バー、スナック、キャバクラなどの経営者から、よくある質問の一つに『ホステス等に対する報酬の所得は「事業所得」もしくは「給与所得」のどちらになるのか?』があります。
昔はホステス等に対する報酬は「事業所得」としての外注費処理が一般的でしたが、近年の裁判では、ホステス等に対する報酬は「給与所得」に該当するとされた判決が多くでており、実務では非常に悩まされる論点になっています。
そこで今回は、「事業所得か給与所得かの違いによる影響」や「源泉徴収の計算」、「ホステス報酬の所得区分判定」などについて、詳しく解説します。
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「事業所得」か「給与所得」かの違いによる影響
ホステスに対する報酬について、「事業所得」になるケースと「給与所得」になるケースがあります(詳細は後述)。
この所得の違いによって、支払者である事業主やホステス本人にとって、どのような影響が生じるのかを以下で確認します。
(1)事業主への影響
事業所得と給与所得の違いによって、バー、スナック、キャバクラの事業主に次のような影響が生じます。
①源泉徴収の種類(報酬or給与)
所得税法204条に源泉徴収しなければならない報酬料金として、「キャバレー、ナイトクラブ、バーその他これらに類する施設で、フロアにおいて客にダンスをさせ又は客に接待をして遊興若しくは飲食をさせるものにおいて、客に侍してその接待をすることを業務とするホステスその他の者(以下「ホステス等」という。)のその業務に関する報酬又は料金」が規定されています。
また、所得税法の同条には「源泉徴収すべき報酬料金であっても、給与所得に該当するものについては、その報酬の源泉徴収の規定は適用されず、別途、給与として源泉徴収の対象となる」旨も規定されています。
そのため、「給与所得に該当するホステス報酬等」については、給与として源泉徴収税額を計算し、それ以外の「給与所得に該当しないホステス報酬」については、報酬として源泉徴収税額を計算します。
なお、このホステス等の範囲には、「水商売のキャスト」は含まれますが、「バーテンダー」や「配膳人」の報酬は含まれないとされています(「源泉徴収のあらまし」参照)。
また、源泉徴収の具体的な計算は後述の記載をご参照ください。
②消費税の仕入税額控除の対象か否か
ホステス報酬が事業所得に該当する場合には、その報酬等は消費税の課税対象になり、その報酬等の支払をする事業者の消費税の計算上、仕入税額控除の対象とすることができます。
一方で、ホステス報酬が給与所得に該当する場合には、その報酬等は消費税の課税対象にならず、仕入税額控除の対象とすることもできません。
この点、一般的に人件費割合が高いとされている水商売系の業種には、大きな影響があります。
なお、令和5年10月から開始するインボイス制度の下において、インボイス(適格請求書)発行事業者に登録していないホステスへの支払いについては、原則、仕入税額控除の対象とすることができないことから、注意が必要です(2029年9月までは免税事業者との経過措置あり)。
消費税の課税区分の判定(課非判定)については、以下の記事もご参照ください。
消費税の課税区分の判定(誤りやすい事例)
③社会保険及び労働保険の適用の有無
ホステス報酬が事業所得に該当する場合には、社会保険及び労働保険の適用はありません。
一方で、ホステス報酬が給与所得に該当する場合には、社会保険及び労働保険の適用があります。
また、社会保険及び雇用保険は保険料の半分が会社負担となり、労災保険にいたっては保険料の全額が会社負担となることから、会社にとっては法定福利費の負担が必要となります。
この点、一般的に人件費割合が高いとされている水商売系の業種には、大きな影響があります。
なお、社会保険の手続きについては、以下の記事をご参照ください。
会社設立後の税務関係手続・社会保険関係手続
(2)ホステス本人への影響
事業所得と給与所得の違いによって、ホステス等本人に次のような影響が生じます。
①申告手続き
ホステス報酬が事業所得に該当する場合には、原則としてホステス等が自分自身で確定申告をすることになります(税理士への依頼も含む)。
また、原則として、ホステス等にける2年前の課税売上が1千万円を超える場合やインボイス(適格請求書)発行事業者に登録している場合には、消費税の申告も必要となります。
一方で、ホステス報酬が給与所得に該当する場合には、年末調整等で課税関係が終了し、医療費控除を受ける場合等を除き、原則として確定申告は不要となります。
②必要経費か給与所得控除か
事業所得の場合には、収入を稼ぐためにかかった直接の経費が必要経費となります。
一方で、給与所得の場合には、経費の実額を控除することはできず、所定の給与所得控除額だけを控除することとなります。
具体的な所得の計算式について、ホステス報酬が事業所得に該当する場合には、「総収入金額-必要経費」となり、ホステス報酬が給与所得に該当する場合には、「給与の金額-給与所得控除」となります。
この給与所得控除額は、給与等の収入金額に応じて、次のようになります。
給与等の収入金額 | 給与所得控除額 |
1,625,000円まで | 550,000円 |
1,625,001円~1,800,000円 | 収入金額 × 40% – 100,000円 |
1,800,001円~3,600,000円 | 収入金額 × 30% + 80,000円 |
3,600,001円~6,600,000円 | 収入金額 × 20% + 440,000円 |
6,600,001円~8,500,000円 | 収入金額 × 10% + 1,100,000円 |
8,500,001円以上 | 1,950,000円(上限) |
③社会保険の負担
ホステス報酬が事業所得に該当する場合には、国民健康保険と国民年金に加入し、一方で、ホステス報酬が給与所得に該当する場合には、健康保険と厚生年金に加入することなります。
保険料と年金の合計負担額について、700万円を超える方は事業所得の方が安くなることが多いです。
④手取り額
ホステス報酬が事業所得に該当する場合には、源泉所得税が天引きされます、
一方で、ホステス報酬が給与所得に該当する場合には、源泉所得税や社会保険等が天引きされます。
そのため、ホステス等にとっては、事業所得と給与所得のどちらに該当するかで、目先の手取り額も変わってきます。
天引きされる金額については、以下の記載をご確認ください。
源泉徴収の具体的な計算
源泉徴収の計算式や具体的な計算例等は次の通りです。
(1)事業所得(所得税法204条の報酬)の場合の源泉徴収の計算式
ホステス報酬の源泉税は下記のように計算します。
ホステス報酬の源泉 = (報酬 ※ - 計算期間の日数 × 5,000円) × 10.21%
※ 請求書等で報酬の金額と消費税等の額が明確に区分されている場合には、消費税等の額を除いた報酬の金額のみを源泉対象としても差し支えありません。 |
上記の「計算期間の日数」とは、ホステス報酬の支払金額の計算の基礎となった期間の初日から末日までの全日数を言います。
(2)事業所得(所得税法204条の報酬)の場合の具体的な計算例
例えば、ホステス等報酬について、4月分(営業日数24日間、ホステス等の出勤日数15日間)の報酬50万円を支払う場合の源泉所得税は次のように計算します。
(50万円―15万円 ※ )×10.21%=3万5,735円
※ 15万円は5千円×30日間(計算基礎期間の4月1日から4月30日)で計算し、営業日数( 24日間 )や出勤日数(15日間)は考慮しません。
(3)給与所得(所得税法204条の報酬)の場合の具体的な計算例
例えば、ホステス等への給与について、50万を支払う場合の源泉所得税は次のように計算します。前提として、扶養親族の数はなしで、社会保険料率は15%とします。
源泉所得税の計算は、50万円から社会保険料7.5万円(50万円×15%)を差し引いた42.5万円に対して、税額表の甲欄に当てはめることで、18,710円となります。
また、副業の場合に適用される税額表の乙欄に当てはめることで、源泉所得税は105,200円となります。
(4)事業所得と給与所得の源泉所得税の比較
上記の計算例の通り、給与の乙欄で課税される場合には、源泉徴収税額は大きくなります。
乙欄で課税されるのは、基本的に副業の給与所得となりますので、例えば、OLがアルバイト感覚で夜にホステスをする場合には、乙欄となります。
また、仮にホステスで5日間働き15万円の収入を得た場合には、その収入が事業所得の場合、源泉所得税は0円となりますが、給与所得で乙欄課税の場合、源泉所得税は8,700円となります。
そのため、税務署の調査官目線では、ホステス等報酬は事業所得ではなく給与所得の乙欄として課税した方が税金が取れるということになります。
ホステス報酬の所得区分判定(事業所得or給与所得)のポイント
ホステス報酬の所得区分判定(事業所得or給与所得)のポイントは次の通りです。
(1)事業所得と給与所得の判断基準(昭和56年の最高裁判決)
キャバクラ店で働くキャストへの報酬が事業所得か給与所得か争われていた事件について、令和2年9月1日の東京地裁で給与所得に該当するとの判決が確定しています。
この判決で、所得区分の判断基準として用いられた昭和56年の最高裁判決の内容をまずは確認します。
給与所得 | 雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付。
取り分け,給与支給者との関係において何らかの空間的,時間的な拘束を受け,継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり,その対価として支給されるものであるかどうかが重視されなければならない。 |
事業所得 | 自己の計算と危険において独立して営まれ,営利性・有償性を有し,かつ,反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得。 |
(2)具体的な判定項目
上記の判定基準のもと、具体的には,下表の判定項目により、ホステス等の「契約形態」や「勤務形態」、「報酬の計算方法」、「保証」等の個別の事情を総合的に勘案して、所得区分の判断を行うことになります。
判定項目 |
給与 | 報酬 | |
契約形態 | ホステスとの契約が、雇用契約又はこれに準ずる契約等に基づいているか(実質判断) | Yes (雇用契約) |
No (業務委託契約) |
勤務形態 | ホステスが事業者の指揮命令に服し、何らかの空間的、時間的な拘束を受けているか
・事業者が出勤の可否を毎日確認しているか |
Yes | No |
報酬の計算方法 | 継続的ないし断続的に労務又は役務の提供をし,その対価として金員の支給を受けているか。
・ホステスへの支給額は接客時間等を基準に算出されていないか |
No | Yes |
保証 | ホステスの業務が自己の計算と危険において、独立して営まれているか
・採用間もない一定期間であっても、ホステスに対して一定額の支給が保証されるようなことはないか |
No | Yes |
(3)給与認定を避けるポイント
ホステス等への報酬については,「雇用契約又はこれに類する原因に基づき,空間的,時間的な拘束を受け,継続的ないし断続的に労務又は役務の提供をしていた」場合には、給与に認定されるリスクが非常に高まります。
できるだけ、この給与認定のリスクを低減させるためのポイントは次の通りです。
①タイムカードでの管理をしない ②報酬の計算を時給でしない ③最低保証を設けない ④ホステス自身に衣装代、美容代、同伴時の費用などのコストを負担させる ⑤売掛金の回収責任をホステスにもたせる ⑥雇用契約でなく請負契約を締結する ⑦報酬はホステス自身に請求させる ⑧ホステスに事業所得者として確定申告させておく |
(4)その他の判定材料
その他の判定材料として、類似のケースでの以下の取扱いが参考になります。
①プロ野球選手の参稼報酬(年俸)の所得基準
プロ野球選手の参稼報酬は年額で定められ、その支払は一般的に12か月で按分して毎月支給されることが多いことから、給与所得へ該当しないか否かが論点となります。
ここで、プロ野球選手の報酬は、その者の人気や成績に応じて、増減されるものであり、芸能人の出演報酬と何ら変わらないことから、事業所得とされています。
そのため、ホステス等もプロ野球選手と同様に人気や成績に応じて、報酬が決まる場合には、事業所得の該当性に有利に働くことが考えられます。
②外交員または集金人の固定給と変動給の所得基準
外交員または集金人の業務報酬については、固定報酬と変動報酬がある場合、固定報酬部分は給与所得に該当し、変動報酬部分は事業所得に該当します。
さらに、固定報酬部分であっても、一定期間の募集成績等で自動的にその額が決まるものや、自動的にランク付けされる資格に応じてその額が決まるものは事業所得として取り扱うこととされています。
そのため、ホステス等報酬も外交員等の固定報酬部分と同様に事業者への貢献度や成績に応じて、自動的にランク付けされる資格に応じてその額が決まる場合には、事業所得の該当性に有利に働くことが考えられます。
まとめ
以上今回は、「事業所得か給与所得かの違いによる影響」や「源泉徴収の計算」、「ホステス報酬の所得区分判定」などを解説させていただきました。
仮に、事業所得として処理していたホステス報酬が、税務調査で給与所得と認定された場合には、源泉所得税の徴収もれや、消費税の仕入控除の否認などで、追加の税金を支払う可能性があります。
そのため、ホステス等報酬について事業所得とする場合には、今まで続けてきた処理であっても、上述の判定項目に当てはめ、慎重に判断する必要があります。
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