の(親が死亡している場合は祖父母)
第3順位:被相続人の兄弟姉妹(兄弟姉妹が死亡している場合は甥姪)

相続は同じ順位の相続人全員で行う必要があり、上の順位の相続人が相続する場合は、下の順位の相続人は相続できません。
この、相続人(戸籍)調査により、相続人の知らなかった前妻との間の子、認知している子、養子縁組などの事実が判明することがあります。

 

(15)財産調査(種類ごとの調査方法)

故人が保有していた預金や不動産など、プラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も調査する必要があります。

後から財産が発覚した場合には、その時にあらためて遺産分割協議を行うことも可能ですが、相続税申告後の場合は、修正申告が必要になる可能性もあり、申告期限が迫ると余裕もなくなるため、最初に可能な限り全ての遺産を洗い出す必要があります。

<プラスの財産>

財産の種類 調査方法
現金・預金 自宅金庫、通帳、カード、銀行の残高証明書
不動産 登記簿謄本、固定資産納税通知書、権利書(登記識別情報通知、当期済証)
借地権、借家権 登記簿謄本、賃貸借契約書、不動産業者への問い合わせ
生命保険 保険証券、保険会社への問い合わせ
株式・その他有価証券 証券会社から送付される通知書、金庫、
証券会社への問い合わせ、(非上場会社の株式は、会社への問い合わせ)
ゴルフ会員権 金庫等
宝石、骨とう品 自宅、貸金庫、別荘など
自動車、バイク、船 車検証など

最近は、ネット銀行やネット証券会社の利用が増えていますので、故人が利用していたスマホやパソコンで利用の有無を確認し、利用していた形跡があれば、それぞれの金融機関などに問い合わせることも効果的な方法の一つになっています。。

<マイナスの財産(債務)>

債務の種類 調査方法
借金(ローン・消費者金融借入など) 賃借契約書、銀行や消費者金融からの郵便物、自動車の車検証、信用情報機関への情報の開示
未払金 病院や公共料金の請求書、税金などの督促状

マイナスの財産が出てきた場合、相続人単独で財産のすべてを承継しない「相続放棄」やプラスの財産と同じ金額分だけ借金を相続する「限定承認」の検討ができます。

ただし、相続放棄・限定承認ともに相続開始から3カ月以内に家庭裁判所への申出が必要です。

 

(16)遺産分割協議の開始

相続人が確定し、財産調査が終わると、相続人全員で遺産分割協議を開始します。
遺産分割協議とは、相続人で、誰が、どの財産を、どのように分けるか、決める話し合いです。

遺言書がある場合には、一般的には故人の遺志を尊重して、遺言通りに遺産を分割することになりますが、遺言書がない場合には、遺産分割協議により遺産の分割を決めます。

遺産分割の方法には、現物分割・代償分割・換価分割・共有分割の4つがありますが、詳細は以下の記事をご参照ください。
遺産分割とは?手続きの流れと揉めやすい4つのケースを解説

 

この遺産分割協議には法定相続人全員が参加しなくてはならず、どうしても参加が難しい場合には、後見人など代理人を立てて話し合いを行います。また、遺産分割協議は相続人全員で合意する必要があり、全員が合意していない場合は無効となることから、注意が必要です。

 

(17)遺産分割協議書の作成

遺産分割協議がまとまったら、その内容を基に「遺産分割協議書」を作成します。「相続人全員の合意の下で遺産分割が決まった」という証として相続人全員の自書と実印が必要になります。その際、相続人全員の印鑑証明書の原本を添付します。

また、相続人全員が、原本を1通ずつ保管しておくことが一般的ですが、相続人同士で後々トラブルになることはないと確信できる場合には、全員で原本1通のみの作成でも構いません。

なお、遺産分割協議の作成方法等については、以下の記事をご参照ください。
遺産分割協議書に対する契印・割印・捨印の押印方法(イメージ図付き)

 

(18)協議不成立の場合の調停・審判

上記の「遺産分割協議」で遺産の分割方法が決まらなかった場合には、家庭裁判所に「調停」を申し立てて解決に向けての話し合い(遺産分割調停)を行います。

遺産分割調停では第三者(裁判官と調停委員)が双方の事情を考慮し、解決案を提示することでお互いが納得いくように間を取り持ってくれます。
それでも決まらなかった場合は、遺産の権利などを考慮して審判が行われます。なお、申し立てを行う家庭裁判所は、相手方のうちの一人の住所地の家庭裁判所又は当事者が合意で定める家庭裁判所となります。

 

(19)預貯金や不動産の名義変更手続き

故人から受け継いだ相続財産は、その財産の持ち主が変わったという登録が必要です。
相続登記に期限はありませんが、相続登記をしないと、遺産分割協議で決まったはずのご自分の財産を守れない、相続した不動産を売買できない、遺産を相続した方が亡くなった時の相続(二次相続)が円滑に進まないなどの弊害が起きる可能性があります。

相続登記や名義変更の必要なものは下表の通りです。

財産の種類 手続き場所
不動産の相続登記 法務局
預貯金の名義変更 各金融機関
株式など金融商品の名義変更 証券会社や金融機関
自動車の名義変更 陸運局

相続財産の相続登記・名義変更には、遺言書や遺産分割協議書などの、遺産をどのように分割したのかが証明できる書類が必要となります。

 

(20)高額医療費の請求

故人が生前に入院や手術などによる高額の医療費を支払っていた場合には、健康保険等に加入していれば、一定の金額が払い戻しされる「高額医療費制度」を受けることができます。

一般的に、支給対象となった場合は、診療月からおよそ3ヶ月後に、各市区町村役場から世帯主宛に高額療養費支給申請書が到着します。
申請期限はお亡くなりになった日から2年間ありますが、相続税の対象となる財産に該当ため、なるべく早く忘れないうちに、医療費の支払いと併せて請求をしておきます。

 

相続から3カ月以内にすべき手続き

相続から3ヶ月以内にすべき手続きは次の通りです。

(21)相続放棄または限定承認の申立て

相続が発生した際に、相続人が財産を取得するかどうか3つの選択肢(単純承認・相続放棄・限定承認)があります

方法等 内容 コメント
単純承認 故人のすべての財産・債務を引き継ぐ 相続放棄・限定承認の申出をしなければ、自動的に単純承認となります。
また、預金口座から出金して自分のために使ったり、不動産を売却したりするなど、財産を処分した場合にも単純承認を行ったものとみなされます。
相続放棄 故人のすべての財産・債務を引き継がない 相続人が単独で判断して申出をすることができます。
限定承認 故人のプラスの財産の範囲内で故人の債務も引き継ぐ 相続人全員の合意のもと家庭裁判所への申出が必要です。
(相続放棄をした相続人の合意は要りません。)

なお、相続放棄と限定承認は3カ月以内に家庭裁判所への申し出が必要です。

例えば、故人に多額の借金があった場合、3カ月を超えてしまうと放棄ができなくなり、故人の代わりに多額の借金を支払うことになってしまいます。
金額や状況にもよりますが、故人に借金や未払金が見つかった場合には、相続放棄や限定承認の検討も必要となります。

また、財産の調査が終わらずに、3カ月を超えてしまいそうな場合には、家庭裁判所へ「相続放棄のための申述期間伸長の申立」を行う必要があります。

 

相続から4カ月以内にすべき手続き

相続から4カ月以内にすべき手続きは次の通りです。

(22)準確定申告

通常の確定申告は、1月1日から12月31日の所得に対して所得税の申告をするものですが、故人はその年の確定申告を自分ですることができません。
そのため、相続人が故人に代わり、1月1日からお亡くなりになった日までの確定申告をする必要があります。これを準確定申告といいます。

準確定申告の期限は、相続開始から4ヵ月以内です。

申告が必要なケースとは、個人事業を営んでいた場合、不動産を賃貸していた場合、不動産や株式を譲渡した場合、給与所得が2,000万円を超えていた場合などです。
また、医療費控除対象となる多額の医療費を支払っていた場合や、年の途中で退職し年末調整を受けていない場合には、準確定申告をすることで税金が還付される可能性があります。

 

相続から10カ月以内にすべき手続き

相続から10カ月以内にすべき手続きは次の通りです。

なお、相続から10カ月以内とは、具体的には10か月後の同日が期限となります。また、その日が休日の場合には、休日が明けた日となります。
例えば、相続が4月10日にあった場合の申告期限は、原則として2月10日になり、2月10日が土曜日の場合には、2月12日(月)となります。

(23)相続税の申告と納税

相続が開始してから10カ月以内に相続税の申告と納税を行わなくてはなりません。たとえ、遺産分割協議がまとまらない場合であっても、いったんは10カ月以内に申告と納税をする必要があります。

①相続税の申告が必要な人とは

次のようなケースに該当する人は、相続税の申告が必要です。

イ 相続税の基礎控除額を超えている人

相続税の計算には基礎控除額があり、次の計算式により求められます。

基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)

遺産の合計金額がこの基礎控除額を超える場合、相続税がかかる可能性があることから、申告が必要になります。

 

ロ 「配偶者控除(配偶者の税額軽減)」や「小規模宅地の特例」を使う人

配偶者の相続した財産が「1億6,000万円以下」または「配偶者の法定相続分の金額以下」の場合には相続税がかかりません。
また、一定の要件を満たした小規模の宅地は「小規模宅地の特例」を使用することにより土地の評価額が減額し、相続税額を減額させることができます。

ただし、これらの特例を使用した場合には、たとえ税額が0円であったとしても相続税の申告が必要ですので注意が必要です。

なお、配偶者控除を使う人は、以下の記事もご参照ください。
配偶者控除の適用で相続財産1億6,000万円までなら無税(要件やデメリットなども)

同様に、小規模宅地の特例を使うは、以下の記事もご参照ください。
小規模宅地の特例で相続税を大幅に減額!!

 

②相続税の申告と納税方法

相続税の申告が必要な場合、「相続税申告書」を作成し、添付書類とともに税務署へ提出します。
相続税の納税も、申告と同じく相続開始から10カ月以内に行う必要があります。なお、納税は、税務署だけでなく金融機関や郵便局の窓口からも行うことができます。

 

相続から1年以内にすべき手続き

相続から1年以内にすべき手続きは次の通りです。

(24)遺留分侵害額請求権の手続き

法定相続人のうち、配偶者・子・父母などの直系尊属(子がいない場合)には、遺留分を請求する権利があります。この遺留分とは、遺産の一定割合を相続人が受け取れる権利のことです。

例えば、故人に妻(配偶者)と子が1人いる場合、この妻と子が法定相続人となり2分の1ずつ財産を分けるという法定相続分があります。

仮に、遺言で「財産の全部を妻に相続させる」と書いてあった場合には、通常は遺言の通りに妻が全遺産を相続しますが、子がそれに納得しない場合には、遺産の一定割合(この場合は財産の4分の1)を子の遺留分として請求することができます。
これを、「遺留分侵害額請求権」といいます。

「遺留分侵害額請求権」には期間があり、相続の開始および遺留分の侵害を知った日から1年以内(疎遠などにより、相続の開始を知らなかった場合は、相続開始から10年以内)とされています。

 

まとめ

以上、今回は「相続後の手続き」について、期限や提出先、スムーズに進めるためのポイントなどを解説させていただきました。
上述の通り、相続後の手続きはたくさんあり、大切な方がお亡くなりになった大変な時期にこれらを漏れなく対応するのは厳しいものがあります。
そのため、相続の手続きについては、税理士などの専門家にご依頼されることをお勧めします。

「江東区・中央区(日本橋)・千葉県(船橋)」を拠点とする保田会計グループでは相続にも力を入れておりますので、相続に関してお悩み事等ございましたら、いつでもご相談ください。