はじめて起業する場合には、会社に何の実績もないことから、銀行等の金融機関の融資を受けることが難しい場合があります。
そこで、今回は創業時に比較的簡単に融資を受けられる公的融資制度である「新創業融資制度」をご紹介します。
なお、創業融資について、ご相談されたい方は、以下のサイトもご参照ください。
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新創業融資制度の概要
新創業融資制度とは、日本政策金融公庫の国民生活事業が行っている国の融資制度の1つです。
これから新しく事業を始める方や創業間もない方を対象にしており、無担保・無保証であることから、非常に使いやすい制度です。
新創業融資制度の特徴は下表の通りです。
対象者 | 新たに事業を始める方または事業開始後税務申告を2期終えていない方 |
資金の用途 | 事業開始時または事業開始以後に必要となる事業資金 |
融資限度額 | 3,000万円(うち運転資金1,500万円) |
返済期間 | 各融資制度で定める返済期間 |
金利 | 基準金利2.31%~3.10%(令和4年5月2日現在) |
担保・保証人 | 原則不要 |
なお、創業時に使える制度融資については、以下の記事をご参照ください。
制度融資を分かりやすく解説(公庫融資との比較)
新創業融資制度を受けるための要件
まずは、新創業融資制度を受けるための要件について、確認します。
次の3つの要件をすべて満たした場合には、融資の申し込みが可能となります。
(1)創業の要件
これから新たに事業を始めること、または事業開始後に税務申告を2期終えていないことが必要です。
つまり、既に起業している場合であっても、創業2期以内であれば対象となり得ます。
(2)雇用創出、経済活性化、勤務経験または習得技能の要件
次のいずれかに該当することが必要です。
①雇用の創出を伴う事業であること
②技術やサービスに工夫を加えニーズに対応する事業であること
③現在勤務中の会社と同業種の事業である場合には、同業種の勤続期間が6年以上であること。
④大学等で習得した技能に関連した職種である場合には、その職種に2年以上勤務していること
申請にあたって、同業種の下積み年数が多い場合には、③や④の要件、未経験の業界であれば、職員を雇い入れ、①の要件を満たすようにすることが多いです。
(3)自己資金の要件
自己資金要件として、創業資金総額の10分の1以上の自己資金が要求されています。つまり、1,000万円の融資を受ける場合には、100万円の自己資金が必要ということです。
全くお金がない方であれば厳しい要件になるかもしれません。
ただし、自己資金がなくとも次の例外のいずれかに該当する場合には、自己資金がなくとも融資を受けることができるものとされています。
なお、実際の融資額は自己資金額に依存することから、融資を希望額の満額で受けるためには、自己資金を3分の1以上は準備した方がいいと言われています。
なお、自己資金として認められるお金の範囲については、以下の記事をご参照ください。
創業融資の自己資金として認められるお金とは?
(4)自己資金要件が不要となるケース
①1期目の税務申告を終えている場合
②6年以上の勤務経験があり、現在お勤めの企業または同じ業種の事業を始める場合
③技術・ノウハウ等に新規性が見られる事業である場合
④「中小企業の会計に関する基本要領」または「中小企業の会計に関する指針」の適用を予定している場合
⑤認定特定創業支援等事業を受けて事業を始める場合
これらの要件のいずれかに該当する場合には、自己資金がなくとも新創業融資制度へ申し込むことが可能となります。
例えば、②であれば、前職と同じ業種を選ぶだけで適用がされます。また、この場合は、その業種の勤務年数は問題とはなりません。
ただし、この自己資金の要件を満たしたとしても、実際には3割~4割の自己資金がないと審査を通過することが難しいと言われています。
新創業融資制度のメリット・デメリット
新創業融資制度には、次のようなメリット・デメリットがあります。
(1)新創業融資制度のメリット
最大のメリットは、新規起業家が融資を受ける上で最大の難関である、担保や第三者による保証人が要らない点にあります。
さらに、法人に融資するということで起業家本人の個人保証も必要ないため、起業家に有利な条件で資金調達を行うことができます。
また、申請から融資実行までのスピードが速いのも大きなメリットです。日本政策金融公庫の融資審査は、通常2~3ヶ月ほどかかります。
しかし、新創業融資制度を適用すると平均して1ヶ月半ほどで融資が実行されるため、非常にスピーディーに資金調達することが可能です。
(2)新創業融資制度のデメリット
デメリットは、無担保・無保証人の新創業融資制度は、日本政策金融公庫の他の融資制度と比べると金利が上がってしまうことです。
また、融資限度額は3,000万円、うち運転資金の限度額は1,500万円と日本政策金融公庫の他の融資制度と比べると限度額は下がってしまいます。
「新創業融資制度」を使って融資を受けるときの注意点は?
起業や会社設立時に「新創業融資制度」を使って融資を受ける際に気を付けたい注意点は次の5つになります。
(1)審査に通過しないと融資は受けられない
日本政策金融公庫の「新創業融資制度」をはじめ、自治体の創業支援、金融機関、いずれも融資にあたっても審査が行われます。そして、この審査に通過しないことには融資は受けられません。
具体的な審査内容や基準を知ることは難しいですが、募集要項などを読み込み、審査内容を推測します。
また、日本政策金融公庫の創業支援事業では、自己資金だけでなく、創業計画がしっかりしていることも重要な要素であるとされていますので、創業計画を練り込んでおくことも必要です。
(2)希望する額の融資を受けられないこともある
融資申し込みの際に融資希望額の記入が求められますが、必ずしも希望額満額で審査が下りるわけではありません。
融資する機関の審査状況によっては、希望額を下回る融資になることがあることも頭に入れておく必要があります。
また、希望の融資額が通らないことも想定して、事業資金に充てられる自己資金を十分に準備しておくことが重要です。
(3)返済のため思い描く事業を展開できないことがある
融資は、利息とともに返済が必要な借入金です。起業後には、融資を受けた機関の返済計画に従って、返済していく必要があります。
創業時には事業を軌道に乗せるために何かと出費がかさむことから、返済期間や返済額によっては経営が圧迫され、思い描く事業を展開できないこともあります。
そのため、起業時にいくら必要かという観点だけでなく、月々無理なく返済できるかどうかという観点でも事前に検討しておく必要があります。
以下の日本政策金融公庫の公式サイトにある「事業資金の返済シミュレーション」を上手く活用ください。
日本政策公庫_事業資金用返済シミュレーション
(4)失敗リスク
創業融資の成功率は30%から40%程度と言われていますが、この融資の審査に1度落ちてしまうと2度目は受けづらくなってしまいます。
また、6ヶ月間は再申請することが難しくなります。
そのため、融資の申請にあたっては、手探りで申し込みを行い失敗して後悔しないためにも、融資に強い専門家から支援を受けることをお勧めします。
(5)単体での申し込みができない
新創業融資制度は単体で申し込みできないことから、以下でご紹介する他の融資制度と組み合わせて利用することで、担保と保証人なしで融資を受けることができます。
一般的には、融資制度の要件が似ている「新規開業資金」と組み合わせて利用することが多いですが、「女性、若者/シニア起業家支援資金」や「再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資)」の要件を満たしている場合には、これらの融資制度と組み合わせた方が低金利になるためお勧めです。
なお、「新創業融資制度」と同じ日本政策金融公庫の公的融資制度である「中小企業経営力強化資金」については、2020年4月に制度が変更され、使い勝手が悪くなっていますが、詳細については、以下の記事をご参照ください。
中小企業経営力強化資金(2020年4月の制度変更後)とは?
①新規開業資金
起業後7年以内の事業者に対する融資制度となります。
融資を受けるための要件が他の制度と比べると厳しくないため、この制度を利用することが一般的です。
新規開業資金の特徴は下表の通りです。
対象者 | 新たに事業を始める方、または事業開始後おおむね7年以内の方 |
資金の使途 | 設備投資および運転資金 |
融資限度額 | 7,200万円(運転資金は4,800万円) |
返済期間 | ・設備投資については20年以内(据置期間2年以内) ・運転資金については7年以内(据置期間2年以内) |
金利 | 基準金利(令和4年5月2日現在2.01%~2.8%) ※低金利の特別利率の他、起業後の利益率や雇用に関する目標を達成することによって利率を0.2%引き下げる「創業後目標達成型金利」が利用できます。 |
②女性、若者/シニア起業家支援資金
女性(全年齢)の方、35歳未満の方、55歳以上の方が起業する場合で、起業後7年以内の方が利用できる融資制度です。
新規開業資金よりも低金利に設定されているため、要件に当てはまる方は新規開業資金よりも女性、若者/シニア起業家支援資金で申し込みする方が有利になります。
女性、若者/シニア起業家支援資金の特徴は下表の通りです。
対象者 | 新たに事業を始める方、または事業開始後おおむね7年以内の方のうち、女性(全年齢)の方、35歳未満の方、55歳以上の方 |
資金の使途 | 設備投資および運転資金 |
融資限度額 | 7,200万円(運転資金は4,800万円) |
返済期間 | ・設備投資については20年以内(据置期間2年以内) ・運転資金については7年以内(据置期間2年以内) |
金利 | 特別利率A(令和4年5月2日現在で担保不要の場合は1.61~2.4%) ※低金利の特別利率の他、「創業後目標達成型金利」が利用できます。 |
③再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資)
一度事業に失敗した方がもう一度起業にチャレンジするための融資制度です。
一般的に自己破産した方や廃業経験者の方への金融機関融資は通常よりも審査が厳しく、なかなか融資を受けることができません。
再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資)では、失敗から何を得て、どのように改善していくかをアピールすることが重要です。
再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資)の特徴は下表の通りです。
対象者 | 新たに事業を始める方、または事業開始後おおむね7年以内の方のうち、次の全ての要件に該当する方 ・廃業の経験がある人が経営する法人であること ・廃業時の負債が新事業へ影響を与えない程度に整理されていること ・廃業の理由がやむ得ないものであること |
資金の使途 | 設備投資および運転資金 |
融資限度額 | 7,200万円(運転資金は4,800万円) |
返済期間 | ・設備投資については20年以内(据置期間2年以内) ・運転資金については7年以内(据置期間2年以内) |
金利 | 基準金利(令和4年5月2日現在で担保不要の場合は2.01%~2.8%) ※借入期間が7年以上になるときは、利率が上昇する場合があります。また、要件によっては、基準金利より低金利の特別利率が用意されています。 |
まとめ
以上、今回は創業時に比較的簡単に融資を受けられる公的融資制度である「新創業融資制度」を解説させていただきました。
創業融資の成功率は30%から40%程度と言われていますが、仮に審査に落ちて、予定していた資金調達が出来ない場合には、当初思い描いていた事業計画に大きな影響が出てしまいます。
そのため、創業融資を申請するにあたっては、手探りで申し込みを行い失敗して後悔しないためにも、融資に強い専門家から支援を受けることをお勧めします。
「江東区・中央区(日本橋)・千葉県(船橋)」を拠点とする保田会計グループは創業融資に力を入れています。そのため、創業融資をご検討の起業家の方はお気軽にご相談ください。
なお、制度融資については、以下の記事をご参照ください。
制度融資を分かりやすく解説(公庫融資との比較)