創業・起業して、事業が拡大するとともに契約書を締結する場面も増えてきます。
その際に、従来行われてきた書面で契約する場合には、作成から印刷して、製本し、印紙の貼付、さらに押印、郵送と、相当の手間と多くの時間をとられた上に、印紙税というコストもかかってしまいます。
こうした手間とコストを削減できる方法として、すべてWeb上で完結する「電子契約」サービスを導入する会社が増えてきています。
そこで今回は、バックオフィスの効率化が求められる創業間もない会社にもお勧めの「電子契約」サービスについて、その概要とメリットなどを解説します。
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電子契約とは
電子契約とは、電子文書に電子署名することで成立する契約行為のことを言います。
従来は、合意内容を証拠として残すため、紙に印鑑で押印して取り交わされていた契約書ですが、電子契約でも書面による契約と同様の証拠力を認められています。
紙の契約書との違いは下表の通りです。
<紙の契約書との違い>
電子契約 | 書面契約 | ||
形式 | 電子データ(PDF) | 紙の書面 | |
効力 | 押印 | 電子署名と電子サイン | 印鑑と印影 |
本人性の担保 | 電子証明書 | 印鑑証明書 | |
改ざん防止 | タイムスタンプ | 契印と割印 | |
事務作業 | 送付 | インターネット通信 | 郵送・持参 |
保管 | サーバー | 書庫・倉庫 | |
印紙 | 不要 | 必要 |
なお、「電子署名」と「タイムスタンプ」は混同しやすいですが、「電子署名」は「誰が何を」という部分を証明するのに対し、「タイムスタンプ」は「何をいつ」という部分を証明するといったように、それぞれ役割が異なります。
電子契約のメリット
書面契約から電子契約に切り替えた場合、そのメリットとしては「印紙税の削減」「事務労力・コストの削減」「契約締結までのリードタイムの短縮」「保管・管理の効率化」「リモートワーク対応が容易」「契約更新の確認漏れ防止」が挙げられます。
以下においては、そのメリットの内容を具体的に説明していきます。
①印紙税の削減
紙の契約書は、印紙税法により、原則として収入印紙を貼ることが義務付けられています。
その税額(印紙税)は契約の種別や契約金の大きさによって異なりますが、1件につき200円から大きいものでは数十万円となります。また、1件の金額は高額でなくなくても、不動産・建設・運送業など多くの請負契約を結ばなければならない会社にとっては大きなコストとなります。
これが、電子契約に切り替えた場合、印紙税法に定める「課税文書」ではなくなることから、印紙税が不要になります。コスト削減の観点で会社にとっては大きなメリットとなります。
印紙税の節税について興味がある人は、以下の記事もご参照ください。
家賃の領収書に印紙は必要?(家賃帳を使った節税も)
②事務労力・コストの削減
書面契約の場合、1つの契約を締結するまで多くの事務作業が必要になります。
例えば、契約書作成から印刷して、製本し、印紙の貼付、さらに押印、郵送など。これには手間だけでなく、インク代・印刷代・郵送代などの事務コストも発生しています。
電子契約では、契約書のやりとりはインターネット上で行われることから、書面契約で必要となる印刷・製本などの事務作業は必要ありません。
事務作業の効率化を図ることができ、インク代・印刷代・郵送代などのコスト節約にも繋がり、会社にとっては大きなメリットとなります。
③契約締結までのリードタイムの短縮
書面契約の場合、合意して契約書を作成した後も契約書原本の送付が必要となり、さらにその原本に対して取引先に押印をしてもらい、返送してもらうなど相当な時間がかかります。
その間に決裁者や担当者が不在の場合には数週間かかることもあり、スピードが重視されるビジネスの世界においては、その遅れが事業へ悪影響を与える可能性も考えられます。
電子契約では、クラウド上でデータを確認し、合意できたら、その場で契約を締結することができることから、契約締結までのリードタイム短縮のメリットがあります。
④保管・管理の効率化
契約書は法律により、一定期間の保存が義務付けられています。
そのため、紙の契約書の場合には、原本をファイリングして、キャビネットなどに鍵をかけて保管しておくのが一般的です。
ただし、会社によっては「保管スペースに余裕がない」「ファイリングが面倒臭い」「どこに何があるか分からない」など上手く管理できない会社も少なくありません。
電子契約の場合は、契約書はデータでクラウド上にまとめて保管することができ、保管方法やスペースに悩む必要はありません。
また、情報漏洩や紛失のリスクを回避することもでき、検索機能を利用すれば必要に応じて目的の契約書を簡単に閲覧することまでできます。
⑤リモートワーク対応が容易
電子契約の場合は、紙と押印を必要としないため、場所と時間を選ばずに契約を締結させることができます。
そのため、リモートワークと電子契約は親和性が高く、リモートワークを進める会社にとっては、電子契約の導入は非常にメリットがあります。
⑥契約更新の確認漏れ防止
契約期間の終期には、「サービスの見直し」「契約更新や打ち切り」などを検討する必要があります。
ただし、膨大な量の契約を管理していると「契約期間の終期」や「契約期限」に気づかず、契約更新などを逃してしまうミスも十分に起こり得ます。
電子契約の場合は、契約期限の管理が容易で、例えば、更新期限が近づいたらアラート通知をするなど柔軟な設定が可能です。
そのため、契約更新の確認漏れなどによるミスを防止することができます。
電子契約の活用の注意点やデメリット
次に電子契約に切り替える上での注意点やデメリットについて説明していきます。
①すべての契約が電子契約に対応しているわけではない
多くの契約は電子契約とすることができますが、例えば、定期借地契約やマンション管理業務委託契約などは法令の定めにより紙の書面が必要とされています。そのため、契約の種別によっては、電子契約を締結することができないことに注意が必要です。
②電子契約への切り替えには取引先の協力が必要
契約には相手方が必ずいます。そのため、電子契約にいくらメリットがあるからと言っても、取引先の合意を得られなければ、電子契約による締結はできません。そのため、電子契約に切り替える場合には、電子契約のメリットや法的証拠力などを分かりやすく説明し、協力をあおぐことが必要になります。
仮に合意が得られなかった場合には、紙の契約書と併用して運用することになり、例えば、取引先は紙の原本を保管して、自社はPDF化して電子保管する運用が考えられます。
③取引先によってはサポートが必要
電子契約サービスの多くは、取引先がアカウントを持たなくても、リンク先のURLを送るだけで、クラウド上で契約締結ができる仕様となっています。ただし、取引先の担当者がインターネットやITに抵抗がある場合には、設定・操作に手間取る可能性があるため、サポートが必要になります。
電子契約を利用する必要のない場合
会社の状況によっては、今すぐに電子契約に切り替える必要のない場合もあります。具体的には、次のようなケースが考えられます。
①明らかに導入効果が見込めない場合
電子契約に切り替える上で大きなメリットとなるのが上述の「印紙代の削減」「事務労力・コストの削減」です。
そのため、月の契約締結数が少ない場合や、既存の契約フローが上手く運用できている場合には、導入を見送ることも十分に考えられます。
②書面契約との並行利用が負担になる場合
仮に電子契約を導入したとしても、一度にすべての契約が電子契約に切り替わるわけではありません。そのため、暫くは書面の契約書と併用して運用していく必要があります。その場合、以前に締結した書面契約書も含めて、どのようにして運用していくか業務フローを考えなければなりません。その結果、かえって管理部門の事務負担が増加すると判断した場合には、導入を見送ることも十分に考えられます。
なお、電子帳簿保存法の令和3年度税制改正により、電子契約については、原則として、その取引情報をデータのまま保存することが必要です。ただし、この保存義務化は令和5年末まで猶予されています。詳細は以下の記事をご参照ください。
電子取引のデータ保存義務化が令和5年末まで2年間猶予されました!
電子契約サービスを選ぶポイント
電子契約サービスを選ぶために、主に次の3つがポイントになります。
①導入コスト
電子契約を導入するためには、イニシャルコスト(初期費用)とランニングコスト(維持費用)がかかります。
初期費用は無料としているサービスが多いですが、使用できるアカウント数が少ないと、アカウントを追加する際に料金が発生するため注意が必要です。
ランニングコストの多くは、月額料金に加え、契約書送信ごとに利用料が課金される料金体制となっています。
自社で想定する、アカウント数と月の契約締結数に適合するサービスを選ぶことがポイントになります。
②電子認証局との連携
電子契約は電子証明書によって法的効力が発生することから、それを発行する電子認証局と連携しているサービスを選ぶことがポイントになります。
③自社だけの導入で契約締結ができる
取引先もサービスを導入していないと契約が締結できないものであれば、電子契約の切り替えは頓挫する可能性が高いことから、自社だけの導入で契約締結ができるサービスを選ぶことがポイントになります。
④業務効率化のための機能
契約締結をスムーズに行うためのアシスト機能はサービスによって異なります。簡単に契約書を発行できる「テンプレート機能」、「契約書一括作成機能」、凛議から契約締結までの承認フローを補助する「ワークフロー機能」などがあると、業務をより効率化できます。
⑤データの管理
契約後の管理業務を効率化したい場合は、キーワードで契約書が検索できる「検索機能」、部署ごとに文書を管理・運用できる「フォルダ機能」「グループ共有機能」、契約の更新・解約漏れを防ぐ「アラート機能」、外部のワークフローや帳票システムなどと連携可能な「API連携」機能などがあると便利です。
⑥サポート体制
使い方が分からない時でも、すぐにサポートを受けられる体制がしっかりしているサービスを選ぶことがポイントになります。
まとめ
以上、今回は「電子契約」サービスについて、その概要とメリットなどを解説させていただきました。
クラウド上で契約が締結できる電子契約の導入により、「印紙税の削減」や「事務労力・コストの削減」などのメリットがあります。
一方で、会社の状況によっては導入を見送った方がいい場合もあります。
ただし、導入を見送る場合でも、デジタル化がもっと進めば、電子契約の導入に迫られると考えられるため、その時に備えて「契約締結数が月に何件を超えたら」電子契約に切り替えると設定しておくなど、ある程度の導入ラインを考えておくことをお勧めします。
電子契約についてはもちろん、起業、創業や会社設立などに関して、少しでもお悩みがある場合には、起業・創業に強い「江東区・中央区(日本橋)・千葉県(船橋)」を拠点とする保田会計グループに以下のサイトからお問い合わせください。
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