近年、国内株式の配当利回りの低さや分散投資等を理由に外国株式等へ投資する人が増えてきていますが、税務上の取扱いを理解しないまま投資しているケースが散見されます。
外国上場株式の譲渡損については、同年度に生じた他の上場株式等の譲渡益と相殺することができますが、国外の証券会社を通じて行われるものは上場株式等の配当所得等との損益通算や譲渡損失の繰越しを行うことはできません。
そこで、今回はこの外国株式を譲渡した場合の取扱いについて、換算方法や外国上場株式の損益通算などを中心に解説します。
なお、個人における実践的な節税対策については、以下のサイトをご参照ください。
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国内株式を譲渡した場合の取扱い(基本的事項)
国内株式を譲渡した場合には、まずは「上場株式等」と「一般株式等」のいずれかに区分します。
✓「上場株式等」とは、証券取引所に上場されている株式や公募投資信託などを言い、2016年1月以降は、国債などの一定の債券についても上場株式等として取り扱われています。
✓「一般株式等」とは、「上場株式等」に該当しない株式等で、具体的には、非上場会社の株式や私募の投資信託などを言います。 |
この「上場株式等」と「一般株式等」の譲渡益は、どちらも同じ年中に生じた同一株式グループ内の譲渡損益と通算することができます。そして、通算した後の所得に20.315%(所得税等15.315%、地方税5%)で課税されます。
ただし、「上場株式等」と「一般株式等」の間での譲渡損益の通算は認められていません。
つまり、同年度に生じた「上場株式等」の譲渡益と他の「上場株式等」の譲渡損との損益通算は可能ですが、「上場株式等」の譲渡益と「一般株式等」の譲渡損との間での損益通算はできないということになります。
さらに、「上場株式等」の譲渡益は申告分離課税を選択した上場株式等の配当所得とも損益通算ができ、それでも譲渡損失の金額が残る場合には、譲渡損失の繰越(翌年以降3年間)も可能となっています。
一方で、「一般株式等」については、配当所得との損益通算や譲渡損失の繰越は認められていません。
外国株式の「上場株式等」と「一般株式等」の区分
外国株式についても、国内株式と同様に、まずは譲渡した株式が「上場株式等」と「一般株式等」のどちらに該当するのかを判定します。
なお、「上場株式等」は証券取引所に上場されている株式を言いますが、この証券取引所には日本国内の証券取引所だけではなく、国外の証券取引所も含まれます。
つまり、保有している外国株式が国外で上場されている株式であれば、その株式は「上場株式等」として取り扱われることになります。
なお、外国上場株式の配当金については、以下の記事で外国税額控除を取り上げておりますので、こちらもご参考になさってください。
外国上場株式の配当金の外国税額控除
外国株式の譲渡損益の計算
外国株式を「上場株式等」と「一般株式等」の区分に分けた後に、次の算定式で譲渡損益の計算を行います。
基本的には日本の株式と同様の計算になりますが、円への換算が一手間加わっています。
<基本の算定式>
①譲渡収入 -(②取得費 + ③ 譲渡経費)= 譲渡損益 |
⇩ (換算レートを加味)
<具体的な算定式>
①売却価額×売却約定日のTTB -(②購入価額×購入約定日のTTS + ③売却委託手数料など) |
算定式のTTB(対顧客電信買相場)及びTTS(対顧客電信売相場)は証券会社等が公表するレートを使用します。
また、この為替レートの変動による為替差損益は、譲渡損益に含まれることから、雑所得として認識する必要はありません。
外国上場株式等の損失の取扱い
外国株式については、「外国上場株式等」と「外国一般株式等」の譲渡益どちらであっても、国内株式と同様に同じ年中に生じた同一株式グループ内の譲渡損との損益通算は可能です。
ただし、「外国上場株式等」の損失により、「上場株式等」全体の譲渡所得の金額が損失になった場合については、その損失はなかったものとされ、国内株式では認められていた上場株式等の配当所得との損益通算や譲渡損失の繰越はすることができません。
また、上場株式等の配当所得との損益通算や譲渡損失の繰越(翌年以降3年間)の適用についても、日本国内の証券会社等を通じて譲渡した場合に限り、認められています。そのため、「外国上場株式等」では、上場株式等の配当所得との損益通算や譲渡損失の繰越もすることができません。
「外国上場株式等」の損失の取扱いについて、下表に整理しましたので、ご確認ください。
証券会社 の所在地 |
他の上場株式等の譲渡 損益との損益通算 |
上場株式等の配当所得 (申告分離課税)との損益通算 |
譲渡損失の繰越 (翌年以降3年間) |
国内証券会社 | 〇 | 〇 | 〇 |
国外証券会社 | 〇 | ✕ | ✕ |
まとめ
以上、今回は外国株式を譲渡した場合の取扱いについて、換算方法や外国上場株式の損益通算などを中心に解説をさせていただきました。外国株式の中でも、特に海外の証券会社で保有する外国株式を譲渡するケースについては、税理士等の専門家でも不慣れなことが多いです。
そのため、外国株式を譲渡した年の確定申告を専門家にご依頼・ご相談される場合には、金融所得に詳しい専門家にご依頼等することをお勧めします。
なお、金融所得に関しては、以下の記事もご参考になさってください。
特定口座は確定申告が必要かについてはこちら:
特定口座は確定申告が必要か?
特定口座で確定申告したほうがいい人についてはこちら:
特定口座で確定申告したほうがいい人とは?
外国上場株式の配当金の外国税額控除についてはこちら:
外国上場株式の配当金の外国税額控除
分配時調整外国税相当額の控除制度についてはこちら:
分配時調整外国税相当額の控除制度が令和2年より始まっています