代物弁済を行った場合の税金について、しばしば質問を受けます。
そこで、今回は代物弁済に対する税金について、その「概要」や、「負担する税金」、「譲渡所得税が非課税になるための要件」などを解説します。
なお、実践的な節税対策については、以下のサイトをご参照ください。
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代物弁済の概要
代物弁済(だいぶつべんさい)とは、当事者の合意によって、債務者が負担している給付に代えて、他の給付をすることによりその債務を消滅させることを言います。
具体的に言うと、Aさんから100万円を借りているBさんが、金銭返済の代わりに100万円の土地でAさんに返済することにより、借金を消滅させることです。
代物弁済には、動産や不動産、債権等が使用されます。
代物弁済と税金の関係
通常の借金のやりとりでは、お金を借りたり返済したりしても、その時点では誰も儲けていないため所得を認識しません。借金に対する利息を受け取った場合に初めて、債権者側で利息の分だけ所得を認識し、税金がかかります。
それに対して、代物弁済では「債務者の資産を債務と同じ価格で債権者に譲渡した取引」と考えます。そこで、債務者側で資産を譲渡したことに対する所得を認識し、税金がかかります。
また、代物弁済に充てた資産の価格が債務より安い場合には債務者に、さらに、代物弁済に充てた資産の価債が債務より高い場合には、債権者に新たな税金がかかる可能性もあります。
以下において、債務者側と債権者側それぞれで、かかる可能性のある税金を確認します。
代物弁済で債務者側が負担する税金
ここでは、代物弁済をした債務者が負担する税金について確認します。
(1)消費税
代物弁済によって債務者の債権者に対する債務は全額が免除されますが、消費税においては、資産を譲渡する債務者を売主、資産を譲受する債権者を買主、免除される債務を資産の売却価格として考えるため、課税取引として消費税が発生します。
なお、土地による代物弁済を行った場合には、非課税取引に該当するため、消費税は発生しません。
消費税の課税区分(課税取引や非課税取引など)の判定については、以下の記事をご参照ください。
消費税の課税区分の判定(誤りやすい事例)
(2)譲渡所得税
代物弁済によって債務者に譲渡所得税が発生します。代物弁済に充てた資産が不動産の場合と動産の場合とで、譲渡所得税の取り扱いが異なるため、それぞれを以下で確認します。
①不動産の場合
不動産にかかる譲渡所得税は分離課税として、次の計算式で算定します。
不動産譲渡所得税 = 譲渡所得 × 税率 (所得税率+住民税率) |
税率には所得税と住民税の二つが含まれていますが、売却した年の1月1日から数えて不動産の所有期間が5年を超える場合(長期譲渡所得)と5年以下の場合(短期譲渡所得)によって、下表の通り、税率が変わります。
所得の種類 | 所得税 | 住民税 |
長期譲渡所得 | 15.315 % | 5 % |
短期譲渡所得 | 30.63 % | 9 % |
また、不動産にかかる譲渡所得は一般的に次の計算式で算定します。
譲渡所得 = 収入金額(譲渡価格) - 取得費(購入代金・修理費用) - 譲渡費用 |
なお、不動産を利用した節税方法については、以下の海外中古不動産に関する記事をご参照ください。
海外中古不動産を活用した節税(税務調査事例)
②不動産以外の資産の場合
代物弁済の対象の資産が不動産以外の場合、譲渡所得税は総合課税が適用されます。
始めに、売却した年の1月1日から数えて不動産の所有期間が5年を超えるもの(長期譲渡所得)と、5年以下のもの(短期譲渡所得)とに分類します。
その上で、長期総合譲渡所得と短期総合譲渡所得を次の計算式で算定します。
総合譲渡所得 =収入金額(譲渡価格) - 取得費 - 譲渡費用 - 50万円 (※) |
※ その年の長期の譲渡益と短期の譲渡益の合計額に対して50万円までです。その年に短期と長期の譲渡益があるときは、先に短期の譲渡益から特別控除の50万円を差し引きます。
税額に計算については、総合課税の譲渡所得の金額は、他の総合課税の所得(事業所得や給与所得など)と合算して総所得金額を求め所得税を計算します。
この場合において、短期総合譲渡所得の金額は全額、長期総合譲渡所得の金額は2分の1が課税対象となります。
(3)債務免除益における所得税
不動産など時価評価額が設定される資産を用いて代物弁済を行う場合には、債務額と資産の評価額に差額分が生じるケースがあります。
ここで、資産の評価額に対し債務額が高額である場合には、債務者はその差額分の弁済を免除されたことになります。
この免除された金額について、債務免除益として所得税(一時所得 or 事業所得 or 不動産所得)が発生します。
代物弁済で債権者側が支払う税金
ここでは、代物弁済をした債権者が負担する税金について確認します。
(1)贈与税
債権額と資産の評価額に差額が出た場合の代物弁済については上述の通りですが、その逆で、債権額より資産の評価額の方が上回る場合には、債権者がその差額分を贈与されたものとして、贈与税が発生します。
贈与税は次の計算式で算定します。
贈与税 = ( 資産の評価額が債権額を上回った部分 - 基礎控除額110万円 ) × 贈与税率 - 控除額 |
なお、債務者が債権者から、清算金(債権額と資産の評価額の差額)を受け取った場合には、債権者に贈与税はかかりません。
(2)不動産取得税及び登録免許税
代物弁済において、債権の弁済の対象に、不動産が譲渡されることが多いですが、その場合、債権者は不動産を取得したことに対して、不動産取得税及び登録免許税が発生します。
不動産取得税は次の計算式で算定します。
不動産取得税 = 固定資産税評価額 × 税率(4%) |
なお、令和6年3月31日までに取得した土地や住宅に関する不動産取得税の税率は3%となっています。
不動産の登録免許税は次の計算式で算定します。
登録免許税 = 固定資産税評価額 × 税率(2%) |
なお、令和5年3月31日までに取得した土地に関する登録免許税の税率は1.5%となっています。
代物弁済において譲渡所得税が非課税になるための要件
代物弁済において債務者に発生する譲渡所得税については、一定の場合に非課税となることがあります。ここでは、非課税となる2つのケースを確認します。
(1)強制換価手続きにより譲渡される場合
譲渡所得税が非課税になるためには、債務者の資産状況が無資力であることが前提です。その上で強制執行、または破産手続きなど、債務者の意思とは別に強制的に資産の譲渡が行われる場合には、譲渡所得税は非課税となります。
(2)任意の譲渡で非課税とされる場合
債務者の意思で資産の譲渡が行われた場合であっても、次の3つの要件を満たした場合には、譲渡所得税は非課税となります。
①譲渡前に債務超過
資産の譲渡が行われる前において、既に債務者自身が債務超過であることが必要です。
②清算金も他の債務弁済に充当
資産の評価額が債務額を上回る場合、債務者は債権者から清算金を受け取ることが可能ですが、受け取った清算金の全額が他の債務の弁済に充てられることが必要です。
③強制換価が避けられない状況
債権者から競売の申立をされている、訴訟や支払督促を受けているなど、今後、強制換価が避けられない状況であることが必要です。
まとめ
今回は代物弁済に対する税金について、その「概要」や、「負担する税金」、「譲渡所得税が非課税になるための要件」などを解説させていただきました。
債権者、債務者の両者にとって、よかれとした代物弁済により、想定していない税金が発生することがあります。
そのため、代物弁済の実施を検討されている皆様は、今回の記事をご参考にしていただき、無駄な税金を払うことにならないようご注意ください。
なお、「江東区・中央区(日本橋)・千葉県(船橋)」を拠点とする保田会計グループでは、実践的な節税提案を得意としています。そのため、節税提案に少しでもご興味がある方はお気軽にご相談・お問い合わせください。
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