令和5年度の税制改正で、中小企業経営強化税制の適用期限が令和7年3月31日まで延長されています。
この中小企業経営強化税制は「経営力向上計画」の活用による支援措置の一部ですが、今回はそもそもの「経営力向上計画」について、「概要」や「支援措置」、「手続きの流れ」、「経営力向上計画の書き方(サンプル)」を解説します。
Table of Contents
経営力向上計画とは
まずは、経営力向上計画に関して、「制度の概要」と「申請できる対象者」について確認します。
(1)経営力向上計画の概要
「経営力向上計画」は、中小企業等経営強化法に基づき、人材の育成や、コスト管理等のマネジメントの向上、設備投資など、自社の経営力を高めるために実施する計画のことを言います。
この経営力向上計画を事前に認定された事業者は、次の3つの優遇措置や支援を受けることができます。
「税制措置」
「金融支援」 「法的支援」 |
また、計画の立案や申請にあたっては、経営革新等支援機関のサポートを受けることができ、専門家の支援を受けることで、より現実的かつ効果的な計画を作成することが可能となります。
(2)申請できる対象者
経営力向上計画の認定を受けることができる申請対象者は、次の通りです。
<従業員数が2,000人以下の次の事業者>
✓会社または個人事業主
✓医業、歯科医業を主たる事業とする法人(医療法人等) ✓社会福祉法人 ✓特定非営利活動法人 など |
また、この他にも、企業組合、協業組合、事業協同組合、事業協同小組合、商工組合、協同組合連合会、その他政令で定める組合も対象となります。
なお、受ける支援措置によって、対象となる規模要件は異なることから、支援措置の検討にあたっては、中小企業庁のサイトにある次の手引きをご確認ください。
中小企業等経営強化法に基づく支援措置活用の手引き
経営力向上計画の税制措置
ここでは、経営力向上計画の認定を受けた事業者が受けられる3つの優遇措置や支援(税制措置や金融支援、法的支援)のうち、税制措置について確認します。
(1)3つの税制措置
経営力向上計画を事前に認定された事業者は、認定計画に基づき取得した一定の設備や不動産について、法人税や不動産取得税等の3つの税制措置を受けることができます。
✓認定計画に基づき取得した一定の設備に係る法人税等の特例(中小企業経営強化税制)
✓認定計画に基づき行った事業承継等に係る登録免許税・不動産取得税の特例 ✓認定計画に基づき行った事業承継等に係る準備金の積立・損金算入の措置 |
(2)認定計画に基づき取得した一定の設備に係る法人税等の特例(中小企業経営強化税制)
認定計画に基づき取得した一定の設備に係る法人税等の特例とは、「中小企業経営強化税制」のことを言います。
この「中小企業経営強化税制」とは、青色申告書を提出する中小企業者が令和7年3月31日までに、経営力向上計画に基づき、一定の設備を新規取得等して、指定事業の用に供した場合に、即時償却または取得価額の10%(資本金 3000万円超1億円以下の法人は7%)の税額控除を選択適用することができる税制優遇の制度を言います。
一定の設備とは、以下の条件を満たす設備を言います。
類型 | 要件 | 対象設備 |
(A類型) 生産性向上設備 |
生産性が旧モデル比平均1%以上向上する設備 | 機械装置:160万円以上
工具:30万円以上 器具備品:30万円以上 建物附属設備:60万円以上 ソフトウェア:70万円以上 |
(B類型) 収益力強化設備 |
投資収益率が年平均5%以上の投資計画に係る設備 | |
(C類型) デジタル化設備 |
可視化・遠隔操作・自動制御化のいずれかに該当する設備 | |
(D類型) 経営資源集約化設備 |
修正ROAまたは有形固定資産回転率が一定割合以上の投資計画に係る設備 |
その他、「中小企業経営強化税制」の概要や手続きなどの詳細については、以下の記事をご参照ください。
中小企業経営強化税制の「概要」や「即時償却と税額控除の比較」についてはこちら:
「中小企業経営強化税制の概要」と「即時償却と税額控除の比較」を詳しく解説!
中小企業経営強化税制の「手続き」と「申請スケジュール」についてはこちら:
中小企業経営強化税制の「手続き」と「申請スケジュール」を解説!
(3)認定計画に基づき行った事業承継等に係る登録免許税・不動産取得税の特例
この「事業承継等に係る登録免許税・不動産取得税の特例」とは、中小企業者が令和6年3月31日までに、経営力向上計画に基づき、合併・会社分割・事業譲渡を通じて他の事業者から不動産を含む事業用資産等を取得する場合に、不動産の権利移転で生じる登録免許税及び不動産取得税の軽減を受けることができる税制優遇の制度を言います。
「事業承継等に係る登録免許税・不動産取得税の特例」の要件や手続きなどの詳細については、以下の記事をご参照ください。
経営力向上計画を活用した登録免許税・不動産取得税の特例とは??
(4)認定計画に基づき行った事業承継等に係る準備金の積立・損金算入の措置
この「事業承継等に係る準備金の積立・損金算入の措置」とは、中小企業者が令和6年3月31日までに、経営力向上計画に基づき、株式等を取得し、かつ、これを事業年度末まで引き続き有している場合に、株式等の取得価額として計上する金額の一定割合の金額を準備金として積み立てたときは、その積み立てた金額はその事業年度において損金算入できる税制優遇の制度を言います。
この積み立てた準備金は、帳簿価額の減損等の取崩要件に該当する行為を行った場合には、その時点で準備金を取り崩して益金に算入し、また、5年経過後には、その後の5年間にかけて均等額で準備金を取り崩して益金に算入します。
なお、「事業承継等に係る準備金の積立・損金算入の措置」の要件や手続きなどの詳細については、以下の記事をご参照ください。
経営力向上計画を活用した中小企業事業再編投資損失準備金とは?(中小企業のM&Aを促進)
経営力向上計画の金融支援
ここでは、経営力向上計画の認定を受けた事業者が受けられる3つの優遇措置や支援(税制措置や金融支援、法的支援)のうち、金融支援について確認します。
経営力向上計画を事前に認定された事業者は、「政策金融機関の低利融資」や「民間金融機関の融資に対する信用保証」、「債務保証等の資金調達」などの金融支援を受けることができます。
受けることができる金融支援とは、具体的には以下のような支援になります。
(1)日本政策金融公庫による融資
政策金融機関の低利融資として、日本政策金融公庫から下表の融資を受けることができます。
中小企業事業 | 国民生活事業 | |
貸付金利 | 基準利率 (設備資金は2億7,000万円まで特別利率) |
基準利率 (設備資金は特別金利) |
貸付限度額 | 7億2,000万円 (運転資金2億5,000万円) |
7,2000万円 (運転資金4,800万円) |
貸付期間 | 設備資金:20年以内 長期運転資金:7年以内 (据置期間2年以内) |
設備資金:20年以内 長期運転資金:7年以内 (据置期間2年以内) |
(2)中小企業信用保険法の特例
民間金融機関の融資に対する信用保証として、信用保証協会による下表の「別枠での追加保証」や「保証枠の拡大」を受けることができます。
通常枠 | 別枠での追加保証 | |
普通保険 | 2億円(組合4億円) | 2億円(組合4億円) |
無担保保険 | 8,000万円 | 8,000万円 |
特別小口保険 | 2,000万円 | 2,000万円 |
新事業開拓保険 | 保証枠の拡大:2億円→3億円 | |
海外投資関係保険 | 保証枠の拡大:2億円→3億円 |
(3)中小企業投資育成株式会社法の特例
3億円以下の株式会社が対象となる中小企業投資育成株式会社からの出資について、資本金額が3億円を超える一定の株式会社であっても受けることができます。
(4)日本政策金融公庫によるスタンドバイ・クレジット
経営力向上計画の認定を受けた事業者の海外支店又は海外子会社が、日本公庫の提携する海外金融機関から現地通貨建ての融資を受ける場合に、日本公庫が信用状を発行してもらうことができます。
(5)日本政策金融公庫によるクロスボーダーローン
経営力向上計画の認定を受けた事業者の海外子会社は、経営力向上計画等の実施に必要な設備資金および運転資金の直接融資を受けることができます。
(6)中小企業基盤整備機構による債務保証
中小企業基盤整備機構から、最大で25億円(保証割合50%、最大50億円の借入に対応)の債務の保証を受けることができます。
(7)食品等流通合理化促進機構による債務保証
食品製造業者等は、経営力向上計画の実行にあたり、信用保証を使えない場合や巨額の資金調達が必要となる場合に、食品等流通合理化促進機構から債務の保証を受けることができます。
経営力向上計画の法的支援
ここでは、経営力向上計画の認定を受けた事業者が受けられる3つの優遇措置や支援(税制措置や金融支援、法的支援)のうち、法的支援について確認します。
事業承継等(合併や会社分割、事業譲渡、事業協同組合等の設立)を行うことを記載した経営力向上計画を事前に認定された事業者は、「業法上の許認可の承継の特例」や「組合の発起人数に関する特例」、「事業譲渡の際の免責的債務引受に関する特例」などの法的支援を受けることができます。
具体的には以下のような支援になります。
(1)業法上の許認可の承継の特例
事業承継等(合併や会社分割、事業譲渡、事業協同組合等の設立)を行うことを記載内容に含む経営力向上計画の認定を受けた上で、その内容に基づき、以下のいずれかの許認可事業を承継する場合には、承継される側の事業者から、当該許認可に係る地位をそのまま引き継ぐことができます。
旅館業、建設業、火薬類製造業・火薬類販売業、一般旅客自動車運送事業、一般貨物自動車運送事業、一般ガス導管事業 |
なお、上記事業は限定列挙のため、例えば、酒類販売業や酒類製造業については、事業を承継する場合であっても、許認可の地位の引継ぎはありません。
酒類販売業や酒類製造業の許認可について、ご興味等がある場合には、弊社グループの東京酒販免許取得サポートセンターのサイトからお問合せください。
東京の東京酒販免許取得サポートセンターは酒類販売業免許のエキスパート | 熟練の技術 (yasuda-gyosei.com)
(2)組合の発起人数に関する特例
組合の組成を記載内容に含む経営力向上計画の認定を受けた上で、その内容に基づき、事業協同組合、企業組合又は協業組合を設立する場合には、 通常、最低4人が必要とされている発起人の人数を3人まで引き下げることができます。
(3)事業譲渡の際の免責的債務引受に関する特例
通常、企業が事業譲渡により債務を移転するには、債権者から個別に同意を得る必要があり、この同意がない場合には、事業譲渡をした企業は債務を免れないこととなります。
そこで、事業譲渡を行って他者から取得する経営資源を活用する取組みについて、計画認定を受けた場合には、企業が債権者に対して通知(催告)し、1ヵ月以内に返事がなければ債権者の同意があったものとみなすことができ、簡略な手続きにより債務を移転することができます。
経営力向上計画の手続きの流れ
経営力向上計画の承認を受けるための流れは次の通りです。
(1)どの支援措置を受けるか検討する
(2)経営力向上計画を作成する (3)経営力向上計画を申請する (4)経営力向上計画の開始や取り組みの実行 |
詳細については、以下で確認します。
(1)どの支援措置を受けるか検討する
上述の通り、経営力向上計画を活用した支援には「税制措置」や「金融支援」、「法的支援」の3種類があります。
さらに、「税制措置」や「金融支援」、「法的支援」の中にも様々な支援措置があるため、具体的にどの支援措置を受けるか検討する必要があります。
各種の支援ごとに要件等が異なるため、事前に確認・準備することも異なりますが、支援措置ごとの主な事前確認・事前準備事項については以下の通りです。
<税制措置を受けたい場合>
✓適用対象者の要件や手続き等を確認
✓中小企業経営強化税制を受けるためには、工業会証明書や経産局確認書等が必要 ✓事業承継等に係る登録免許税・不動産取得税の特例を受けるためには、軽減の対象となる事業承継等の条件や手続きを確認 ✓事業承継等に係る準備金の積立・損金算入の措置を受けるためには、制度の対象となる事業承継等の条件や手続きを確認 |
<法的支援を受けたい場合>
✓適用対象者の要件や手続き等を確認
✓承継が認められる許認可の種類、その他の特例や必要な手続きを確認 ✓許認可承継の特例を受けるためには、事前に所管行政庁に相談 |
<金融支援を受けたい場合>
✓適用対象者の要件や手続きを確認
✓金融支援を受けるためには、事前に関係機関に相談 |
(2)経営力向上計画を作成する
中小企業庁サイトの「申請書様式類」より「経営力向上計画に係る認定申請書」をダウンロードし、作成します。
通常は様式第1を使用し、「事業譲渡に伴う不動産取得税の軽減措置」を希望する場合には、様式第2を使用します。
(3)経営力向上計画を申請する
経営力向上計画は、「経営力向上計画申請プラットフォーム」より申請します。
経営力向上計画の登録に際しては、事前に直近の決算書に加え、税制措置・金融措置・法的支援によって、それぞれ申請に必要な書類があることから、「経営力向上計画 申請書作成の手引き」を確認する必要があります。
業種により計画の提出先が異なるため、注意が必要です。
なお、経営力向上計画を申請するためには、「gBizID」のアカウントを取得する必要があります。
「gBizID」とは、1つのID、パスワードでさまざまな行政サービスを利用できるIDのことですが、gBizIDのアカウントを取得するまで2週間ほどかかることから、スケジュールには注意が必要です。
(4)経営力向上計画の開始や取り組みの実行
経営力向上計画の申請が完了し、無事に認定されると、税制措置、法的支援、金融支援を受けることができます。
この認定を受けて、ようやく各種の支援を受けながら経営力向上のための取り組みを実行することとなります。
経営力向上計画の書き方(サンプル)
経営力向上計画の申請書や別紙の書き方等について、製造業の場合のサンプルを確認します。
(1)経営力向上計画の申請書の書き方(サンプル)
(2)経営力向上計画の申請書(別紙)の書き方(サンプル)
(3)経営向上計画チェックシート
提出書類に記載漏れがないかなどをチェックするための様式です。
経営力向上計画申請プラットフォームにて電子申請する際には添付不要ですが、経営力向上計画申請プラットフォームを利用して申請書を作成し、打ち出したものを郵送で申請する場合に添付が必要となります。
まとめ
以上今回は、「経営力向上計画」について、「概要」や「支援措置」、「手続きの流れ」、「経営力向上計画の書き方(サンプル)」を解説しました。
経営力向上計画を申請して認定されると、「税制措置」や「金融支援」、「法的支援」を受けることができます。
経営力向上計画を活用した支援は、上述の通り、事業者にとって非常にメリットがありますが、各支援によって要件や手続きが異なることから、事業者自ら対応することはハードルが高いです。
そこで、経営力向上計画の申請については、経営革新等支援機関等の専門家のサポートを受けることをお勧めします。
「江東区・中央区(日本橋)・千葉県(船橋)」を拠点とする保田会計グループでは、経営革新等支援機関として、経営力向上計画の申請支援を行っております。
ご興味等ございましたら、お気軽にお問合せください。