起業して間もない会社でも使いやすい助成金に「キャリアアップ助成金」があります。
この記事では、令和3年度(2021年度)補正予算で決定した令和4年度(2022年度)の「キャリアアップ助成金」とその中でも特に「正社員化コース」に注目して、各制度やコースの概要について、分かりやすく解説します。
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キャリアアップ助成金とは
「キャリアアップ助成金」は、非正規雇用労働者の企業内でのキャリアアップを促進するために、正社員化や処遇改善などの取り組みを実施した事業主に対して助成金を支給する厚生労働省の制度です。
このキャリアアップ助成金は、2つの正社員化コース(下記①②)と5つの処遇改善関係コース(下記③~⑦)の計7コース(令和3年度)が設定されており、全コースともに非正規社員に対する措置が対象となります。
具体的にはキャリアアップの種類によって、次のようにコース設定がされています。
①正社員化コース:正規雇用に転換 ②障害者正社員化コース:障害のある方を正規雇用または無期雇用に転換 ③賃金規定等改定コース:賃金アップ ④賃金規定等共通化コース:正社員との賃金規定の共通化 ⑤賞与・退職金制度導入コース:賞与または退職金の制度を新たに導入 ⑥選択的適用拡大導入時処遇改善コース:賃金アップと社会保険への新規加入 ⑦短時間労働者労働時間延長コース:労働時間延長と社会保険への新規加入 |
この中でも、創業期に一番使い勝手が良い「正社員化コース」について、今回は説明します。
キャリアアップ助成金は年度途中であっても制度が変更さることがありますので、最新の情報は以下の厚生労働省のWebサイトをご参照ください。
厚生労働省_雇用・労働 キャリアアップ助成金
キャリアアップ助成金の「正社員化コース」とは
キャリアアップ助成金の「正社員化コース」は、有期契約労働者等(有期契約労働者・無期雇用労働者・派遣労働者)を「正社員(正規雇用労働者等)」に転換した場合に助成されるコースです。
助成金の支給額は、「転換前が有期社員か無期社員か」、「対象になる企業が中小企業か大企業か」、また、「正社員化により生産性の向上が認められるかどうか」によって異なりますが、最大で72万円の助成金を受け取ることができます(詳細は下記の3.を参照)。
ただし、転換の対象となる従業員が雇用保険に加入してから実際に助成金が支給されるまでは、早くても1年6ヵ月ほどの時間を要するため、周到な準備が必要となります。
また、令和4年4月から「正社員」の定義が変更され、①賞与(ボーナス)か退職金の制度と、②昇給の両方が適用されているという条件が加わっている点にも注意が必要です。
「正社員化コース」の助成金額
1人あたりの助成額は次の通りです。なお、1年度1事業所あたり最大20人まで申請できます。
<助成額>
転換内容 | 中小企業 | 大企業 |
有期社員→正規社員 | 57万円(72万円) | 42万7,500百円(54万円) |
無期社員→正規社員 | 28万5,000千円(36万円) | 21万3,750円(27万円) |
( )内は生産性要件達成の場合
<中小企業の範囲>
業種 | 資本金の額・出資の総額 | 常用雇用する労働者数 |
小売業(飲食店を含む) | 5,000万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
その他の業種 | 3億円以下 | 300人以下 |
「正社員化コース」の活用を検討すべき事業主とは
キャリアアップ助成金の「正社員化コース」の活用を検討すべき事業主とは、例えば、次のような方になります。
①これから人を雇い入れようと考えている方 ②非正規労働者を正社員に登用しようと考えている方 ③派遣労働者を直接正社員として雇用しようと考えている方 |
「正社員化コース」の対象となる事業主とは
キャリアアップ助成金の「正社員化コース」の対象となる事業主は、主に次の要件を満たす必要があります。
①雇用保険に加入していること ②キャリアアップ管理者を配置し、キャリアアップ計画書を作成して労働局の認定を受けること ③キャリアアップ計画書で指定してある期間内に正社員などに転換すること ④正社員への転換制度を就業規則等に規定していること ⑤対象になる労働者を転換した後に6ヶ月以上継続して雇用し、転換前6か月間の賃金より3%以上増額させること ⑥転換日の前後6か月間に会社都合による退職が発生していないこと |
「正社員化コース」の手続きの流れ
キャリアアップ助成金の「正社員化コース」では、正社員に転換したからと言ってすぐに助成金がもらえるわけではありません。
転換の対象となる従業員が雇用保険に加入してから実際に助成金が支給されるまでは、早くても1年6ヵ月ほどの時間を要し、必要となる手続きも慣れていないと大変です。
令和4年(2022年)においても、手続きの流れは、以前と大きく変わらないと考えられますので、令和3年の流れを参考に全体の流れを確認します。
①雇用保険への加入
転換の対象となる従業員については、転換する前に非正規労働者として6ヵ月以上働いている必要がありますが、この6ヵ月とは、対象となる従業員が雇用保険に加入した日(雇用保険の資格取得日)からカウントします。
そのため、転換の対象となる従業員が雇用保険対象外になっている場合には、まずは雇用条件等を見直し、雇用保険に加入させる必要があります。
②キャリアアップ計画書を作成し、労働局へ提出
事業所ごとにキャリアアップ管理者を配置し、3年以上5年以内の計画期間を定めて、キャリアアップ計画書を作成します。
そして、作成したキャリアアップ計画書を労働局へ提出し、労働局長の認定を受けます。
なお、キャリアアップ計画書とは、いつ頃に正社員への転換を行うか、目標やその目標達成のための措置などを大まかに記載する書類です。
この書類は正社員への転換等を実施する日までに提出する必要があります。
③就業規則に転換制度を規定し、労働基準監督所へ届出
正社員等への転換についての制度を就業規則に規定として盛り込み、労働基準監督所へ提出します。
なお、就業規則の施行日は正社員転換よりも前である必要があります。
④労働者の転換
就業規則に則った試験や面接を行い、合格した者については、労働条件通知書(雇用契約書)を交付します。
転換後の労働条件・待遇は、適用される就業規則等に規定しているものと合わせる必要があります。
ここで、規定した方法以外で転換を行った場合には、助成金の支給は認められませんので注意が必要です。
さらに、転換後6か月間の賃金が転換前6か月間の賃金と比較して、3%以上増額している必要もあります。
⑤転換後6ヶ月間雇用を継続した後に支給申請
転換後6ヶ月間雇用を継続し、6ヶ月分の賃金を支給した翌日から2ヶ月以内に労働局へ支給申請を行います。
なお、時間外手当を基本給とは別に翌月に支給している場合については、6ヶ月分の時間外手当が支給される日を賃金を支給した日とします。
⑥審査を経て支給決定
審査では、提出した書類(労働者名簿、賃金台帳、出勤簿、雇用契約書、就業規則)について労働法令の違反がないか等のチェックがされます。
時間外手当の計算から出勤簿との整合性など細かく審査され、不明瞭な部分があれば追加で資料の提出を求められます。
申請から支給決定までは2ヵ月から6ヵ月ほどかかり、審査を通過すると支給決定の通知書が交付され、ようやく助成金が支給されます。
「正社員化コース」の申請期間
キャリアアップ助成金については、特定の公募期間は定められていません。
そのため、キャリアアップ助成金の「正社員化コース」は年間を通じて申請ができます。
キャリアアップ助成金以外の助成金等
キャリアアップ助成金以外にも次の助成金等があります。
①人材開発支援助成金
人材開発支援助成金とは、雇用する労働者のキャリア形成を効果的に促進するため、職務に関連した専門的な知識及び技能を修得させるための職業訓練等を計画に沿って実施したり、教育訓練休暇制度を適用した事業主等に対して助成する制度を言います。
詳細は以下の記事をご参照ください。
令和4年度(2022年度)の人材開発支援助成金を分かりやすく解説
②各融資制度
助成金の獲得が難しい場合には、小規模事業者持続化補助金やものづくり補助金等も考えられます。
また、助成金や補助金が難しい場合には、融資や出資を受けることも検討できます。
詳細は以下の記事をご参照ください。
創業時に使える資金調達方法を網羅的に解説(融資・出資・補助金・助成金)
まとめ
以上、今回は令和3年度(2021年度)補正予算で決定した令和4年度(2022年度)の「キャリアアップ助成金」とその中でも特に「正社員化コース」に注目して、各制度やコースの概要について解説させていただきました。
この「キャリアアップ助成金」は申請自体の難易度はそこまで高くはないですが、就業規則や雇用契約書等が未作成であったり、助成金をもらうまでの全体のスケジュールがかなり長丁場となることから、専門家と念入りに打ち合わせを行い、計画的に申請することをお勧めしています。
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